もう一人のぼくでないぼくへ
ぼくの誕生日はぼくだけのものではない。
それを恨めしく思う時期もあった。
ぼくには見かけはそっくりな弟がいる。ただ、弟はぼくと違って聡く、要領がいい。
一緒にいても褒められるのは弟の方。ぼくはいつもしかられてばかりだ。
「こんなに似ているのだから、全て同じにしてくれれば良かったのに」
いつかそうぼくが言ったら、弟は困った笑顔を浮かべて、
「ぼくはお兄ちゃんが大好きだよ? だからお兄ちゃんでなくなったら悲しい」
と言った。
しかし、弟はわざとぼくを真似るようになった。二人で怒られて、下を向きながらお互い目配せをして、ペロリと舌を出す。 それはそれで楽しいけれど、弟まで怒られる必要はない。だからぼくは言った。
「真似しなくて良いよ? ぼくも君が大好きだから」
どちらが怒られようが、褒められようが、ぼくたちにはどうでもいいことなのかもしれない。ぼくたちは互いのことを認めている。互いに大好きなのだ。それは決して揺るがないだろう。それで十分なのだ。
ぼくたちは見かけは似ている。でも本質はどこか違う半身同士だ。誕生日は同じでも。
「誕生日おめでとう」
ぼくたちは同じ日にそう祝福される。
きっと最もぼくの誕生を喜んでいるのは弟だろう。そして、ぼくも弟の誕生を誰よりも祝う。
年をとるたび、いつまで一緒にいられるか考える。でも、きっと大丈夫。ぼくたちは離れても心は誰よりも近しい。
「一緒に生まれて来てくれてありがとう」
了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます