第12話 招待状

 食事をした日から、誠治はしばらくセンリに会えなかった。単に誠治もセンリも忙しかったのだ。相変わらずセンリがどんな仕事をしているのかはわからないが、メールや電話の様子からすると、随分きつい仕事のようだ。

 そんな状態で土日に遊びに来るかと誘いづらかったのだが、そうも言っていられない事態に陥った。

「そういや、もうそんな季節か」

 目の前に置いてある二通の招待状を見て、それからカレンダーを見る。そういえば十一月頃に式を挙げると言っていた気がする。そのためにセンリを同行させようと百貨店に連れ出して、それから付き合うことになって。

 一通り時の経過を反芻して、誠治はため息をつく。それからようやく、携帯電話を手に取った。案の定、五回コールする前にぶつりと音が入る。

『小山田さん?』

「ああ。今いいか?」

『大丈夫だよ。今日はお休みだし』

「そうか。……今からうちに来ないか? 話がある」

『え、本命でもできた?』

 その言葉に、誠治は頭を抱えたくなった。

「どうしたらそういう発想になるんだ。いいから、暇なら来い」

『はーい』



 電話を切ってから一時間ほどして、センリはやってきた。白いスカートなところを見ると、電車で来たらしい。いつも見る白いスカートに見た目は近いが、地面近くまである裾が随分と上にある。

「どうしたんだ、それ」

「ん? ああ、変でしょ。ご隠居に買ってよって言ったら、こんな短いの買って来ちゃって。私が足出したくないの知ってるくせに、ひどいよね」

「変じゃねえし、それくらいでいいだろ」

「いーや。足怪我したらはけなくなるし」

「怪我するようなことがあるのか?」

「ありますよー。肉体労働ですし。で、あがっていい?」

 そういえばまだあげていなかったかと、誠治は入れと道を譲る。センリは何かぶつくさ言いながら、靴を脱ぐ。

 居間に通し、ソファに座らせ、その前にあるテーブルに招待状を置く。

「何これ」

「もう忘れてるだろうが、姉の結婚式の招待状だ」

 すると、センリはああと言いつつ招待状を手に取る。

「宛名がないけど」

「付き合ってる女がいるなら連れてこい、宛名は自分で書け、だそうだ」

 誠治宛に来た招待状を見せると、センリはなるほどと笑う。

「で、ついにその時が来たぞと。一ヶ月後か。お休みそこにあわせないと」

「あと、体重は変わってないよな」

 訊ねると、センリは顔色を曇らせる。

「小山田さんそれ他の女の子に言ったらだいぶ失礼だからね」

「お前はこれくらいの言い方でも問題ないだろ」

「掴みすぎでしょ。で、体重って、もしかして八月に買ったアレのこと?」

「ああ」

「なるほど。まあ体重は変わってないつもりだけど、一応着てみますかね」

「持ってくるから待ってろ」

「いや、自分でしまったから、自分で探してきます、っていうか着てみるから」

 そうだっただろうかと記憶をさかのぼるが、いまいち記憶にない。

「小山田さんは私のためにお茶でも淹れて待っててよ」

 手を振り、センリは奥に消える。



 あまりに遅いなと思い、誠治は家を見て回る。

「あー、これはまずいな」

 洗面所の方からそういった声が聞こえたので、そこかと誠治は足を向ける。見ると、鏡の前で八月に買った服を着て、何やら悩んでいるようだった。

「どうかしたのか」

 声をかけると、センリはいやねとこちらを向く。

「どう思う?」

 訊ねられ、上から下まで見て、今度は下から上へと視線を戻したところで、誠治はセンリの言いたいことを漠然とだが理解した。

「細いな」

「でしょ? 来月までに太らないと」

「新しいの買った方がよくないか?」

「いや、大丈夫」

 そうは言うが、どう見ても胴のあたりは余っている。

「買った方が早いだろ」

「体型維持より太る努力か痩せる努力のどちらかの方が楽だから、この服でいいよ」

「そうか」

「よし、じゃあ着替えるから、小山田さんは向こう行きなね」

 センリに追い出され、居間に戻る。

 戻ったところでふと思い出し、仕事用の鞄を開く。内側のポケットに入れていたものを取り出し、これのこともあったなと息をつく。

 唆されて作ったのだが、今思えば作る必要はなかったのではないかと後悔している。しかし作ってしまったものは仕方ない。渡すかどうかしなければ。

「鍵?」

 戻ってきたらしいセンリに話しかけられ、ああと頷きつつ振り向き、センリの手を取り、その手の平の上にそれを置く。

「やる」

「え?」

「姉がついでにと送ってきたものだ」

 適当な嘘もつけて握らせると、センリは訝しげに眉根を寄せる。

「つまり、この家の鍵?」

「そうなる」

「なんで私に?」

「いるかと思って」

「いるって言った記憶はないんだけど」

「奇遇だな、俺も聞いた記憶がない」

「はあ」

「いらんなら置いとけ」

「はあ」

 曖昧な返事をしつつも、その辺に置いたりしないということは、貰うということだろう。

 それに満足していると、まだ誠治が触れている手をじっと見て、センリは首を傾げる。

「どうした」

「や、ありがとうとかそういった言葉をすごーく言いにくいなあって」

「そうか」

 つまり、センリもそれなりに喜んでいるということか。それは重畳。

「小山田さんお昼は?」

「まだだな」

「何かリクエストあるなら作りますよ」

「任せる」

「じゃあ、何か適当に」

 では己は畑の様子でも見るかと、センリから離れた。

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