第10話 嫌な男

 休憩所に置かれているカレンダーを見て、そう言えば来週は連休かと思い出した。つい最近旅行をしたばかりだがセンリは遊びに来るだろうかと、誠治は携帯電話を取り出す。電話をかけると、二回コールが鳴ったところでもしもしという声が聞こえた。

「今大丈夫か?」

『うん、今なら休憩中だから大丈夫だよ。どうかした?』

「今度の連休はどうすると思ってな」

『あ、あー、それね』

 センリの気まずそうな声に、誠治はおやと思う。

「用事があるのか?」

『いや、お休みしたいのはやまやまだし、小山田さんとこ遊びに行きたいなあとは思うんだけど、うーん』

「随分歯切れが悪いな」

『えーと、うん、ごめんね。仕事入れられちゃって。代わりに十月頭にお休みくれるらしいんだけど』

「そうか。なら仕方ないな」

『本当にごめん。今度埋め合わせするから』

「気にするな。頑張れよ」

 電話を切ってから、誠治はため息のようなものを細く吐き出す。

「俺も仕事するか」

「それは無理だな」

 突如聞こえた声に、誠治は嫌そうに背後を見る。黒いジャケットに黒いシャツ、黒いネクタイと黒一色の装いがいやに似合っている美形の男が親しげにも嫌味にも見える笑みを浮かべて立っている。誠治の属する課の上、部門の長である古沼蔵人(こぬまくらひと)だ。

 誠治はこの男がとても嫌いだ。気障ったらしい物言いで包んだ嫌味やどうとでも受け取れる表情、こちらを値踏みするような視線など、嫌いなところをいくつも挙げられるが、正直なところそれは全て後付の理由だ。誠治は初めて会った時からこの男を気に食わない、嫌いだと思っているのだ。生理的に受け付けないというか、とにかく関わりたくない、二度と会いたくないと強烈に思うほどの嫌悪を感じたのだ。そのため、この男に会う度に転職しようと誠治は考えるのだが、そう思った矢先に忙しくなり転職先を考える時間さえ奪われるのだ。あくまで偶然だろうとは思うが、それでも誠治は古沼の何らかの関与を疑い続けている。

 姿を見てチッと舌打ちをすると、古沼はやれやれと言いたげに首を振る。

「君は相変わらずだな」

「何か御用ですか」

「君の今の電話が聞こえてね。大方休日対応の誰かに声をかけようとしたのだろうが、残念ながらそれはできない」

「あ? 規則的には問題ないはずですが?」

「何、もっと別の問題だよ。全社への連絡はこれからだが」

 そう言って、古沼は一枚の紙をこちらに見せる。そこには『ビル点検による全部門休業のお知らせ』とあった。期間は丁度来週の連休の間となっている。

「このビルの点検に何日もかかるものか?」

「それはもっと上か、点検業者に文句を言いなさい。とにかく、来週の連休は会社は開いてないから、仕事はできないという話だ」

「そうですか」

 では連休は畑の手入れでもするかと思いつつ休憩所を出た。

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