第19話 骨は拾ってあげるから
ログインするとすぐにランスさんを探しに行こうと思ってた。
予定ではすぐに探し当てて、言いたいことを言うつもりだった。
だけど予定って、狂うものね。
スミカじゃなかった。
エステルに捕まっちゃった。
「リナリアちゃん、珍しいね。土曜だからって、こんな時間にログインするなんて」
あたしの背が高いせいもあるんだけどニヤニヤしながら、上目遣いに見つめてくるエステルの破壊力は相当高いと思う。
スミカは普段、おさげにしてて、野暮ったい眼鏡をかけてることが多い。
彼女の素顔がめっちゃかわいいのはあたしや親しい友人しか、は知らないのだ。
今はエステルだから、眼鏡もかけてないし、髪もおさげを解いて下ろしてる。
美少女度、半端ないわね。
「あはっ、そ、それがね。ちょっとやりたいことがあるのよ」
「やりたいことですか? 私に話せること、それとも駄目なやつ?」
あたしはちょっと迷ったけどスミカになら、話してもいいと思った。
タケルとのことを包み隠さず話している訳だし、彼女に秘密にする理由なんて、ないと思ったから。
「実はね。ランスさんにあたしがアリスだって、打ち明けようと思うの。駄目かな?」
「そっかぁ。打ち明けるのね。アリスちゃんがそれでいいと決めたのなら、私は応援するよ」
「スミカ……ありがとう。あたしね、決めたの。迷って、うだうだ考えるより、当たって砕けた方があたしらしいんじゃないかって」
「頑張って、アリスちゃん。骨は拾ってあげるから」
エステルはあたしと同じ年とは思えない慈愛に満ちた静かな微笑みを浮かべて、そう言ってくれた。
あたしはそれを励みに気合を入れ直すとランスさんがいるだろうあの丘に向かう。
女は度胸!
👧 👧 👧
「ホントにいるし!」
あたしがランスさんと初めて冒険に出た夜、きれいな場所があるからと教えてくれた丘。
何をするでもなく、ランスさんはあたしに背を向けて、佇んでいた。
あの時は夜だったから、周りの景色も闇に紛れて、見えなかった。
今日は天気もいいし、日中だからはっきりと見える。
丘を彩るように様々な花が咲き乱れていて、天然の花園がそこに広がってた。
まるで極彩色の絨毯を敷き詰めたみたいできれい。
丘から周囲を見渡すと遥か遠くに新緑のきれいな森林が広がっていた。
そこから、目を離すと陽光に反射した
写真や絵画にしたい風景だわ。
「ランスさん、こんなとこにいたんですね」
「リナさん? あれ……おかしいな、やっぱり違ったのかな」
ランスさんがゆっくりと振り返り、妙なことを口走った。
やっぱり違う?
って、もしかして、あなたも気付いてたのかな。
「あたしね、あなたに隠していたことがあって、もうそういうのは嫌なの。だから……」
「は、はい? 隠していたこと、ですか?」
あたしはそう言うと目深に被っていたフードを脱いだ。
その時、一陣の風が吹いた。
わざとまとめてアップにしていなかったストロベリーブロンドの長い髪が激しく靡く。
「ね? 分かったでしょ。あたしだったのよ」
「ア、アリス!? あれ? だって、君は外出したんじゃ」
「だから、ランスさんも嘘はやめようよ。そうでしょ、タケル」
「気づいてたんだね。いつから?」
ランスさんがバケツ頭を脱いだ。
そこにあったのはあたしの良く知っている顔。
あたしが好きで好きでたまらない人の顔だ。
「あたしが顔を隠している時、声がかわいいって言ったでしょ? そんなこと言うのタケルしか、いないのよ。まさか知らなかったの?」
「そ、そうなんだ。知らなかったよ。だけど声がかわいいなんて、他の女の子に言った自分が許せなかったんだ。アリスに悪いと思って」
あたしの声はやや特徴がありすぎて、難があるみたい。
いわゆる鼻声?
鼻が詰まってるんじゃないけど、ちょっと鼻が詰まってるみたいで舌足らずなのだ。
ネットでエゴサーチすると出てくるのは『声が残念』『天は二物を与えず』なんだよね。
うちの社長さんもあたしが声にコンプレックス持ってるのを知ってるから、声のお仕事だけは断ってくれる。
そんなあたしの声を聞いて、かわいいと言ってくれてるのは世界でたった一人だけ。
タケルだけだもん。
気付かない方がおかしいでしょ?
付き合い長いんだからね。
「でも、言われたのはあたしでしょ? 他の子に言ったんじゃないもん。だから、気にしなくたって、いいの。あたしが言ってるんだから、いいの」
そして、あたしはタケルの側に近付いた。
息がかかるくらいの近さまで近づいてから、もう迷わないと心に決めたことを言う。
タケルが幸せになりさえすれば、いいのよ。
「タケル……迷惑かもしれないけど、あたし……あなたのことをずっと前から、好き」
彼にとっては迷惑な告白だと思う。
好きな子がいるのにこんなこと言う女なんて、嫌いになるよね。
ううん、嫌いになってくれなきゃ、困る。
好きな人には幸せでいてもらいたいから。
「だから、絶対に幸せになってね……さよなら」
涙が溢れてきて、タケルの姿が滲んで見えにくい。
それがまるでもう、タケルの姿を見ちゃいけないって言われてるような気がしてくる。
涙が零れ落ちるのが止まらない。
だけどもう、ここにいちゃいけない。
あたしはもう決めたんだから、とタケルの胸に軽く手をついて、その反動を利用して勢いよく、彼の元を離れようとした。
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