第18話 一人じゃない

「子供が夜遊びとは感心しねえな どこから来たかお兄さんに教えてくれねえか?」


 リンと双子の戦いに、遅れたバトラーが参戦する。


 すると空に居るカストルの下へ、地上のポルふクスが飛び去った。


「……空飛べるのズルくないか?」


「僕達も負けてられないね さあ! バトラーの力で一っ飛……」


「在庫にねえな」


 残念ながらそんな魔法は無いと、バトラーは言う。


「兄様 どうやら出揃ったようです」


「そのようだな弟よ だが俺達の前には誰が来ようが関係無い」


「その通りです兄様」


 風向きは変わらない。たとえ一人増えようと、自分達の勝利を確信している。


「子供二人に手こずりやがって ちょいとお仕置きするだけだろうが」


「でもあの双子強いよ めちゃくちゃに」


「……マジで?」


「ウン」


 てっきり苦戦しているのは子供とは戦いづらいだけかとばかり思っていたバトラーは、リンが即座に頷いた事で、事の重大さに気づく。


「……よし どうやって逃げるか考えるぞ」


「さっきまでの威勢は?」


「捨てた」


 なんのプライドも無く、勝てそうに無いのなら即座に撤退するのがバトラーである。


「コンビネーションにはコンビネーションを 僕達の力見せてやろうよ」


「フハハハッ! 聞いたかポルクス? 俺達に対して"コンビネーション"を語っているぞ?」


「"荒唐無稽"ですねカストル兄様 僕達二人に勝つだなんて大人でも無理なのに」


「流石は俺の弟だ 難しい言葉を知っていて兄として鼻が高い!」


「嬉しいです兄様」


 空中で繰り広げられる兄弟間での褒め合いを見て、バトラーは困惑していた。


「どんだけ仲が良いだよ」


「双子なんだって 恐ろしい程に息ピッタリ」


「そうだとも! 一人増えたのならもう一度名乗りを上げるとしよう!」


「そうですね兄様 三度目なので短く簡潔に」


(あの子達名乗るのが好きなんだなぁ)


 頼んでもいないのに意気揚々と、自分達が何者であるかを言いたがる双子を見てのリンの感想である。


「我が名は『カストル』 "双子座の兄"っ!」


「我が名は『ポルクス』 "双子座の弟"っ!」


「「"宙に瞬く不滅の絆"! それが我ら──『双子座のデュオスクロイ』であるっ!」」


 リンからすれば三度目の名乗りであるにもかかわらず、何度でも彼らは名乗る。


 アレンジを加えた簡易版。どうやら毎回名乗りを変えているようであった。


「またまた決まってしまったな弟よ……特に"不滅の絆"のフレーズが気に入った」


「僕も同意です兄様 次名乗る時にも使いましょう」


「あのまま満足して帰ってくれねえかなぁ」


 宙ではしゃぐ双子にそう願うも、叶いそうに無い。


「では往こう──我ら双子に"ジェミニの加護"あれ」


 カストルに握られた銃剣が、狙撃する為構えられる。


「次こそ仕留めます──我ら双子に"ディオスクーロイの祝福"があらん事を」


 ポルクスは急降下し、銃剣で斬り裂く為に襲いかかった。


「付与術式展開! "ブースト"ッ!」


 迎え打つ為に、バトラーはリンの身体能力を強化する。


「オレを守れよリン! じゃなきゃ負けちまうぞ!」


「ちゃんと守られなよバトラー じゃないと勝てないからね」


 バトラーの補助を受ける事で、なんとかポルクスの剣戟を捌いてみせる。


 リン一人の時では躱すだけで精一杯であったが、強化のおかげで先程よりも攻めに転じる事が出来た。


「やるじゃない お兄さん?」


「これも相棒のおかげさ」


「──嫌いじゃないよ そういうの」


 狙いを変えてバトラーを襲う。素早い一閃も、今のリンならば辛うじて対応出来る。


「……悪い子だなぁ」


「だからちゃんと守ってね」


 腕力だけであれば勝る為、かろうじて受けられるが、すぐに距離を取られ間合いから離れてしまう。


 すかさず銃弾を撃ち込まれ、追うにしても近寄れない。


「風の魔法か……だったらコッチも乗ってやろうか!」


 魔法陣がリンを囲う。光を放ち、新たな力をリンに宿す。


「荒ぶれ烈風! 近づく者を吹き飛ばせっ!」


 風の魔法が与えられたリンの速度は高まっていく。劣っていた素早さが、僅かながら追いつくまでに。


「"付与術師エンチャンター"とは厄介な……ポルクスの速さを抜こうなど許さんぞ」


 銃口がバトラーへと向けられる。狙いを定め、術式を解く為に引き金を引く。


「どわっ!?」


 足元へ放たれた弾丸を見て、急いでその場を離れる。


「逃げ腰とは拍子抜けだぞ? お前の相手は俺がするというのに……なぁ!?」


 嬉々とした表情で、銃口をバトラーへ定められる。バトラーは慌てて路地裏へと逃げ込み、身を隠す為に走り出す。


「殺し合いなんざパスだ! しかも宙に居る奴なんかに勝てるかよ!」


 逃げ込んだとはいったものの、空中に浮かび狙いを定めるカストルからすれば遮蔽物などあって無いようなものである。


(ガンブレードなんて奇特な代物使いやがってちくしょう! ちょっとカッコいいじゃあねえか!)


 走りながらそんな事を考えているが、状況は芳しく無い。


(夜目が効いて無いことを祈るしかねえが……たぶん期待出来ねえしな)


 その証拠に逃げ込んだ暗い路地裏でさえも、カストルの狙撃が鈍る事なく、バトラーに狙いを定めていた。


(分断は出来たが ここからは俺が耐えるしかねえ)


 流石のリンでも強敵を相手にして、同時に戦える程甘い相手でない事は分かっている。


 ならば今出来るのはリンがポルクスに勝つと信じ、バトラーは合流されないよう逃げ続ける事がベストだと判断したのだ。


「ゲッ!?」


 しかし逃げ込んだ先が悪かった。よりにもよって逃げ込んだ先は袋小路。その上逃げにくい事に木箱や樽などの物が散乱してしまっている。


「調査不足だな バウムガルト・トラートマン二等兵」


 地上に降り、カストルは逃げ道を塞ぐ。


「ポルクスもそろそろ仕留めた頃合いだろう 諦めろ」


「……調査不足はお前だぜ クソガキ」


 追い込まれ状況であっても、"相棒が戦っている"のなら諦められる筈がなかった。


「アイツが一人戦ってる時に……オレが諦めたらカッコ悪いだろうが」


 リンと同じく、諦めの悪さはバトラーも負けてはいない。

 たとえいつも振り回されていようが、その程度では落ちぶれはしない。全て自分が決めるのだ。


「これでもオレは この街の"兵士"だからな」


 嫌々始めた仕事とはいえ、世話になった恩義を感じない程、バトラーは非情ではない。


「不審な人物は発見次第排除しろ……ってなぁ!」


 戦う理由はこれだけあれば充分だろう。啖呵を切ったバトラーは近くにあった木箱へと隠れた。


「無駄だぁ!」


 ただの木箱程度で銃弾を防ぐ事など不可能である。


「──"ライフル弾を防ぐ"か」


 だが貫通しない。それは付与術師バトラーだから防げたのだ。


「付与術式──"硬化ハード"!」


 バトラー自身を強化する事は出来ないが、"物であればその限りでは無い"。


「まだまだいくぜ!」


 側にあった樽を倒し、カストルに向けて蹴り飛ばす。

 セミオートでは無く、ボルトアクション方式のライフルだからこそ出来た隙を、逃す訳にはいかなかった。


「姑息な!」


 再装填の時間など二秒もあれば事足りる。カストルは即座に対応し、ただの空樽も硬化されていると考え撃ち抜く。


「──ッ!?」


 しかし、予想外の事が起きる。


「術式展開 "爆裂バーストだ……っ!」


 それは空樽にもかかわらず、付与した対象に爆破の属性を付与する事で、即席の爆弾へと変えたのだ。


「よっし! 今のうちに……ってアラッ?」


「良い戦術だったな」


 抜け出そうとしたが、銃剣に行く手を阻まれる。


「楽しませてもらったが終わりだ 今すぐ弟の元へ行きたいのでな」


「奇遇だな……オレも相方が心配なんだよ」


 刃先を喉元に突きつけられるが、それでも諦めていない。


「心配無かったみたいだ」


「なに──ッ!?」


 背後から勢い良く、何者かがカストルに対して剣を振り下ろす。


 カストルは躱す。そして誰の一撃かを目に焼き付ける。


「……守れって言ったろ?」


「だから守ったじゃん?」


「リン・ド・ヴルム二等兵──ッ!」


 爆音を聞きつけ、リンはポルクスとの戦いを中断してバトラーの元へ向かったのだ。


「ごめんなさい兄様 逃がしてしまいました」


「構わん! 逃げたコイツが悪いのだ!」


 ポルクスを励まし、双子は並び立つ。


「面白い! 遊び相手に丁度良い!」


「そうですね兄様! 手加減はやめましょう!」


「勘弁してくれ……」


「お兄さん達疲れたよ」


 底知れない強さに心が折れそうになったその時である。


「そこまでだ双子共」


 突然双子の背後に現れた男が、双子の頭を掴んだのだ。


「離せ愚か者! 弟以外が触れるな!」


「離してください! 兄様以外が触らないで!」


 騒ぐ双子を無視して男は話を進めた。


「良くやったな 流石は"賢者連中"が気にかける事ある」


 リン達を知った口ぶりで、男は名乗る。


「オレは"ピスケス"だ よろしくな」


 この国最強の存在。氷の九賢者『魚座のピスケス』なのだと。


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