第2話 ハッキリと伝えてみる
「あの〜……?」
「何だ?」
「どうして我々は『拘束』されているのでしょうか?」
疑問をぶつける謎の男二人組。
ここ太陽都市『サンサイド』の姫である『スピカ・セルネテル』が、この世界で起こっている戦争を終わらせる為に戦っている。
当然敵からすれば、戦場に直接出向いて自軍の士気を上げる姫の存在は邪魔でしかない。ならば狙われるのは当たり前であろう。予想通り狙われた。
だが、突如現れたこの『謎の二人組』の手により、姫は九死に一生を得たのだ。
「得体が知れないからだ」
「……ですよね〜」
いくら姫を助けたとはいえ、あからさまに怪しい二人。
二人が戦いに乱入した事で姫は守られ、最終的に敵も戦いから退いき、苦しくも勝利に終わらせる事が出来た。
だとしても、この扱いは正当であると主張する。
「お前達が何の目的で姫様に近づいたのかが分からない以上……身柄の拘束は妥当だと思うが?」
(やべぇ……ぐうの音も出ない)
真っ当な理由に反論出来ない。
戦いが終わった後、拘束されて城内にある謁見の場に連れられた二人。
当たり前だが、功績を讃えられて表彰され訳ではない。
「大人しく待っていろ 牢屋でないだけマシだと思え」
兵士はそう言った。
敵が味方か、それ次第によって扱いは変わる。安全かどうか分かるまでは辛抱するしかなかった。
「大丈夫だよ〜僕達別に悪いことしたわけじゃないしさ」
この状況を作り出した元凶は、呑気な事を言っている。
「まあそうだけどよ……サンサイド側から見ればオレ達不審者なんだぜ?」
「正直に話せば解放してくれるって 安心安心」
「そうそう安心安心……ん?」
そもそもの原因はこの呑気な男が、戦争に首を突っ込んだ事が原因である。
そしてその理由とは『姫に恋をした』である。首がやばい。
「ダメだ! 絶対に本当のことは言うなよ!?」
「キサマら! やはり敵側の連中だなぁ!?」
「違います! 違います! 断じて違います!」
声を荒げた兵士に問い詰められ、全力で否定する。
敵対するつもりは無い。だが理由がそれでは不敬で死ぬ。
八方塞がりなこの状況。どうすれば良いかと頭が痛くなる。
「そろそろお見えになられる 失礼のないよう気をつけるんだな」
頭もお腹も痛くなる。だが生憎と誰も助けはしない。
サンサイドの『王』が姿を現す。覚悟を決めて話すしか無いが、残念ながら良い案は浮かんでいなかった。
(あれが……サンサイドの……)
側近を従えて、姫と共に現れた漆黒に身を包む男。
傷だらけの顔に鋭い眼光。威風堂々たるその姿は、見る者に畏れを抱かせる。
この男こそ、サンサイドの国王『コルヌス・ナシラ』であった。
(すっごい迫力……今にも押しつぶされそうだ)
「お前達が我が国の『聖女』である──スピカの命を救った者達だな?」
ただの問いであるというのに、その言葉は重くのしかかる。
(これ選択ミスったら死ぬやつじゃん……)
想像以上にキツい状況。本当の事を言うべきか、或いは誤魔化すべきなのか。
もしも本当の事を言ったらどうなるのか、もしも嘘がバレたらどうなるのか、どれも考えたくは無い。
「お前達の名を申せ」
「私は……『バウムガルト・トラートマン』という者です 我々は決して怪しい者では……」
「それって怪しい奴が言うセリフだよねバトラー?」
「余計なことを言うな阿呆」
男の名はバウムガルト・トラートマン。略され『バトラー』と勝手に呼ばれている。
本名が少しだけ長いからと言うのもあるが、彼の性格が『世話焼きな
彼からすれば余計なお世話な不名誉であるが。
「……それで? もう一人の男は?」
「お初にお目にかかります 私は『リン・ド・ヴルム』と申します お会いできて光栄です」
(よし良いぞ! 最低限の礼儀は出来てる!)
満面の笑みを浮かべて王へと挨拶をするリン。
どことなく胡散臭い気もするが、失礼な事を言うより遥かにマシである。
「バトラーとリンか……お前達の目的は何だ?」
(ヤベェ……バトラーで覚えられちゃった)
訂正を加えたいバウムガルトであったが、そんな事出來る筈もなく、渾名を受け入れてバトラーとなった。
だがバトラーの名前などよりも、肝心なのは問いに対する『答え』である。
今現在二人の立場は非常に危うい。
決して国を敵に回すつもりは無いのだが、動機が動機であるからだ。
(頼むぞリン……最善の手をうってくれ!)
「目的……と申されましても我々は答えは持ち合わせてはおりません」
「ほう……? どういう意味か聞こうではないか」
コルヌスから放たれる威圧感に折れる事なく、リンは堂々と理由を述べる。
「我々二人はただの旅人──"流浪者"にございます 宛もなくただ気ままに世界を旅することを生業とした逸れ者です 故に理由など無いのです」
(上手く誤魔化してるぞ! コイツ詐欺師の才能あるな!)
嘘は一言も言っていない。あくまでも自分達は"旅人"だと主張出来ればそれで良い。
敵側の存在でないと分かってもらえれば、敵意は無いと分かってもらえれば、後は『動機』を隠せれば良いのだ。
「では何故あの様な戦場に現れたのだ?」
「風の向くままに歩いていただけですので……まさか戦場に渦巻く爆風に招かれるとは思いませんでしたが」
「迷い込んだだけだと?」
「その通りでございます」
リンの言葉に嘘は無い。事実しか言っていない。
「だとしても──何故関係の無いお前達がスピカを助けた?」
「姫に『恋』をしたからです」
「バカヤロウーッ!」
本当に事実しか言わなかった。
「何でそこ言っちゃうかなぁ!? 良い感じに誤魔化せてたじゃんかぁ!?」
「この『想い』が……止められるとでも?」
「どうしてキメ顔が出来るんだよ! 面の皮が厚さ何センチだコラァ!」
圧倒的な身分差。にも関わらず図々しく、一国の姫に流浪者が『恋』をしたなどと、口に出すのも痴がましい。
「戦場に咲く一輪の華! 気高くも美しい旗を掲げる姿に心を奪われた! これはもう『恋』だと断言しても良い!」
「……終わったなぁ」
バトラーは諦めた。
無礼に無礼を重ね、もう処刑台に送られる覚悟を決めるしかなかった。
「つまりお前は死にたいと?」
(激おこじゃん)
奇跡も起きなかった。
「太陽都市サンサイドの至宝であり……我が『妹』であるスピカに対しその様な情欲を抱いたと……?」
(地雷しか踏んでねぇ)
新事実に驚愕するバトラー。それでも尚、リンは自らの意見を曲げない。
「ですがお兄様……」
「誰がお前の兄だ」
「惚れてしまったものは仕方ないと思いません?」
「何で急にお前は心の距離を縮めに入ってるの? さっきまで普通に礼儀正しく出来てたじゃん」
謎の開き直りに加えて、何故か馴れ馴れしさを全面に出すリン。
(もうダメだ……首を刎ねるか腹を切るか……もしかして電気椅子かもしれない)
「あのう……」
痛いのは嫌だと、必死に安らかに眠れる方法を模索するが、聞き入れてくれるかは別である。
せめて死に方ぐらいは決めさせてほしいなどと考えていると、これまで口を挟む事の無かったスピカが口を開いた。
「私としては彼に早く御礼を申し上げたいのですが……」
「うん? 僕かい?」
「戦場では助けて頂きありがとうございます おかげで無事に生きて帰る事が出来ました」
助けた理由はどうであれ、リンがスピカを助けたのは事実である。
姫様は二人に近づき、お礼の為に頭を下げたのだ。
「ありがとうございました……お二人は命の恩人です」
(ちゃんとオレも含まれてる)
感動して涙が出てしまいそうになるバトラー。
「御礼だなんてとんでもない……僕はただ結婚を前提にお付き合いしたいだけだからさ?」
「とんでもないこと言ってるよコイツ」
謙虚な物言いで自らの願望を直接伝えるリン。
己の想いに忠実すぎるリンを、誰も止める事が出来ない。
「改めて──僕は君に『恋』をした 人生という長い旅路を君と一緒に歩みたいんだ」
「謹んでお断りします」
だが姫はたった一言で止めてみせたのだった。
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