第5話 儒家の使者

 彭越は田横という男を目の前にして、その認識を改める必要性を感じ始めていた。田儋と田栄の弟であるという事実から、当初彼は田横のことを粗暴で、野蛮な男だと思っていたのだ。しかし、実際に田横と会い、また話してみると意外に物腰が柔らかく、口調が落ち着いていることに気付かされる。


 そして彼が話す内容もそうだ。彼は田儋に対して敬意を込めて話している一方、田栄に対してはそれがおぼつかないことを正直に吐露している。


 だが彼は、斉に誇りを持っていた。それは自身が誠実に国を統治したという自負があったからに違いない。だからこそ彼は、田栄の誤りを素直に認めることができるのだろう。


「項王に攻められ、田栄はたしか……」


 彭越は言いかけ、その後口を噤んだ。続きを田横自身の口から聞きたいという思いがあったからだ。


「抗戦して一度全滅の憂き目に遭いました。しかし栄は平原へいげん(地名)まで落ち延び、そこで軍を再編しようとしたのですが……項王の暴虐さを恐れた民衆が、彼を殺したのです」


 田横は淡々と話した。その口調には、兄を殺した民衆に対する恨みなどは一切含まれていなかった。


「民に殺された……そうであったな。貴公は、しかし兄を殺した民衆を率いて斉を再編した……その辺りの話もぜひ聞いてみたいものだ」


「よろしいでしょう。お話しします」



 覇者として項羽が定めた秩序を、田栄はことごとく否定した。それに怒った項羽は兵を率いて自ら斉に乗り込み、攻撃を加えた。その鋭鋒は凄まじく、触れるものすべてを切り裂く勢いである。南側の楚との国境を防備していた斉軍は、後退を余儀なくされていった。


 怒りに満ちたときの項羽は、髪の毛が逆立ち、まなじりから血が吹き出るという。田栄は、それを目の当たりにした。


「田栄!」


 雄叫びをあげながら軍勢の先頭を駆けてくる項羽の姿は、田栄を恐怖させるに充分なものであった。斉の軍は無惨にも引き裂かれ、斉の地は楚軍によって蹂躙されるばかりとなった。

 この混乱の中で、横は栄とはぐれてしまった。


――項羽という男は、化け物だ。


 項羽は敵地を蹂躙すると、ためらいもなく城や周辺を住民もろとも焼き払う。そのことに罪悪感を持つ様子はまったく無く、あたかも自分に敵対するものを育てた土地そのものに罪があると考えているかのようであった。


――獣でも、そんなことはしない。

 ましてや人が……そう考えると、項羽にあてがう異称は、化け物でしかなかった。


 横は逃げるしかなかった。はぐれた栄の安否を気にする余裕は、このときの彼にはなかった。



 一方、兵を失った栄は、その身ひとつで危地を脱し、平原という地に逃げ込んだ。


 この事実を、平原の民は恐れた。


 項羽が田栄を追って、この地に現れれば……この地は焼き尽くされる。自分たちは、土地を失い、命を失うのだ……田栄の巻き添えとなって。


 住民たちの恐れは、その後、形となって表れた。


 彼らは逃げ込んだ田栄を拘束し、よってたかって殴り続けた。栄は抵抗もできず、助けを呼ぶこともできずに、痛みと苦しみにのたうちながら死んだのである。民によって撲殺されるという、王族にあるまじき最期であった。


 民衆は栄を首だけの存在にして、項羽に降伏を申し出た。しかし項羽はこの行為に激怒したのである。


「吐き気がする」


 暴虐な男が、他人の暴虐をも好むとは限らない。項羽は一連の民衆の行為に対して、そう感想を漏らした。


 平原の地は蹂躙され、民衆は虐殺された。主君に不忠であった者たちが辿った非業の最期である。しかし、この結果が斉の国民たちを結束させたのだった。


 人々は田横が未だ健在だと知ると、そのもとに集まった。二人が三人、三人が五人、五人が十人と集まり始め、やがてはそれが三万人に至った。そして田横はその頭目となったのである、


 横は城陽じょうようの地で、項羽に攻撃を加えた。



 戦いはまる半年もの間続いた。その間田横はまさに寝食を忘れたかのように、迎撃に没頭した。しかし楚軍の攻撃は止むことなく、間断なく繰り返される。まさに項羽という男の超人性によって、楚兵たちは弱き心をどこかに捨て去ってしまっていたようだった。あるいはもともとそのような心を持っていたことを忘れてしまったのか……いずれにしても項羽という男は、臣下にそのような思いを抱かせる存在であったことは確かだった。


――このままでは、とても勝てぬ。


 田横の心を、弱気が支配しようとしていた。しかし、味方の兵にそれを悟られてはならない。雑兵までもが圧倒的な強い心を持っている敵が相手である以上、指揮官には弱音を吐く素振りさえも許されない。


 彼は、そこで兵をいたわった。自分に割り当てられた糧食を臣下に与え、雑兵に至るまでねぎらいの声をかけた。


「もうしばしの辛抱だ。お前たちがあとひと踏ん張りしさえすれば、国は守られる。道は険しいが、力を合わせてこの難局を乗り越えよう」


 その言葉が、兵たちを喜ばせた。そして斉軍は楚の猛攻を辛うじて耐えぬいたのである。


 その直接的な要因は、項羽が斉地に赴いている隙を狙って、漢が楚の国都である彭城ほうじょうを攻撃したことにある。項羽はこれに対応しようと、斉から軍を引き上げ、彭城に急行した。その結果、漢は無惨にも撃退されたわけだが、一方で斉は長引く戦乱から解放されることとなったのである。


 斉が救われたのにはそのような外的要因があったのだが、にもかかわらず人々は横を讃えた。


「儋王は神秘の力、栄王は意志の力、そして横さまは愛の力をお持ちでいらっしゃる」


 人々は、横の慈愛に応えようとして戦ったのだ、と口々に言う。自分たちが死線を乗り越えたのは、自らの命と財産を守るためではなく、ましてや斉国の存続などという高尚な目的のためではない。ただ、田横と共にありたいがためなのだ、と。


 それを聞いた横は、感涙にむせんだ。人々はそのまわりを取り囲み、口々に万歳を唱えた。


「ありがとう、ありがとう」


 横が発した人々への感謝の言葉は、ただそればかりである。子供のようであるが、その素直さが人々の共感を呼んだ。


「皆のために、この私にできることならばどのようなことでも請け負う。いや、ぜひそうさせてくれ」


 横はそう言い、戦渦に荒れた斉地の復興に粉骨した。彼は宰相となって、国の政治を大小の区別なく、自らがすべて採決するようにした。



「一種の独裁ではないのか」


 彭越は、人々に愛された結果、権力を得たという田横の話にあまり感じ入った様子をみせなかった。権力とは、自ら求めるからこそ得られるものであり、人から与えられるものではない、そんなことはあり得ない、と彼は言いたいのであろう。


「そう言えないこともありませんが……私としては自分を愛してくれた国民に対して、奉仕したつもりなのです。憚りながら言わせてもらえれば……私は権力を責任という語に置き換えて解釈ししています。私にとってそれは、特権を意味するものではないのです」


 田横が権力を得た理由は、万人がそれを望んだからか……人々を愛し、その結果愛されたからこそ得た権力。


――どうりで、薄汚い格好をしていながら自信に満ちた顔をしているわけだ。


 彭越はそう考えた。しかしそれを認めることは、自分自身を貶めることになる。彭越は、自分の力と行動力で楚から梁の地をもぎ取った。それは自身が求めたからこそ得た権力であり、人から与えられたそれではない。


――誇るべき人生を歩んでいるのは、わしの方だ。



「しかし貴公は、得た権力を失うこととなった。せっかく民衆に支持されながら、それを失ったわけだ。その原因は漢にあったわけだが……貴公は騙されたのだろう? 敵の策略にまんまと騙されるなど……貴公は支持してくれた民衆に顔向けできるのか?」


「これは手厳しいおっしゃりよう……」


 彭越の口から発せられた意地悪な質問に、田横は軽口で応じた。確かに騙されたことを恥じてはいるが、それなりに仕返しはしたからいいではないか、とでも言わんとしているかのような表情であった。


 彭越は、意外に感じた。これまでの田横の言動と比べると、いまの態度は明らかに無責任さを象徴していた。非常にこの男らしくない態度だと感じたのである。


「貴公は、自分をごまかそうとしている。騙されたという事実を忘れようとして、それに失敗しているぞ。斉を訪れた漢の弁士の口車に乗って軍を退き、それによって攻められたという事実を、真摯に受け止めていない」


 彭越のこの言葉に、田横は反発を示した。


「だが私は、その弁士を煮殺して恨みを晴らした。そのときの私に、できることはそれしかなかったのです」



 斉の地の復興に尽力し、それに成功した宰相田横は、栄の子である田広でんこうを王として擁立した。これにより国としての体裁も復活し、斉は楚と漢の対立を尻目に、おおいに発展することとなる。しかしこのことが、楚漢両国対決の鍵となることは明らかであった。斉を味方にした方が、限りなく勝利に近づくのである。


 先に動いたのは、状況的に不利とされていた漢であった。


 国都である臨淄に漢の使者団が到着し、横はこれに応対する。このときの使節団の長は、名を酈食其といった。


「斉王さまには、ご機嫌うるわしゅう……」


 すでに髪ばかりでなく、顎下から垂らした髭までも白い酈食其は、皺だらけの顔をほころばせながら、横に向けてそのような最初のひと言を発した。


「私は王ではない。王はあっちだ」


 横は、奥の間に控える広を顎で示し、その非礼を目で嗜めた。


「や、これはこれは失礼をば……」


 酈食其は見るも慌てた様子で、ぱたぱたと広の前に駆け寄って平伏した。その様子には、どこか剽軽さが漂う。横は、笑いを噛み殺した。


「以後は、我が王とご歓談くだされ」


 そう言い残し、横はその場を立ち去ろうとした。だが酈食其はそれを制し、


「いや、横どのにもぜひ、話を聞いてもらいたい。これは非常に重要な話なのだ」


 と、表情を改めて言うのである。横は、その態度の豹変ぶりに驚かされ、場に留まることにした。


「さて……」


 酈食其はここで一呼吸おくと、滔々と自己紹介を始めた。


「この私は、儒家の徒でしてな。人は、私のことを酈生れきせいと呼びます。まあ生とは本来先生の意であるが、私の場合は少し違う。というのも、私自身は儒学を追究してはおりますが、人にそれを教えようとしたことはないのです。だから私の酈生という異称は、先生を意味するのではなく、学生を意味するものなのです。この年になっても未だ学生。どうか笑ってやってください」


 もちろん横も広も笑うことはなかった。彼らが注目しているのは、相手が漢の使者だというその一点ばかりなのである。使者の人となりがどのようなものであるかは、さして重要なことではない。


 しかし酈食其、すなわち酈生はそんな二人の気持ちをよそに、話を続けた。


「生涯を一学生として過ごしてきたこの私には、天下を客観的に見ることができる目があるのです。そう思わんか? 人に教授する目的で何かを追及するということには、往々にして欲が伴う。それはなぜか。教授することで対価を得ることができるからだ。だが、わしにはそれがない。だから、天下を正しく見定めることができるのです」


 よくもまあ、このように図々しく自己を評価できるものだ、と田横は呆れた気持ちになった。しかし、傍らにいる広は未だ年若く、そうは感じないようである。彼は、酈生の話に食らいついた。


「では、あなたの見立てでは、いま現在われわれ斉の状態はどのように見えるのか」


 酈生はこの質問に得意げに答えた。その様子から、かなり確信を持った答えを持っているらしい。


「斉は南の国境線を楚と接しており、常々戦乱の危険に晒された状態にあります。この状況は太古の昔からいまに至るまで変わったためしがありません。そのため斉の住民は戦いに馴れ、心変わりをしたり、人を騙すことを平気で行なう、と言われています。しかしこれは、言い換えれば誇り高き独立心の現れでしょう。斉は、王族のみならず民衆までもが自国を守ろうとしている。その意識は、他のどの国よりも高い」


「なるほど」


 田広はその言葉に感じ入った様子で、即座に相槌をうった。それを尻目に横は考えるに至る。


 現在の斉への一般的な評価を軸にして、それを裏返した解釈をした酈生の意見は確かに評価できるものである。しかし、それが正確に事実を示しているかと言うと、田横には確信がない。横の兄である田栄は、国よりも自分たちの命や財産を守ろうとした住民たちによって、殺害されたのだ。はたして民衆までもが自国を守ろとしている、と言い切れるだろうか。


 とはいえ、酈生の言葉は横の耳に優しい。言われて嬉しいと感じたことは事実だったのである。



「王様は、天下が誰の手に落ちるのか、はたしてご存知か」


 酈生の話は本題に入り始めた。すでに彼の表情は真剣味を帯び始めている。


「知らぬ」


 田広がそう返答する。彼はすでに酈生の話術と、その醸し出す雰囲気によって踊らされ始めていた。横としては注意しておきたいところである。しかし、このときすでに、横も踊らされようとしていたのであった。


「王様が、天下が結局誰のものになるかをご存知ならば、斉国を無事に保つことができましょう。しかしもし天下が誰のものになるかをご存じないなら、この国を無事に保つことはできますまい」


 酈生はすぐに答えを示すことをせず、そのような話し方をした。相手に気を持たせるあたり、彼は非常に場数を踏んでいると見るべきだろう。田広はすでに膝を乗り出している。


「天下はどこに落ち着くのだというのか?」


 たまらず広は質問し、酈生はそれに即座に答えた。


「漢にです」


「……酈生には、なぜそのように断言できるのか」


 田広ならずとも聞きたいと思う疑問である。それは、単に酈生が漢側の使者だったからか、それとも先に彼自身が述べたように彼独自の客観的にものを見ることができる目によるものなのか……。田横はしかし、不思議なことに口を挟むことができなかった。おそらくそれは、彼自身が知りたいと願っていた答えだからだったのだろう。


「漢王と項王は当初協力して西に進撃して秦を討伐なさった。その二人の間にはある約束事があったのです。それは、最初に秦の都である咸陽に到達した者を関中王とする、という約束でした。これは、ただ二人だけの間の約束ではなく、当時の楚王であった懐王さまから発せられた、明確な勅令でございました」


「ふむ。しかし現状はそうではない」


「その通りです。漢王は真っ先に関中に到達し、咸陽を秦の支配から解放されました。その功績は絶大であるばかりでなく、項王に先んじてそれを行なったことは、漢王が関中王を称するべき充分な資格でございました。しかし項王はいざ漢王が咸陽を鎮撫し終えると、それを攻撃し、城中の金品をあさり、兵に宮女を犯させました。そして漢王をその地から追い出し、約束を違えて辺境の王としたのです。なおかつそれらの行為がすべて懐王の意に反することを自覚していた項王は、懐王をはるか南の長沙郡に追放し、ひそかにこれを殺させた。その悪逆な行為の数はあまりにも多く、正確に数えることはできません」


 酈生はつまり、漢の正当性を主張している。劉邦率いる漢に比べて、項羽率いる楚は残虐で、約を違えることが多いから、天下を統べる資格はない……つまり、そういうことであった。おそらく長い目で見れば、それは間違いではあるまい。仮に楚が天下を支配することになったとして、その残虐性を項羽その人が改めようとしない限り、人々は心服しないことだろう。そうなれば諸地方に叛乱が相次ぎ、結局天下はまた乱れることになるのだ。


 しかし短期的にはどうか。楚は武力で漢に勝り、漢を撃ち破った楚は次に斉を狙うに違いない。ここはいまのうちに楚と同盟を結び、斉国の安泰をはかる必要があるのではないか、とも横には思えるのである。


「以上のことを鑑みて、漢は楚に比べて天下を統べるべき資質を備えていると言えましょう。しかし問題は現在の軍事的対立を漢が楚を撃ち破ることによって解消できるかどうか、だ。私が見るに、どうもお二方とも、その点に疑問を感じていらっしゃるようですな」


「その通りだ」


 広も横も、これには口を揃えて同意を示した。酈生がこのとき浮かべた笑みは印象的なものであった。彼はこれに対する返答も用意していたのである。


「現状では項羽の武勇の噂ばかりが世に広まっていて、漢の軍事的能力に関しては、人々の頭に記憶として刻まれていない……それは事実です。しかし、ここで私はひとりの男の勇名を皆様にお知らせしたいと思う」


「ひとりの男の勇名……? そんな者が漢にいるのか。誰のことだそれは」


 斉国内では二人の王が相次いで戦場で命を散らすという国難が続き、他国の動静にはやや疎かったことは否めない。このとき、広のみならず横も隣国である趙や、そのまた隣の国の魏、さらには北の燕国などが漢の支配下にあることを知っていたが、どういう経緯でそれがそうなったかは、知る由もなかった。


「韓信。この名を忘れぬことです」



「韓信……恐るべき男だ。しかし、実際の彼は物静かな男で、とてもその外見からは軍事的才幹を見出すことはできぬという。きっと、ものすごく頭の良い男なのだろう」


 彭越はそう言って韓信に対する評を下した。現在、天下はまだ定まっていない。漢と楚の対立は未だ続き、変わったことといえば、田横が率いる斉が滅んだということだけであった。彭越が率いる梁国は未だ存続しているが、彼は基本的に漢側に立っている。斉が韓信によって滅ぼされたことに加え、この事実は大きく天下が漢に傾いたことを意味した。


「私の見積もりでは、もう間もなく天下は漢の手中に収まります。いまの私には、ただそれを眺めることしかできません」


 田横は呟くようにそう言った。その様子は、彭越の同情を誘った。


「君の手に残った五百名の臣下……それを元手に漢に対して復讐を果たすつもりはあるのか? 君次第だが、わしとしては兵を貸し与えてもいい」


「いえ。ありがたいお言葉ではありますが、先ほども言った通り、天下は漢に定まります。その漢に復讐をしたところで何ごともなし得ないばかりか、その際に兵をお借りしたりすればあなた様の立場もお悪くなりましょう」


 彭越はため息をついた。横の言うことは事実であり、彼としてはできることなら静観したいのである。あえて言えば、ここに田横が隠れていることさえも、漢に睨まれる要因となっているかもしれないのだ。田横が行動しないと明言してくれたことは、彭越にとっておおいに助かることであった。


「まあ、ゆっくりなされよ。話をする機会はいくらでもある」


 彭越はいたわりの言葉をかけた。それに対し田横は深々と頭を下げ、その後与えられた居室に下がっていった。


――もし韓信が必要以上に執念深い男であったら、逃げ込んだ田横を追って漢軍が襲来し、この梁も戦乱に巻き込まれたことだろう。だが……いまのところその様子は見受けられない。幸いなことだ。


――だが、あの田横という男……相当に疲れている。この戦乱の時代に慈愛で国を支え続けるということ自体が非現実的であるが上に、それがいともあっさりと策略によって覆されたことに衝撃を隠せないのだろう。天下を相手に騒乱を引き起こす手合いの男ではない。気の済むまで休ませることだ。


――まあ、話の続きはいつでも聞ける。


 彭越はいまのところ漢の側に立っている。しかし、元来が独立心の強い男であった。情勢が漢に不利になった時には、いつでも楚の側に立つ心の準備はできている。そのため、いくらでも情報は欲しかったのであった。


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