12時限目「転校二日目【クロードの憂鬱】(後編)」
耳も割れるような大きな声。
「!?!?」
不安ゲージマックスだった彼の心臓は今にでも飛び出しそうだった。鼓膜が破れる前にと両耳を塞いで、その場で足を踏ん張った。
その横では同様にブルーナも耳を塞いでいた。慣れているように流れで構えてはいたが、うるさいものはうるさいと言わんばかりの表情だった。
「……んん? スカーレッダ、何故ここにいる?」
夢から覚めた銀色髪の少女は目を擦りながら、客人であるアカサに是非を問う。
「『何故ここにいる~?』、じゃないんだよッ! 気になるあの人をここへ連れて来いって言ったのは先輩でしょーがッ!!」
グッスリ居眠りかましていた“先輩”の少女に対して、アカサはブチギレている。
「んん? ああ、もうそんな時間だったのか。これは失礼。三十分前くらいに、いつもの眠気が来てしまったからね。君達が来る前に仮眠を取ろうとしたのだが……失敗失敗」
「アンタの仮眠は毎回熟睡でしょうがッ! 仮眠とか言って一時間以内に起きた試しがないでしょうがッ! そもそも、約束の時間三十分前に寝るとかどういう神経してるんじゃ、このチビ!!」
先輩、というには割と遠慮がない説教が始まっていた。
しかしその説教は届いているように見えない。何せ起きたばかりだからか、その先輩は今も寝ぼけているように見える。
「全くもう……ああ、では紹介させてもらおうクロナード君! 君に用があるというのは、この見た目幼いチルドレンなスーパー天才少女……って、おおおおっ!?」
振り向いて彼女の紹介をしようとした矢先、アカサは驚いたような表情をする。
「ブルーナ先輩来てたんですか!? いつから!? いつからココに!?」
……と思ったら、ここまでついてきていた女子生徒の存在にだった。
てっきり気づいているものかとクロードは思っていた。それといって驚くことでもなかった事象であったがために胸をなでおろす。
「なぁ、後輩」
狩猟銃片手のブルーナは彼に問う。
「最近、この銃の調整を終えたばかりでな。テストの試運転に、あの女子生徒のボタンを的代わりに撃ってみようと思うが、どう思う?」
「ナチュラルに射殺じゃないですかッ! やめてくださいよッ!?」
クロードが答えるよりも先にアカサがやめろと即断した。
謝るアカサ。拳銃を構えるブルーナ。そして、今もまた眠ろうとしている銀色髪の少女、アカサが言うには確か“ロシェロ”という名前であったはずだ。
一体、ここは何なのだろうか。
そもそも、この三人組は一体何者なのだろうかと困惑が止まらない。
「あの」
早いところ用件を終えて昼食を食べたい。決死の覚悟でクロードは手を上げる。
「結局、僕は何でここに呼ばれたんですか」
「「「あっ」」」
三人とも、思い出したようにクロードの方を振り向いた。
“ぶん殴ってやろうか”。
忘れられていたことに心の底から彼はムカついた。例え、女子相手だろうと容赦なく。
「あー、ゴホン。まずは初めまして」
銀色髪の少女が手を差し出す。
「私の名はロシェロ・ホワイツビリー。学年は二年。飛び級生とはよく間違われるが、これでもれっきとした17歳だ。生まれてこの方、体の成長とやらには恵まれなかったのだ。実に神様とやらは不平等だとは思わないかい?」
全く中身のない世間話をしながらも、ロシェロは簡易的な自己紹介をした。
「いや、こんな部屋でダイエット食品ばかり食べながら、大した運動もせずに引きこもる毎日なら成長もしないでしょう」
「同感だ」
アカサとブルーナが言うに、彼女の成長スピードの遅さはそれが原因じゃないかと二人揃って決めつける。見た目通り、居眠り多めの引きこもり少女のようだ。
(天才、少女)
アカサが言っていた天才少女。クロードはその言葉が気になっていた。
この様子では、朝方の授業は参加していなかったように見える。そして、この部屋中に撒き散らされた研究材料に、真下にあった謎のゴーレムの存在……この部屋に籠って、何かしているのは確か。
タダ者じゃない、というのは理解できる。
だがどうしてだろうか。この寝ぼけている表情から、そんな素晴らしい才能を秘めている凄い少女だという事を感じさせてくれない。
「何か失礼なこと考えてないかい、キミ」
心眼は極めているのか、それとも慣れているのか。軽く図星を突かれた。
「まぁ、いい。どこかに掛けたまえ。君を呼んだのは他でもないのだよ……」
眠っていたソファーに再び腰掛ける。
質問が始まる。その合図とともに、アカサとブルーナもそこらで適当にくつろぎ始めた。
「一方的に話してばかりで悪いが、質問に答えてほしい」
人差し指を突き立て、ロシェロは問う。
「“君は、貴族が嫌いかね”」
「……!」
その質問の意図、全くもって分からない。
ただの興味本位なのか。それとも、ジーン・ロックウォーカーと同じように、彼の真意を知りたいがための問いなのか……掴めない。
「……好き、ではないです」
だが、彼は答える。
「むしろ嫌いです……それが何か?」
真っすぐな意見。心の奥底で思っている本音を。
“貴族が嫌い”だという、ねじ曲がることのない回答を。
「……ふふっ」
その答えを聞いた矢先。
「ほう」
アカサとブルーナ。
二人の女子生徒が、同時に笑みを浮かべたような気がした。
「ほほ~う! ならば、話は早い」
おそらくだが気のせいではない。
何せ二人と同じタイミングで、ロシェロまで笑い始めたのだ。三人とも、何らかの気があったかのように、感情がシンクロしているように見えた。
「……???」
嫌な予感がする。
固唾をのみ込みながらも、この三人が何を企んでいるのか、その答えを聞く。
「君を呼んだ理由は、ただ一つ」
ロシェロはソファーから立ち上がる。そこら辺の椅子に腰かけることなく、昼食の入ったバスケットを持ったまま佇んでいるクロードの元へ迫る。
それに合わせ、アカサとブルーナの二人も近寄ってくる。
「“スカウト”だよ」
彼女の口から、理由が語られる。
「え?」
「ようこそ」
両手を広げ、彼女達は歓迎する。
「我らが……【影の
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