第19話
俺たちはさらにダンジョンを進んで行き、第二階層を歩いていた。
ティオは、順調にモンスターを倒して、すでにレベルアップもしていた。
だが、慣れない戦闘の連続でさすがに疲れも見えていた。
ダンジョンに入ったのも、剣を握ったのも初めてなのだ。無理もない。
当たり前だが、いくら強い武器を持っても、本人の体力や技量はすぐには追いついてこない。
俺が自身に“ゴミ強化”をかけたように、一気にステータスをあげてあげられたらいいのだが。
と、一瞬そう思うが、まぁでも急ぐ必要はない。
ゆっくり成長すればいい。時間はたっぷりあるのだから。
――そろそろ引き上げる頃かな。
と、そんなふうに考えていると、向こうからゴーレムが現れた。
――Dランクダンジョンにしては強力なモンスターだ。
ティオは、ゴーレムを見るなり、勢いよく突っ込んでいく。
「はぁぁ!」
だが、ティオの剣はゴーレムの防御力の前に弾かれてしまう。
さすがに、あれは剣の強さだけでは勝てない。
のけぞったティオに、ゴーレムの拳が飛んでくる。
――俺がすぐさま間に入って、そのままゴーレムを一刀両断する。
「あ、ありがとうございます! さすがご主人様……」
「そろそろ帰るか。疲れただろ」
俺が言うと、ティオは残念そうな顔をした。
まだ戦いたいらしい。
だが、気持ちはそう思っていても、明らかに体力は落ちていた。
「また明日来よう」
俺が言うと、ティオはしぶしぶと言う感じでうなづいた。
「はい、わかりました」
俺たちは、踵を返して、そのまま来た道を引き返していく。
「今日は夕飯、何にしようか。何か食べたいものあるか?」
俺は後ろのティオに聞く。
「……なんでもいいです……けど」
「けど?」
「パンケーキを食べれたら嬉しいです」
どうやら、ティオはそれがお気に入りらしい。
「わかった。じゃぁ、パンケーキが美味しいお店に行こう」
――そんなたわい無い会話をしながら帰路を歩く。
――――――――
――――
――だが。
突然の悪寒。
そして次の瞬間、振り返ると――
「――ッ!!!!」
ティオの首元にはナイフが突きつけられていた。
その持ち主は、髭を生やし、バンダナを額に巻いた男たち。
そしてその後ろにも数人の姿があり、皆獲物を構えている。
さらに振り返ると、反対側からも男たちが現れた。
ティオを人質に取られた上に囲まれた。
「……一体何の真似だ?」
俺が聞くと、男たちの代わりに、その後ろから現れた老人が口を開いた。
「ふひひ、あなたのマジック・ポケットを奪いにきただけですよ」
そう言う老人は――――あの奴隷商人だった。
「お前……」
ティオを無下に扱ったあの奴隷商人が、賊を率いて襲ってきたのだ
「さぁ、マジック・ポケットごと持ってるもん全部渡しな。そうじゃないと、この虫けらの首が飛ぶよ?」
ティオのHPはわずかしかない。
しかも、彼女を守っていた防具の魔力もほとんど尽きかけている。
やろうと思えば、ティオを殺すのはそう難しいことではないだろう。
――俺に選択肢は残されていなかった。
俺はポケットを取り出して、賊の方に投げる。
「ふひひ。こんな虫けらのため、バカなやつだ」
と、次の瞬間、後ろから盗賊が剣で斬りかかってきた。
俺は剣を抜く暇も与えられず、そのまま斬撃を受ける。
防具の魔力が衝撃を和らげるが、その勢いまでは防ぎきれず、全身に衝撃が響く。
「うっッ!」
壁に叩きつけられ、地面に転がり落ちる俺を見て、奴隷商人はゲラゲラと笑った。
「本当に……こんな虫けらのために、よくもまぁ……。やっぱり、外れスキルの所持者だけあるね。小汚い虫キメラと仲良くやるのがお似合いすぎて……。ほら、そっちも仲良く同じ目に合わせてやりな」
と、奴隷商人がそう言うと、男がティオの腹めがけて、蹴りを入れた。
「……うぐっ!!!」
呻くティオ。
それを見て、奴隷商人はますます笑う。
「ふひひ。ゴミ(・・)同士、一緒に仲良く苦しんで、最高じゃないか!」
――――だが。
その一言は、絶対に余計な一言だった。
「てめぇ…………」
俺は、立ち上がり奴隷商人を睨みつける。
「なんだ、どうした? いっちょまえに睨んじゃって。逆らったら、このゴミ(・・)虫ちゃんの首が飛ぶよ?」
――だから、その言葉が余計だって言ってんだ。
俺は――ティオの方を見て、叫んだ。
「――――“ゴミ強化”!!」
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