第9話【『絶対』 後編】
「なぁ、兄貴。
俺はチビッ子の気持ちよ〜くわかるぜ。
兄貴もそうだろ?
親父が死んで俺達がどれだけ後悔したことか。
無力な自分が悔しくて、何もしてこなかった自分が憎らしくて、『絶対』なんて信じでいた自分が許せなくて……。
そしてもう二度と同じことが起きねぇようにに…。
大切な人を守れるように…。
俺達は努力してきただろ?」
ゴードンはとても落ち着いた、だが、とても力の篭った話し方で言葉を続ける。
「そんな俺達がチビッ子を応援してやらないでどうする?
きっかけはただの夢だったかもしれねぇ。
だがチビッ子は大切な人を失う辛さを実感して足掻こうとしてるんだ。
勿論、しっかりとした先生を付けて安全面も十分に考えないといけねぇ。
だが、はなっから否定するのは一度経験したらものとして、親として、やっちゃあ行けねぇ事なんじゃねぇのか」
ブレインとゴードンの父親は《負けない騎士》とまで呼ばれたセンプレヴェルデ王国最強の男だった。
誰もが憧れ、尊敬の眼差しを浴びせていた。
そして、父親は強いだけではなく豪快な性格だがとても優しい人だった。
そんなお父様の事をブレイン達兄弟は大好きだった。
だが、15年前、そんな偉大な父親が死んだ。
理由は我が領地が抱えている一番厄介事である魔物生息地帯のスタンビートだ。
スタンビートで森から出てきた魔物の数は約1000体だと騎士団の人が言っていた。
1000体と聞けばそこまで多くは内容に聞こえるが魔物生息地帯の魔物は恐ろしく強い。
一番弱い魔物でもセンプレヴェルデ王国軍の中尉より少し弱いぐらいの強さで一般兵なら十人単位でかからないと手も足も出ない程だ。
そして、そのスタンビートを止めるために戦ったのがその役目を代々受け継いできたネニュファール家の騎士団だった。
当然、ネニュファール家当主であり騎士団長であった父親もブレイン達兄弟の頭を撫で「行ってくる。帰ったら今回の戦いの話いっぱい聞かせてやるからな」と言い残し前線へと向かって行った。
子供頃の兄弟は当然父親は絶対に勝手帰って来ると心の底から思っていた。
何故なら父親は《負けない騎士》なのだからと……。
だが、戦いが終わり父親が帰ってくるのを楽しみに待っていた兄弟に告げられたのは父親の死だった。
何でも一体とてつもなく強い魔物がいたらしく、騎士団の人達が大勢その魔物に殺されたらしい。
そして、親父はこれ以上騎士団の人達を殺させまいと一人その魔物と対峙し激闘の末、親父はその魔物を倒すことが出来そうだ。
たが、その魔物からおった傷が酷く、救護班が懸命に治療に努めたが助ける事が出来なかったらしい。
ブレインは知識や高度な駆け引き技術などを身につけ味方を増やし、国王に匹敵するのではないかと言われるほどの発言権を手に入れ、ゴードンはひたすら身体と魔力を鍛え王国二位の実力を身につけ、騎士団を拡張し鍛え軍相手でも戦っていける程、強力な戦力を手に入れた。
「……。」
「それにな。
あの子は兄貴達によく似てやると決めたらやる奴だ。
例え、ダメだと言われたからって諦める奴じゃーねぇ。
兄貴達に隠れてコソッと一人でやり始めるぞ?そっちの方が危ないと俺は思うけどな」
「……そうだな。
わかった。
了承しよう」
「……私もよろしいと思います」
「……貴方、ダリエ」
「ローゼ、貴方もブレインとゴードンがどれほどガウェン様ので苦しまれたかご存知でしょ?そんな思いをエレナにもさせるのは酷だと思わない?」
ローゼとダリエはブレイン達の父親の死のこと、それからブレインとゴードンがどんな思いで生きてきたかも聞かされている。
「……分かったわ。
私も賛成します」
「ローゼ、ダリエ……。
ありがとう……」
「いいんですよ。
それに貴方が頭を下げることではありませんよ」
「ああ、そうだな。
で、誰を家庭教師として付けるかという問題だが」
「その事なんだがよ、俺に一人宛があるんだ」
「誰だ?」
「ヴィルデだ」
「は?
お前は何言ってるんだ、あいつは軍の少佐だぞ?
せっかく少佐という立場を手に入れたのにそれを手放して教育係など引き受けるわけないだろ」
「まあまあ。
とりあえず今度連れて来るから一度会って話をしてくれや。
剣の実力は勿論のこと魔法も相当なものだしあいつは伯爵家の次女として学園に通い上位の成績で卒業している。
それに少佐とだけあって部下も多く誰かに物事を教える事も多い。
家庭教師として不足は無いだろ?」
「ああ、分かった。
事情は知らんがあいつは腕も性格も確かだからな」
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