第57話:追加支援
異世界の冬は本当に厳しくて、雪下ろしや雪掻きなしではいられない。
その時には俺が持ち込んだスコップがとても役に立っていた。
掘っ立て小屋はもちろん最初からある氏子衆の家も、雪が自然と屋根から落ちるように急な角度になっている。
そうでなければ雪の重みで潰される家があっただろう。
「女神様、配祀神様、誠に申し上げ難い事なのですが、この大雪で雪解けまで燃料が持ちそうにありません」
村長は本当に言い難そうだったが、言わない訳にもいかないのだろう。
村長にしても奴隷希望者を見殺しにするのは嫌なのだ。
弱肉強食の異世界で生きてきた村長だから、必要なら奴隷希望者を見殺しにする事も厭わないだろう。
だがそんな事をしたら俺達の加護を失うかもしれないと思っているのだ。
本当に情けない事だが、俺の心の弱さを見抜かれているのだ。
俺は配祀神とは思えない心の弱さで、何度も心身を病んでいる。
そんな俺にひと言の相談もせずに奴隷希望者を見殺しにしたら、俺に忌み嫌われるかもしれないと恐れているのだ。
そしてその心配は確かに間違いない、村長が奴隷希望者達を見殺しにしたら、俺はきっと村長を忌み嫌うだろう。
「分かった、俺が何とかしよう。
氏子衆だけなら十分余裕があった薪を、奴隷希望者達にも分け与えさせたのは、他の誰でもなく俺だからな」
掘っ立て小屋を建てる時に出た枝木は、全部奴隷希望者達の燃料にした。
本来なら薪に使えた大木は全部大黒柱や支柱に使った。
掘っ立て小屋を建てなければ、切り倒した木々は全部燃料に使えた。
奴隷希望者達の掘っ立て小屋を守る濠や土塁を造らなければ、もっと多くの木々を燃料用に切り倒す事もできた。
多めに買ってあった間伐材も背板も残り少ないという。
だから30本4000円の間伐材を800セット買って320万円使った。
200本3000円の背板は1000セット買って300万円使った。
凍死しない程度に家を温めるのに、1日1セット必要だとして、300軒だと6日しか持たないのだ。
急いでもっと支援しなければいけないと思ったが、氏子衆も奴隷希望者達も神々に甘えるばかりではいけないと考えているようだった。
雪深い中で森に行って大木を切り出していた。
ただ建築材に使える大木の幹の部分は、春になったらもっと丈夫な家を建てるのに使うから、今薪にするわけにはいかないので、枝や葉を燃料にすることになる。
だからどうしても切り出す材木の量がとても多くなるのだが、心配する俺をよそに氏子衆も奴隷希望者達も元気に働いていた。
腹一杯美味しい食事を食べられる状態なら、これくらいの労働は平気だという。
むしろ一時的でも俺に心配をかけて申し訳ないとまで言っている。
雪深い冬には、家の中に籠って手仕事するモノだと考えていた俺が、根本的に間違っていたようだ。
燃料不足になっていたのも、俺が心配していたから伐採に出なかったことが理由で、結局全部俺の責任だった。
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