第38話:嫌味と値上げ
「随分と長く来なかった、アルフィ」
俺はこの村の勝利が確定するまで日和見していたアルフィに嫌味を言ってやった。
「はい、私も命が惜しいので、負ける方には味方しません。
どちらが勝つか分からない場合は、中立を貫きます。
それが商人の生き方というものですから」
俺の嫌味など全く堪えない強い心をアルフィは持っているようだ。
確かに戦国乱世のこの世界では、商人が生き残るには日和見が必要だろう。
それは理解しているのだが、腹が立つのはどうしようもない。
そしてどうにも好きになれない、いや、はっきり言って大嫌いだ。
だが大嫌いだからといって、殺せるかと言えば殺せない。
苛々ムカムカするのを我慢して商談するしかない。
「ふむ、言うのうアルフィ、だがそれでは好かれないというのも分かっておろう。
神の国の商品を持ってこれるのは、わらわだけじゃ。
だから嫌いな奴に高値で売るくらいなら、気に入った奴に少し安く売ることにしたから、直ぐに帰れ。
なに、あれだけ痛い目にあったこの地の領主なら、もう我らに逆らいはすまい。
莫大な利益を得ることができるのは、お前を見ていれば分かる。
お前と同じ値段で全て買い取ってくれる事であろう」
俺が苦手な値段交渉だったが、今までは石姫皇女の読心術で最高値で売ることができていたが、徐々にアルフィに慣れが出ていたのも確かだ。
怠惰な石姫皇女が、俺が頼みもしないのに自ら交渉の表に立ったという事は、ここで脅した方がアルフィの心に影響が与えられ、買取価格が高くなるのだろう。
「どうか、どうか、どうかお待ちくださいませ、女神様。
私が思い上がっておりました、どうかお許しください。
これからは心を入れ替えてお仕えさせていただきますので、どうかこれまで通り取引させてください、お願いします」
「ならば出せるギリギリの値段で買い取ってもらおうか。
わらわの考えている価格よりも低ければ、領主に売る。
その覚悟で買い取り値段をつけるのじゃ、後は任せたぞ」
ここまで段取りしてもらったら、俺のような小心者の見栄っ張りでも大損をする事なく商談することができる。
アルフィの表情が真っ青だから、海千山千の商人でも石姫皇女の脅しは相当効果があったようだ、俺も溜飲が下がった。
だが、何でここまで石姫皇女が協力してくれたんだろう。
あっ、分かってしまった、分かったら腹が立つと同時にドッと力が抜けた。
石姫皇女には何か食べたいモノがあるのだ。
クリスマスケーキとクリスマスチキンはもう予約してある。
予約できるモノは全部予約したのに、これ以上何が食べたいのだろうか?
俺の記憶や心を読むにしても、俺はそれほど美食家ではないぞ。
なんか、石姫皇女が食べたくなったモノが気になってしまうぞ。
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