第32話:臆病者の決断
「じゃかましいわ、ガタガタぬかすと絶縁するぞ、ワレ」
と思いっきり石姫皇女を罵りたかったが、そんな事はできない。
そんな事をして本当に縁が切れてしまったら、もうこの世界に来れなくなる。
俺の支援が無くなった後の村が心配でたまらない。
大量の食糧があるし鶏もいる、武器もこの世界では最高級品だろう。
だが同時に、俺の所為で色んな敵に眼をつけられている。
このまま知らぬ存ぜぬで放置などできない。
だから、喉まで出かかった罵りをグッと飲み込んだ。
怒りを抑えて石姫皇女の使い走りになって買い物に励む。
不良に虐められていた思い出すのも情けない学生時代に戻ったようだ。
力が欲しい、自分だけの力で異世界を往復できる力が欲しい。
氏子衆を助けられるだけの力が欲しい。
必要な武器を惜しみなく与えられるだけの金が欲しい。
生れて初めて心から渇望した。
「配祀神様、そのような無防備なお姿で神域から出られては危険でございます。
子供達と一緒に神域にいてください」
俺は無意識に神域から出てしまっていた。
安全な神域には、戦いの役に立たない幼い子供達だけが入っている。
少しでも役に立てる大きさの子供は、矢を運んだり鶏粥を作ったりしている。
それなのに、俺は全く役に立っていない。
戦場に恐怖して安全な境内で震えているだけだ。
実際に今もガタガタと震えているのだから、声をかけてくれたライラも、心の中ではその臆病な姿を馬鹿にしているだろう。
「大丈夫だ、覚悟を決めた、やれることをやるしかない」
そうライラには言ったが、実際には覚悟など決まっていない。
今もガタガタと足が震えているし、手も上手く動かない。
だが、今やらないと一生悪夢にうなされることになる。
いや、今からやる事も、悪夢になって一生つきまとうかもしれない。
人を殺すなんてこと、平和な日本に生まれ育った俺にできる事じゃない。
だけど、何もせずに氏子衆が死んでいく悪夢を選ぶか、自分が盗賊団を殺す悪夢を選ぶか、見る悪夢を選ぶしかないのなら、ライラを助けて見る悪夢を選ぶ。
身体中が震えている状態では危険なので、最初は石を投げた。
盗賊団が射かけてくる矢は怖いが、石姫皇女や本物の配祀神達の言葉を信じれば、俺にも神通力があるはずなのだ。
それを信じてやるべきことをやるしかない。
石姫皇女と本物の配祀神達の言葉は本当だった。
日本にいた頃と比べたら信じられないほど遠くまで石が届く。
俺は夢中で盗賊団が多くいそうな所に石を投げた。
投げた石を受けて悲鳴をあげる声を、確かに聴いたと思う。
この時のために用意してあった、火炎瓶を投げるかどうか本気で迷った。
火炎瓶を使えば、敵の居場所がはっきりする。
いつの間にか震えが収まっている今の俺なら、的確な場所に投げられるだろう。
だが、本当にこの世界で火炎瓶を使ってもいのだろうか。
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