第3話
部屋には大きなテーブルがいくつか置かれていた。
その周囲には大学の研究室顔負けの実験設備や道具が、今にも崩れ落ちそうなほど積み上げられている。
「ここは開発研究も兼ねているからね。それぞれのテーマで実験もしているんだ」
「初めまして。私はナンバー19、大沼いづみ」
彼女はテーブルの引き出しの底に、なにやらスプレー塗装を施している最中だった。
差し出された細く白い手を握り返す。
彼女の側には、一羽のカラスがとまっていた。
「彼女は動植物を扱うエキスパートだ。彼女の研究分野にはまだ名前がなくてね、それ以上どう説明したらいいのかが分からないんだ」
「ヨロシクナ、重人! 俺モ仲間ダ!」
いづみの差し出した白い手に、カラスは頭をこすりつけた。
「この子はR38、ハシボソガラスよ」
背中に背負った発信器のようなものが、カラスの鳴き声を翻訳していた。
彼女は数種類の動物の声を翻訳する技術開発を手がけている。
さらに、あらゆる植物を録音機器として利用する方法を研究中らしい。
葉についた傷あとから、その時につけられた音を再生する機器の開発向上を目指しているそうだ。
地下基地でありながら観葉植物の鉢が多いのは、そういうわけだ。
ということは、ここの会話は全部録音されている?
「それぞれのテーブルが個人の作業台でね。君のも用意しておいた。すぐにテーマは見つからないかもしれないけど、おいおい始めるといい」
楕円形の何も置かれていない真新しいテーブルに、その人は手を滑らせた。
「僕は飯塚史彰、ナンバー03。ここのコンビニ店長をしている」
その言葉に、俺は思わずプッと吹き出した。
他の二人も、クスクスと笑っている。
「冗談ではないよ」
「そんなの、分かってますよ」
竹内がそう言ったとたん、警報器が鳴り響く。
『緊急事態発生、北緯○度40分57秒 東経△度45分10秒、異常電圧を検知』
地下にある一番大きなディスプレイに、それは映し出された。
自動販売機から伸びた線が電線に絡みつき、ガタガタと震えている。
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