第10章 激動編

第63話 女の子の気持ち

 昭和五十八年四月、遂に私は中学生になってしまった。


 『前の世界』の私なら寿命はあと二年と四ヶ月……


 今のところ私の身体に異変は無いけど、『前の世界』でも中学生になって直ぐに発症したから油断はできない。


 でもそれを考え過ぎるとドッと疲れちゃうからなるべく考えない様に努力している。


 それから私は中学生になって直ぐに私は久子に本当の気持ちを伝えた。


 自分の気持ちを偽り続けても苦しいし、それに久子にも失礼だと思ったからだ。


 私は久子に『もう久子の応援は出来ないわ。私も昔から五十鈴君の事が好きだったの』と……


 私の想いを聞いた久子は最初、とても驚いた表情をしていたが、そのあと目に涙を溜め『うん、分かった』とだけ言うとその場を離れていった。


 それ以来、私と久子は口を利いていない。


 そうなる事は覚悟の上だったけど、やはり親友を失ってしまった寂しさは残る。


 周りの人達も内容は知らないけど私達二人に何かがあった事は雰囲気で分かるみたいで、とても気を遣ってくれているのが申し訳の無い思いでもあった。


 でも『前の世界』と同じ未来さえやって来たら三年生になった頃にはまた親友としてやり直しができると私は心の底からそう信じ、願っていた。




 そして中学生になって一ヶ月が経ち、明日からゴールデンウイークが始まるという前の日に異変が起こる。


 私の身体に異変が起こったのでは無く、どうも彼に異変が起こったそうだ。


 私は現場を見た訳では無く、隣のクラスの順子から聞いたのだけど……


 順子は一年二組で私は三組、ちなみに彼や久子は一組だった。


 その順子が昼休みに私のところへ来て驚いた顔をしながら話してくる。


「ねぇねぇ浩美、ちょっと聞いてくれる~?」


「えっ、どうしたの?」


「実はさぁ……授業中にね、隣の一組から『うわーっ』っていう叫び声が聞こえたのよ」


「えっ、叫び声?」


「そうそう、それがね……その叫び声の主がなんと五十鈴君だったらしいのよ」


「えっ、そうなの? でも何で五十鈴君は急に叫び出したの?」


 彼に何があったんだろう?


「さぁ、それは分からないわ。でも先生におかしな質問をしたり久子が照れてしまう様な事を言ったり……あっ、久子の名前を出してゴメン……」


「ハハハ、そんな事、気にしなくていいよ」


 順子、いつも気を遣わせてゴメンね……


「う、うん……それでね、最近の五十鈴君というよりも、『昔』の五十鈴君みたいな感じだったって久子は言っていたなぁ……」


 昔の五十鈴君……?


「それって小六の夏休みに病気をしてしまう前の五十鈴君って事かな?」


「えっ? 小六の五十鈴君って小六の夏休みの前と後でどこか違いがあったの!?」


 しまった!!


「い、いえ……そ、そんな事は全然無いんだけどね……まぁ、私が知っている五十鈴君で大きな出来事があっとすればその頃だったかなぁって思っただけよ……高山君とお見舞いにも行ったことがあるしさ……」


「ふーん、そうなんだぁ……でも、まっいっか。そんな事よりも浩美は部活どうなの? 『女子バレー部』ってとても練習が厳しいって聞いたけど大丈夫?」


「うん、全然大丈夫よ。先輩も優しい人達ばかりだし、練習も楽しいわ。それで、『演劇部』に入部した順子はどうなの? 楽しくやっているの?」


 そう……


 私は中学生になって直ぐに小学生の頃から憧れていた『バレー部』に入部し、順子も小学生の時から引き続き『演劇部』に入部したのだった。


「ま、まぁ、楽しくはやっているかな……部長は高田先輩で副部長は大浜先輩だし、それに二年生の佐藤先輩が凄く面倒を見てくれているしね。前に一緒に演劇をやっていた人達が多いからとてもやりやすいわ」


 懐かしい名前だなぁ……


 そこに立花部長の名前が無いのは寂しいけど……


 でも私が一年間だけお世話になった『演劇部』の先輩達の名前を久しぶりに聞けるなんて……嬉しいなぁ……


「でもさぁ……」


 ん? 順子が悩まし気な表情をしている。


「ど、どうしたの?」


「うーん……あのね、『あの田中』も演劇部に入部しちゃったのよ!!」


「えっ? 別に構わないじゃない? 田中君は小六の頃に部長もやっているし、昔よりは性格もマシになったって順子、前に言ってたじゃん? なのに何か問題でもあるの?」


「大アリよっ!! 浩美も知っているでしょ? 小五くらいから急に田中の身長が伸びてきたのを?」


「うん、知ってるよ。いつの間にか私よりもはるかに身長が高くなったよね? とても驚いたもんねぇ……」


 たしか六年生の後半からメガネからコンタクトレンズに変えていたよなぁ……


「それでね、先輩達は田中の成長した姿を見るのは初めてだったのよ。まぁ、佐藤先輩はかろうじて成長しだしていた田中を少しは知っているけど……」


 ん? 順子は何が言いたいのだろう……?


「順子? あんたは何が言いたいの?」


「だ、だから~っ!! 『あの田中』が先輩達にモテモテになってしまったのよ!! 小学生の頃、あれだけ田中をバカにしていた高田先輩や大浜先輩がよ!! し、信じられる浩美!? あ、『あの田中』がモテているのよ!!」 


「へぇ、そうなんだぁ……でもそれがどうかしたの?」


「へっ? 浩美は悔しく無いの?」


「えっ、何が? 田中君もモテて良かったじゃない……」


「よっ、良くないわよ!!」


 あっ、もしかして順子……田中君のことを……


「違うわよ、浩美!! 私は田中には迷惑を掛けられっぱなしだったけど、好きになる要素は何一つ無かったからね!!」


「私、まだ何も言っていないじゃない……?」


 はぁ……


 女子の私が言うのもなんだけど……


 女の子の気持ちって複雑だなぁ……





―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


遂に中学生になった浩美と友人達

果たして浩美達にはどんなドラマが待っているのか?


どうぞ中学生編もお楽しみに。

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