第25話 三人で大笑い
立花部長達の水着はさすがにビキニの人はいないけど、高学年らしい少し大人っぽく色とりどりの水着を着ていてとても華やかだった。
「隆君達もプールに来ていたのね?」
最近あまり元気が無かった立花部長が前の様に元気な声で話しかけてきたので私は少しホッとした。
「そ、そうなんです。今日はめちゃくちゃ暑いんで……九人で来たんですけど、他の三人は今さっき大人用プールに行きました」
彼も七夕祭り以降、少し元気の無かった立花部長がいつもの元気な姿に戻ったことを嬉しく思っているように見えたけど、ちょっと大人っぽい水着姿の立花部長達を恥ずかしそうな顔で目を逸らしている。
やっぱり五十鈴君も男の子なんだなぁ……
っていうか私達の水着姿を見ても何の反応も無かったのにさ、ちょっと悔しいなぁ……
「森重が今いたら鼻血出してとんでもないことになってるぞ」
高山君が小声で浜口君の耳元でささやいているのが聞こえたけど、
「えっ、そうなの?」
浜口君はあまり理解していないようである。
「立花部長達は六年生だから大人用プールに行くんですか?」
私が質問すると高田さんが笑いながら、
「石田さん、知ってる? 香織はなんでもできる『スーパー女子』に見えるけど、こう見えて水泳はからっきしなのよ!!」
「誰が『スーパー女子』よ!? 私、なんでもできないわよ!!」
立花部長が照れ臭そうに高田さんに突っ込んだ。
「私と香織はとりあえず日焼けしない程度に子供用プールで遊ぶつもりよ」
女優志望の大浜さんがそう言うと高田さんが、
「本当は北地区にある波のあるプールに私と睦美、加奈子と三人で行くつもりだったんだけど、なんか工事中で一週間休みらしいのよ。で、仕方ないからここのプールに行こうとなって、香織と楓はこのプールの近くに住んでいるし二人も誘ったのよ」
「そうだったんですか? じゃぁ三人は今から大人用プールに行くんですね? 大人用プールにいる色黒で少しぽっちゃりした奴がいたら気を付けてください」
高山君が笑いをこらえながら高田さん達に言った。
「えっ? 言っている意味がよくわからないけど……ありがとう、気をつけるわね」
高田さんはそう言うと轟さん、安達さんと一緒に大人用プールに向かって歩いて行った。
子供用プールに残った私達八人は高田さんが持ってきたビーチボールで遊んでいたけど案の定、体力の無さそうな浜口君が真っ先に疲れて脱落しベンチで休憩、これ以上やると日焼けしそうということで色白の大浜さんと久子と順子が日陰のある所に逃げ込み、高山君は喉が渇いたからジュース飲んでくると言ってその場を離れた。
私と彼と立花部長、残った三人はプールサイドに座っていた。
しばらく沈黙が続いたが立花部長が声を発した。
「二人共、私の話を聞いてくれるかな?」
「 「えっ? な、なんですか?」 」
二人の声が綺麗にハモり、私は少し嬉しかったけど、今はそんなんことを思っている場合じゃ無い。
「あのね、こないだの七夕祭りの演劇ね、私なりに頑張ったつもりだったんだけど全然笑いがとれなくて……主役なのに他の演者の方が笑いが多くて……そうなるような気はしていたけど、でも部長としてなんとかする、なんとかなるって思っていた自分がいたの。でも最後までなんともならなかった。だから私とても悔しかったの……」
立花部長はうつむきながら話をし、私達は黙って聞いている。
「せっかく隆君が面白い脚本書いてくれたのに申し訳なくて……全体的には良い評価をいただいたけど私の中ではどうしても納得できなくてさ。いくら他に演じる人がいないという理由はあったとしても私が主役をやるって隆君に言った時、本当は反対したかったのに反対できなくてずっと後悔していたんじゃないかなって思っていたの……」
私達は驚いた。
やはり思っていた通り、立花部長は全てお見通しでドジな幽霊をやる決意をしたということに……それと一度演劇を観ただけでそのことを見抜いてしまうつねちゃんも凄い人だと私は感動してしまった。
すると、立花部長の話を黙って聞いていた彼が口を開く。
「立花部長の演技は最高でしたよ。高山達もそう言っていたし、クラスの奴も……それに最後のセリフなんて俺、泣きそうになりましたし……」
「そ、そうですよ。私なんかは涙が止まらなくて大変だったんですから!! それに私達が通っていた幼稚園の先生も立花部長のことをとっても褒めていましたよ。立花部長について行けば間違いないって……だから私もこれから部長の様になれるように演劇を頑張ろうと思ったんです!!」
「あ、ありがとう……とても嬉しいなぁ……凄く元気をもらえたわ。七夕祭りから夏休みに入るまで、色々と考えすぎて、なかなかいつもの自分に戻れなくて……部活にも気合い入らなかったけど、今日、二人と話をして凄くスッキリしたわ。これで気持ちを切り替えて二学期から十一月の文化祭に向けて頑張れるわ。二人共ありがとね?」
立花部長はニコッと微笑んだ。
その笑顔がとても素敵で私は見とれてしまう。
そんな立花部長の背後から太陽の光が差し、部長が光り輝いて見える。
「ねぇ、そろそろ私達も日陰に行かない? なんだか背中が暑いわ」
「あっ、そ、そうですね。私も顔が熱くなってきました」
「あっ、あと一つだけ二人に聞きたかったことがあるの」
「 「えっ? な、何ですか?」 」
「二人は浜口君が演劇部に入った時、『この子、ドジな幽霊役にピッタリじゃん!』って思わなかった?」
「 「えっ!? はっ、はい! 凄く思いました!!」 」
「ハハハ、やっぱりそう思うよね? 私もそう思ったもの。彼が挨拶に来た時、私は心の中で『なんで四月から入部してくれなかったんだー!?』って叫んでしまったわ……クスッ……」
「 「 「ハッハッハッハ!!」 」 」
私達三人は大笑いをした。
こんな大笑いをするのは久しぶりだなぁ……
それも大好きな人と憧れの人と一緒に大笑いができるって、なんて幸せなんだろう……
「ところで立花部長、文化祭ではどんな劇をするか、もう考えているんですか?」
彼がそう質問すると、立花部長は笑い過ぎて出て来た涙を拭きながらこう言った。
「うーん、そうねぇ……せっかくだから浜口君が主役になるような劇でもやろうかしら。『続ドジな幽霊』とか? ウフッ……」
「それいいですね。とても面白そうです!!」
「でも、俺はもう絶対に脚本は書きませんよぉぉ!!」
「えーっ!? 何でよ~?」
「そうね、隆君に書いてもらわないと困るわ……プッ……」
私達は互いに顔を見合わせ、お腹を押さえながら再び大笑いをする。
「 「 「ハッハッハッハ!!」 」 」
「ハ、ハ、ハ……ハ――――――クショィ!!」
私達の笑い声が子供用プールに響き渡る中、顔の上にタオルをのせ、ベンチで横になっている『次回の主役候補』浜口君の大きなクシャミが聞こえてくるのであった。
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
浩美や隆の言葉で元気を取り戻した立花部長
そんな三人での会話や笑いに浩美は幸せを感じるのであった。
さぁ、次は浜口が主役かどうかは別として(笑)文化祭に向けて演劇部は走り出す。
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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