第17話 演劇部の人達

「うーん ここのところはちょっとセリフ変えてみようか?」

「は、はい……」

「ここの場面、面白いわね。私、この場面大好きよ。フフフ……」

「あ、ありがとうございます……」


 新副部長になった五十鈴君に対して立花部長はとても楽しそうに話している。

 対する五十鈴君はどことなくぎこちない。


 五十鈴君、立花部長が美人だから照れているのかな……

 いや、ホントに美人だなぁ……羨ましいなぁ……


 私は二人のやり取りを五年生の福田さんを中心とした背景画の色塗りをしながらチラチラと見ていた。


 すると、次期部長に内定している佐藤さんが数日前の凹み顔が嘘の様な笑顔で五十鈴君と立花部長との間に割り込んできた。


「五十鈴君、わからないことや、悩んだりしたら私にいつでも言ってよ!?」


「えっ? あ、はい……ありがとうございます」


 五十鈴君が苦笑いしながら返事をすると、すかさず立花部長が佐藤さんに問いかけた。


「佐藤さん、背景は五年生中心に任せているけど大丈夫なの?」


「大丈夫です!! 面倒くさがりの福田が意外と絵が上手なので福田に任せてます。あと堤さんと後藤さんも絵を描くのが好きな子達なので心配ありません!!」


 そう佐藤さんが答えた。


「それであなたは何をしているの? 背景班の手伝いをしなくてもいいの?」


 立花部長が少し冷ややかな目で佐藤さんに言った。


「立花部長、私は演技一本なので五十鈴君の書いた脚本に出てくる全ての登場人物の性格などを分析しているところです!! 私、どの役でもやりますよ!! あれ以外は……」


 佐藤さんは自信満々な顔をしながらそう答えた。


「それじゃ佐藤さんには主役の『ドジな幽霊役』をやってもらおうかしら?」


 立花部長が少しニヤリとした表情で言った。


「!!!!」


 佐藤さんは目を大きく開き、まさかの主役だがこの『ドジな幽霊役』だけはやりたくないと思っていたので、立花部長の顔を見ながら何も答えられなくなっている。


 そのやり取りを目の前で見ている五十鈴君はどうすればいいのか分からない表情をしながらオドオドしているようだった。その表情がまた可愛いらしい。


 佐藤さんがどう返事しようか悩んでいるのを無視しながら立花部長は五十鈴君に質問をした。


「五十鈴君は裏方希望って聞いているからもしかして絵を描くのも得意なのかな?」


「えっ? いや、得意というか好きというか幼稚園の頃からよく絵は描いてました」


 五十鈴君はちょっと照れ笑いをしながらそう答えている。


「ふーん、そうなんだ。それじゃさ、脚本の手直しはこれくらいにして、あとは福田君達の背景画の手伝いをしてくれるかな?」


「はい、わかりました」


 五十鈴君はそう言うと私達のいる背景色塗り班のところに近づいて来たので、私は慌てて色を塗り出した。


 ちなみに佐藤さんは相変わらず複雑な表情のまま立ちすくんでいた。




 背景班には福田さんを中心に同じ五年生の女子、小柄で髪はショートカット、少し気の強そうな『堤未央つつみみお』さんと、ぽっちゃり系で髪はロングヘアー、のんびり屋さんな感じの『後藤恵子ごとうけいこ』さん、そして四年生の田中君、高山君、順子と私に五十鈴君が加わり七名で色塗りをしている。


「隆、大丈夫か? どんどん副部長ぽくなっているぞ?」


 高山君が小声で彼にそう言っているのが聞こえてきた。


 何が『大丈夫』なんだろう?


 私がそう思っていると、高山君の小声を聞き取った田中君が意味もわからず高山君に突っ込んだ。


「大丈夫に決まっているだろ!! 副部長ぽくって何だよ!?」


 


 五十鈴君は田中君に背を向けながら高山君の耳元に寄り、「大丈夫、大丈夫……。たぶんだけどな……」と同じく小さい声で答えている。


 おそらく私には分からない二人だけの何か話があるんだろうなと思い、私は気にしないことにした。



「五十鈴君、ここは何色にしたほうがいいかな?」


 順子が五十鈴君に聞いている。


「えっ? あぁ、ここは夜だから紺色がいいんじゃないかな?」


 私も順子に負けじと聞いてみた。


「じゃぁここはぁ?」


「ここは黒かなぁ……うーん、紺色かなぁ……石田はどっちがいいと思う?」


 えっ、何で私には『質問返し』をしてくるのよ? 

 でもまぁ、なぜか嬉しんだけどね……


「そ、そうだなぁ……どちらかというと黒かなぁ……」


「よし、黒なら俺に任せておけ! 俺は黒を塗るのが一番得意なんだ!!」


 福田さんが根拠のない自信ありげな表情で私達の会話に割り込んでくる。


「 「福田、あんた黒ばっかり塗りすぎて他の色を消さないでよ!!」 」


 五年生女子の堤さんと後藤さんが同時に突っ込んだ。


 


 しばらくすると高山君が一人、みんなとは逆の方を向き小さめの背景に色を塗っていたのだけど、その高山君の背後に人影が……


 そしてその影はしゃがみ込み、優しい声で話しかけてきた。


「高山君も色を塗るの上手だねぇ」


 声の主は立花部長だった。


「えっ!? そ、そんなことないですよ。いやほんとに……」


 高山君は少し焦った声でそう答えていた。


「いえいえ、これだけ塗れたら大したものよ。この調子で頑張ってね?」


 とても優しく綺麗な声で立花部長は高山君に言っている。


 そして立花部長は立ち上がり六年生と山口顧問が集まっている場所に移動しようとした時に高山君も思わず立ち上がった。


「たっ、立花部長!!」


 思った以上に声が大きかったので立花部長以上に声を掛けた高山君の方がビックリしているように見えた。


 二人は私達から少し離れて窓際の方に行き話をするようだ。


「どうしたの、高山君?」


 立花部長のその言葉だけが聞こえたけど、あとの会話は全然聞こえなかった。

 

 そして数分後、立花部長は『それじゃね』と笑顔で高山君に言うと、クルッと後ろを向き六年生と顧問のいるところに行くのだった。


 二人で何の話をしていたのだろう……と私は二人の方をジッと見ていたけど、チラッと五十鈴君の方を見ると彼もまた私と同じ方を見ていた。



「立花部長!! 山口先生!! わ……私、絶対に『ドジな幽霊役』だけは無理ですから~っ!!」


 向こうの方では佐藤さんの悲痛な叫び声が聞こえていた。





――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


七夕祭りに向けて動き出した浩美達『演劇部』

性格が様々な部員達がいる中、それをまとめるしっかり者の立花部長

その立花部長が五十鈴と話している姿はとても楽しそうで、その姿がつい気になってしまう浩美

高山と五十鈴の会話、高山と立花部長の会話、主役だけは嫌がる佐藤さん、浩美が気になる事が多すぎる『演劇部』であった。


ということで次回もお楽しみに(^_-)-☆


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る