第12話 お父さん、ありがとう

 夏休みも早いものであとわずか……


 私は今、必死で夏休みの宿題をやっている。

 本当に必死に……


 何故、『この世界』の私は勉強だけは十五歳のままでいられないのだろうか?

 勉強をする度にそう思ってしまう。


 教科書を見てもなんとなくこれは昔、習った事があるなぁという感覚だけで、さっぱり分からない。だから家ではひたすら両親に勉強を教えてもらっている。


 お母さんは私があまりにも質問をするので最近は面倒くさそうな感じが顔に出て来ているけど、逆にお父さんはとても嬉しそうで仕事で疲れていても終始、笑顔で勉強を教えてくれる。


「浩美が五年生くらいになったらお父さん、勉強を教える自信ないなぁ……」というセリフが最近の口癖になっているのが何だか面白い。

 

 恐らく私が高学年に上がる前にお父さんは私に勉強を教えたいが為に小学校の勉強を必死でやり直すだろうと私は予想している。


 本当に父親というのは娘のことが大好きなんだなぁ……とつくづく感じてしまう。


 もし……


 もし私が結婚でもしちゃったらお父さんは気を失うってしまうのではないかとつい心配してしまう私がいるけど……


 でも良いのか悪いのか、私の花嫁衣裳をお父さんに見せる事はきっと無いんだろうなぁ……


 そう思うととても悲しい気持ちになってしまうので、極力そんな事は考えないようにし、私は今を精一杯生きて、そして悔いの残らない人生を送ろうと心に決めている。


 悔いの残らない人生……そう、勿論彼に『好き』な気持ちを伝えることが最大の目的、目標だけど、勉強も数年後に入る部活も友達付き合いも、そして家族との団らんも全て『前の世界』の時以上に頑張ろうと思っている。


 短くても濃い人生にしようと……




 この夏休みの間は久子達と遊園地に行った後も何度か会って遊ぶようにした。


 市民プールに何度も行ったし水族館にも行った。

 ハイキングや盆踊り、花火大会にも行ったなぁ……


 勿論、いずれもうちのお父さん付きだけど、どれも楽しい思い出になったわ。


 それに遊園地以外は彼も一緒だったので私は本当に幸せだった。

 久子が毎回頑張って彼を誘ってくれたお陰だけど……


 中身は十五歳の私が七歳の男の子にずっとドキドキしていた。

 何でだろう? 彼を見ていると私よりも年上の様に感じてしまっている私がいる。


 実際に彼は本当にしっかりしているからなんだけど、『前の世界』の彼もそんなにしっかりしていたかなぁと思う時があるけどよく思い出せない。


 それに『前の世界』では彼と会話をするようになったのは小三で同じクラスになってからだったから、小一からこうやって一緒に遊ぶことができるのは感謝しかない。


 これも『この世界』ならではのことなのかな?

 勉強は一からやり直さないといけないけど、その代わりに彼との出会いを神様が早めてくれたのかなぁ……


 そういえば、遊園地に向かっている時に駅前で見かけたのは彼だったのかな?

 あの時、久子も気が付いたみたいだったけど、彼に聞いてみたのだろうか?


 気にはなるけど私から彼に聞く事はできない。

 まぁ、久子が聞いたとしてもその事を私が久子にも聞く事はできないとは思うけど……



 ああ、楽しかった夏休みもあと数日で終わってしまう。

 冬休みまでは長いなぁ……


 『秋休み』もあればいいのに……



「浩美、浩美、浩美!!」


「どうしたの、お父さん? 何かあったの?」


 急にお父さんが私の名前を連呼しながら私の部屋に入って来た。


「これを見てくれ!!」


「えっ?」


 私にお父さんが差し出したのは何か箱の様な物だった。

 そしてその箱をよく見ると、その箱は元々タオルが入っていた箱で上の部分が透明のビニールが貼ってある中身が見える箱だった。


 そしてその箱の中はタオルが入っているのではなく、中が青色に塗られていて折り紙で作ったと思われる魚やタコ、海藻などが泳いでいる様な感じになっていた。


「お父さん、これって……」


「どうだ、浩美!? 凄いだろ!? これお父さんが作ったんだぞぉぉ!! どこからどう見ても、このあいだ行った『水族館』の水槽に見えるだろ!? お魚さんもたくさん泳いでいるだろう!?」


「う、うん、凄いけど……」


「浩美、まだ夏休みの工作ができてないって言っていただろ? だからお父さんが代わりに作ってあげたんだよ。おとうさんは昔から工作が得意だったからさぁ……だからこれを持って行きなさい」


 お父さんは上機嫌でそう言っている。


「あ、ありがとう……」


 私は笑顔でお父さんにお礼を言ってその箱を受け取った。


 するとお父さんは満面の笑顔で鼻歌を歌いながら私の部屋から出て行くのだった。


「お父さん……」


 気持ちは嬉しいけど、どう見ても小一が作れる様なレベルじゃないし、学校に持って行ってもきっと先生に親が作ったってバレバレだし……


 それに……


『今の私』が作っても同じくらいの物は作れるんだよなぁ……

 勉強以外は中三レベルだから常にバレない様に手を抜くのが大変なのに……


「はぁ……」


 さぁ、日にちも無いし、今から『小一レベル』に改造しよっと……


 でも……


 お父さん……ありがとね。大好きだよ……




――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


夏休み編はこれで終了です。

次回からは新章が始まります。

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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