4-5(土)友也何処デース?


 お兄ちゃんのクラスの出し物、占いの館を後にした私たちは自分たちのクラスに戻ってみる。



 「あれ? 友ちゃんいないねぇ~」


 「由紀恵が看板猫娘していないからお客が少ないデース!」



 確かにいつもはテーブルがいっぱいで出入り口に並んでいる行列が無い。

 私は不思議に思い呼び込みのスタッフに聞いてみる。



 「お疲れ様。なんかだいぶ閑散としている様だけど?」


 「ああ、長澤さん。次の長澤さんの登場時間までお客さんは少ないよ。あ、でも予約は長澤さんが入る頃からいっぱいだけどね」



 なんなんだそれは?

 何故みんな私の恥ずかしい姿を見たがる?



 「ねぇねぇ、それより由紀恵ちゃんのお兄さん来なかった~?」


 「ああ、それならさっき出てったよ。長澤さんがいないからお茶だけ飲んでったけどね」


 何とここでも入れ違えだったか。

 私はどちらの方向に行ったか聞いてからクラスを後にする。



 「ふむ、それでは僕たちも他の所を見に行くか?」


 「はい、先輩! お供します!!」


 言いながら新田泉一郎と陽子ちゃんは私たちと別れて他の場所へ行く。



 「僕は長澤先輩に付いて行きますよ!」


 「OH-! 恋敵が増えましたデース! 少年、夢を見ると痛い目を見るデース、由紀恵は私の嫁デース!!」


 「何紛らわしい事言ってるのよ! ごめんね吉野君。へんてこ外人で」



 「いえ、でも長澤先輩ってノーマルですよね?」



 晴れやかに笑顔で突っ込みを入れてくる吉野君。

 この半年で精神的に強くなったのか、しっかりと要点をついてくる。



 「何が言いたいか分からないけど私はいたってノーマルよ!」


 「でも由紀恵ちゃんリンダちゃんと濃密な関係なんだよねぇ~」


 「そうデース! 今朝も美味しく由紀恵をいただきましたデース!!」



 「なっ!?」



 カッ!

 

 がらがらどっしゃぁーんっ!!



 思わず背景を真っ黒にして稲妻を落とす吉野君。

 そしてわなわなとしながら私を指さす。


 「な、長澤先輩ってブラコンだけじゃ無かったんですか? そんな、来年は僕がここ桜川東に来て何としても長澤先輩のブラコンを治そうと思っていたのに!! まさか同性にまで!?」



 「いや、無いから! そんなの無いからぁーっ!!」



 私の叫びがこだまするのだった。



 * * * * *



 私たちは仕方なくお兄ちゃんのクラスに行ってみるもやはりいない。



 「おかしいな、何処行ったんだろう?」


 「友ちゃんも出し物見に行ってるのかな~?」


 「友也、私が時間あると言うのに来ないとはいけないデース! 彼女を放置するのは彼氏として失格デース!!」


 「誰が彼氏よ!!!? リンダ、あんたいい加減な事言うんじゃないわよ!!」



 思わずリンダの胸ぐら掴みそうになる私に後ろから声がかけられる。



 「ああ、いたいた。由紀恵様ぁ~!」


 見れば下僕その一がお兄ちゃんを引き連れてやって来ていた。

 


 「なあ剛志、やっぱまずいよ。由紀恵も承諾していないってのに」


 「何を言うんだ友也! せっかくのお祭りだぜ、楽しまなきゃだろ?」


 「しかしなぁ‥‥‥」



 せっかくお兄ちゃんに会えたと言うのにこの二人は私を見ながら何か言いあっている。

 そしてお兄ちゃんはため息つきながら私に向き直り言う。



 「由紀恵、こいつだぞ。俺じゃ無いからな」



 「はぁ? どうしたって言うのよお兄ちゃん?」


 訳が分からず私がお兄ちゃんに聞くと下僕その一がさっと一枚の紙を取り出す。

 そして私に見せながら親指おっ立ててニカっと笑う。


 「由紀恵様、これにエントリーしておきましたよ!! ああ、リンダちゃんもね!」


 「由紀恵、俺じゃ無いからな」


 何故かお兄ちゃんが二回同じことを言う。

 私はその紙を受け取りわなわなと震える。



 ―― ミス桜川東コンテスト ――



 「はぁぁあああぁぁぁぁっ!?」


 「おー、ミスコンデース! お約束デース!! 水着もあるデースか!?」



 私の驚きの声にリンダは大喜びしている。


 

 いやいやいや、男女平等でそう言った差別を助長させるようなモンこのご時世にやるのかぁ!?



 思わず紙から顔を上げてお兄ちゃんを見る私。


 「由紀恵、俺じゃ無いからな」


 ものすごく大事な事なので三度目のお兄ちゃんの発言だった。



 「いや、でもこんなモノに私は‥‥‥」


 そう私が言いかけた時だった!



 「由紀恵ちゃん、今度は負けないわよ! リンダちゃんにもね!!」


 「‥‥‥大人の女性の魅力を見せつける。そして長澤君のハートも奪う」


 「先輩! 何処行っていたんですか!? あ、これ私もエントリーしました! 先輩ちゃんと見に来てくださいね!!」



 交代時間になったのかいつの間にか高橋静恵に泉かなめ、そして矢島紗江も集まって来た。


 

 びしっ!



 リンダは親指立てて朗らかな笑顔で答える。



 「受けて立ちマース! 勿論由紀恵も一緒デース!!」


 「へっ? い、いや私はこんなの出るなんて一言も‥‥‥」



 ぽん。



 「由紀恵ちゃん~。運命だよ。諦めようよ~」


 「うぉおおおおぉぉぉっ! 長澤先輩だったら優勝間違い無しですよ!! 俄然応援します!!」


 私の肩に手を置く紫乃。

 やたらとテンションが上がる吉野君。



 「へっ? へぇっ!?」



 「由紀恵、俺じゃ無いからな‥‥‥」




 重要過ぎる事なのでお兄ちゃんは最後に私にそう言うのだった。 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る