第119話
地下へ潜ったら外だった、奇妙ではあるがダンジョンなら今さらのことなのでそこまで驚きもない。
真っ蒼な空からは強烈な日光が照り付けてくるし、どこまでも白い砂や岩が転がり、あまり生物間は感じられない景色が延々と広がっている。
今まで潜って来たダンジョンは案外日本にもありそうなものであったが、こういったどこまでも砂漠というのはあまり見かけない。毬栗如雨露だっけ、がある光景っちゃ光景と言えるだろう。
「お、サボテン」
暫く散策したところ見つけたのは、銀色の針がギラリと太陽光を受け反射するサボテン。
一般的なサボテンと言えば天高くへまっすぐに伸びていくものだが、面白いことにこのダンジョンのサボテンは地面を這うように成長するらしい。
砂漠感すごい、本当に砂漠ってサボテン生えてるんだ。
おお、針もすっごい鋭いし痛そうだなぁ。
どれどれ、ちょっと触ってみようかと手を伸ばし、
『危険を避けろ、意識をもっと配れ』
……はっと意識を取り戻して腕を引っ込める。
この前の密林へ潜った時注意を払わず葉っぱへ飛び乗り、丸呑みにされたのを思い出せ私。
まあこの硬そうなサボテンがぐびゃぐびゃ動き出すとはちょっと思い難いが、あんまりあれこれ下手に触れるのも危険だ。
小さな気配りが生き残るコツなのよ。
突っつきたいところではあるがぐっと我慢、サボテン君を置き去りにして砂漠へ足を延ばす。
のんびりとしている暇は……まあ有るけど、今のところモンスターも見当たらないし手探りで探索するのだから、時間は多ければ多いほどいい。
「あれ? こんなところにもサボテンが」
気付けば足元にもサボテン。
同じく銀色の針がびっしり生えていて、やはりこれも地面へ寝そべった変わった姿勢。
さっきはなかった気がしたが……どうやらサボテンの群生地らしく、背後で
一瞬何か動いたかと思ったが、やはりサボテンばかりでモンスターらしき影はない。
ふむ……
「なんだ、気のせいか……と見せかけて振り返り!」
背中をあえて見せて、ちょっとばかし走ってからのフェイント。
さあ陰に隠れたその姿を見せてみろモンスター!
「さ、サボテンが動いちょる……!」
うぞ……うぞ……
てっきり砂の内側やサボテンの影に隠れていると思っていたのに、振り返って見てみればゆっくりとこちらへ伸びてくるサボテンの姿。
移動しているのではない。根っこを伸ばし、普通の植物とは比にならないほどの速度で成長と枯死を繰り返して前へ進んでいるようだ……進んだ後にはからからに干からびた元の身体が転がっている。
私が振り向いたことに気付いたらしく、ちょっとしてからピタッと成長を止めるがもう遅い。
「嘘じゃん……ふぉ!?」
サボテン達が、突っ込んできた。
それは先ほどとは比にならないほど馬鹿気た速度。
車が道路を走るより速く、一般人ならあっという間に飲み込まれてしまうほどの勢いは、さして衰える気配もなくこちらまで一直線に進んでいる。
モンスターだ……!
このサボテン達はモンスターだったのだ……!
――――――――――――――――
種族 クリーピング・カクタス
名前 イルケア
LV 12000
HP 32771/33219 MP 9054
物攻 60357 魔攻 3475
耐久 5732 俊敏 42977
知力 9184 運 72
――――――――――――――――
「いぃ!? そんなのあり……!?」
理解はできても納得はできない、だが納得しなくともモンスターは襲ってくる。
逃げるか……それとも迎え撃つか……?
逃げる場合厄介なのが私ほどではないとはいえ驚異的な速度、そう容易に振り切れるわけはなく、もし失敗したとなれば体力を消耗した上で大量のサボテンを相手することになる……か。
レベルの高さは私と同程度、そんな状態で立ち向かうのは不安が残る。
アイテムボックスから
「……迎え撃とう」
早めに気付けて幸いであった、流石にあの針塗れの身体と熱い抱擁は避けたいし。
突撃して来るならこちらも飛び込もう、背後から襲われるより何倍もましだ。
間隙を縫い攻撃を加えつつ反対へ逃げる。幸い耐久は低い、そう何度も繰り返さずとも倒せるはず……!
きりきり筋肉が引き締められ、
「『ステップ』……!?」
なんだ……この違和感……!?
今までの硬い地面とは全く違う、足が飲み込まれ力分散していく。
走っているのに体が前へ進まない、過去とのすり合わせが上手くいかない、意識だけが前へ前へ進もうとするこの感覚。
これは……ヤバい……!
砂だ。
今までの固められた地面と異なり個々の地面は砂と多少の岩だけ、ちょっとばかり力を加えられれば脆く崩れてしまう脆弱な地面は、大きく地面を蹴り飛ばす私の脚力に耐え切れない。
このままじゃ姿勢を崩してサボテンの中へ突っ込んでしまう……!
「う……んんんんぁ! 『巨大化』ぁ!」
無意識のうちに放っていたのは『巨大化』。
だがその場でモンスターを倒すためじゃない、地面に、手を伸ばせば届いてしまうほど近くの足元へカリバーを捩じりこむため。
睫毛一本の距離まで、砂粒一つ一つがしっかり見える程顔へ近付いていた砂が急激に離れていく。
跳躍。
棒高跳びの選手が手の棒一本で大空を舞うように、私も倒れる勢いを利用してカリバーを棒代わりに体を打ち上げた。
伸びる、どこまでも伸びる。普通の棒なら自重だとか
そして! 空からならどれだけのモンスターがいるかも丸わかり!
数は18、群れ、しかも私一人を狙っていたため全てが一か所に固まっている!
「ピンチはチャンス! 『スキル累乗』対象変更、『スカルクラッシュ』ゥ!」
ゆっくりと近づいてくる地面、だがもう先ほどと異なって高跳びする必要なんてない。
巨大化したカリバーが風を、光を纏い嘶く。
「『スカルクラッシュ』! ゼアアアアアッ!」
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