第50話
気が付くと私は、小さな部屋に立っていた。
窓際には木製の机があり、壁には無数の本が収納された本棚、そしてしわくちゃな服などが適当に放り出されたベット。
窓を覗けば古臭い、それこそアニメだとか、映画だとかに出てきそうなデカいお城まで見える。
羽ペンだとか、よく分からない謎の置物だとか、妙にちぐはぐな時代感覚。
今時こんなものを使っている人なんているのか、もしいたらとんだ変わり者だろう。
はて、そもそも一体ここはどこなのか。
首を回し再度見直すが、やはりこんな部屋、というかこんな場所記憶に一切ない。
私は確かに白銀の騎士をぶっ潰して、ちゃちなペンダントを弄っていたはずなのだが。
もしかしてあのペンダントには、こんなリアルな映像でも見せる技術が詰まっているのだろうか。
中々やるじゃないか。大して売れなさそうだなんて言って悪かった。これはもしかしたら当たりの魔道具かもしれん。
もしかして触れるのかと思って手を伸ばしてみたが、残念なことに空を切る。
本の中身など気になったのだが、そう上手くもいかないか。
「ふぁ……つかれたぁ……」
「……っ!?」
突然背後から声がして、吃驚し肩が跳ねる。
そこにいたのは金髪の少女、いや、勿論私ではない。
見た目こそ人間そっくりだが耳が長く尖っている、長い髪を一つに縛った女の子であった。
やはり私のことは認識していないようで、こちらへ一直線へ歩いてきては身体を通り抜け、そのまま机へと座り込む。
そしてガサゴソと机の中を探って紙束を取り出し、ふんふんと楽し気な鼻歌、端にあった羽ペンでさらさらと何か書き記していく、
ちょっと覗いてみてみたが、全くもって何と書いてあるか分からない。
……退屈だ。
彼女は何か空中を見上げては何か思いつき、図などを示していくのだが、どれも見たことがない物ばかり。
最初こそ興味をひかれたが、意味が分からなければ見ていても何の楽しみもない。
色々気になることはあるがそれより飽きた、早く帰ってケーキ食べたい。
「ふぃー……これで貧者でも栄養を取ることのできる……」
少女がどこか年寄臭い嘆息をこぼし、ぐいと背伸びをする。
その時胸元からちらりと見えたのは、あの妙にちゃちなペンダントだった。
どうやら彼女の持ち物だったらしい。
ドンドンドンドンッ!
『ひゃっ!?』
弛緩した雰囲気の部屋に響く、激しく荒々しいノック。
突然襲撃していたそれに驚いたのは、どうやら私だけではないらしい。
恐る恐る扉を開け、外をうかがう少女。
「な、なんだお前たち!」
「魔導研究者のカナリアだな? 貴様の同僚から情報提供を受けた、国家反逆罪で束縛させてもらう!」
「はぁ!? ちょ、ちょっとまて……何の痛っ、やめっ……」
ずかずかと足音を立て入ってきたのは、確かに私が倒したはずな白銀の騎士。
それも一人や二人ではなく、既にこの部屋……いや、家をぐるりと囲んでいるらしい。
いつの間にやってきたのだろう、窓の外にもずらりと並んで、全員剣を携えていた。
目を白黒させ驚愕していたカナリア? とかいう人であったが、外に並んでいる騎士たちを見て諦めたのか、手を上げ敵意がないことを主張していた。
何が何だか分からない。
え、この人悪い人なの? 見たところそんなこと考えていなさそうな雰囲気だったけど。
「くそ……お前たち、証拠もないのに無辜の民を脅すことに恥はないのかっ! 騎士というのは誇り高いものだろう、貴君らの剣は何のために捧げたのだっ! 弱者を甚振るためかっ!?」
「黙れ、悪漢に貸す耳はない!」
「あうっ……!」
鋭い拳が少女の顎を打ち据え、ふらりと崩れ落ちる。痛そう。
うつ伏せになった彼女の後頭部をブーツで踏みつけ、荒々しくその身をロープで縛り付ける白銀の騎士。
どう見てもこっちの方が悪者なんだが、私からは何にもできない。
それにしてもどこか既視感がある。
嵌められたっぽい感じといい、誰かに騙された感じがあるのは、かつての私を見ているみたいだ。
めっちゃむかつくんだよね、分かるよその気持ち。
波乱の展開に見ているこちらも手に汗握る。
うーん、よくできてるなこれ。
この映像誰が作ったんだろ、どこかの映画かなにかだろうか?
痛みと苦悩に呻くこの子の顔とか、本当にそれが起こってるみたいだ。
「王国の騎士たちよ……貴様らの行いは誇り高きその名、地に堕とすぞ……っ!」
「連れていけ!」
あ、連れていかれちゃった……
「……ちゃん、フォリアちゃん! おーい! ぺちぺちっと」
「お」
「あ、やっと動いた。どうしたんですか突然固まっちゃって」
「え……今の映画……?」
「映画ですか? いいですね! 私キャラメルポップコーンとつぶつぶのアイス食べたいです!」
目の前でふにゃりと溶けるアホ面。
あれ、今、変なの見てた気が……私だけ……?
琉希にそれとなく聞くも、帰ってきたのは頓珍漢な回答。
キャラメルポップコーン……いや違う違う、今のを見たのはどうやら、私だけのようだ。
まるで夢でも見ていた気分だ、なんだったんだアレ。
手に握るのは、やはり変わらぬペンダント。
しかし鑑定をかけても、ついぞあの映像を見ることはできなかった。
「フォリアちゃーん! お腹すきましたし、早く帰りましょう!」
「あ……うん」
まあいいか。
どうにかダンジョンの崩壊も食い止められたし、二人とも死なずに済んだし。
足元に転がっていたカリバーを拾い上げ、リュックへと突き刺す。
当初の予定だった希望の実集めはできなかったが、今から集める気にもならない。
あまりに濃い半日で寿命が縮まった気がする。筋肉に今回のことを報告して魔石を売り払ったら、暫くの間はごろごろしていよう。
随分ボロボロになったスニーカーの靴ひもを結びなおし、深く息を吐く。
柔らかな風に背中を押され、私は琉希の下へと駆けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます