第46話
「じゃあいきます……よっ!」
絞り出すような掛け声に合わせ、平たい岩が猛烈な回転を纏い草を薙ぎ払う。
気配を察知したスライムが飛び出し、その体を細くくねらせて木の枝へ括りついた。
当然その状態になれば核への守りも薄くなっているので、一気にストライク走法で肉薄した私が一撃、レベルアップにより当初より威力の増したそれを受け、スライムは全身から力を失った。
『合計、レベルが3上昇しました』
淡々とした声を聞きながら、魔石の回収を済ます。
スライムがどこにいるのか分からないなら、引きずり出してしまえばいい。
最初にこれを言い出したのは琉希の方だった。
勿論複数体出てくるなどのデメリットもあったが、彼女自身ある程度戦えるようになったことと、多少の傷なら回復魔法を扱えるというのがこの作戦を後押しする要因となった。
今まで『活人剣』による地味な回復しかなかった私にとって、回復魔法で多少の無茶が効くというのは、すこし、いや、だいぶ革命的な変化だ。
今の上昇によって私のレベルは472、泉都のレベルは415にまで到達。
はっきり言って異常なまでの速度だ。自分でもレベルが上がり過ぎて、何が何だかよくわからなくなってきた。
あれ? レベルって一回で10くらい上がるのが普通だったっけ……?
「だいぶレベルの上昇も落ち着いてきましたね……」
「うん、そろそろ」
互いにコクリと頷き、視界の先に広がる花の生えていない場所、ボスエリアを睨みつける。
今はまだボスの姿はそこにない、大方いつも通り、上から落ちてくるのだろう。
このダンジョン、花咲に存在するモンスター、その性質はダンジョン崩壊寸前とはいえ大きく変わらない。
スライムは名前こそ違えどスライムだし、恐らくボスとして出てくるのも先生の仲間。
そこに勝機があると私は睨んでいる。
私たちがスライムと戦っているのはレベル上げもあるが、それ以上に重要なのが奴らの魔石。
先生と同じタイプの敵ならば、大きな移動はしてこないだろう。
遠距離から魔石を爆弾としてぶつける、または琉希の飛ばす石に乗り上空から降らすことで、さほど苦労なく倒せないだろうかと私は企んでいる。
分かっている、そううまくいかないだろうということは。
レベルが高すぎて魔石爆弾が通じない可能性も大いにあるし、そもそもほぼその場から動かない敵である保証もない。
しかしできることはすべて準備しておきたい、次死んで生き返られる保証はないのだから。
「はぁ……お腹空きました……」
「希望の実食べる?」
「勘弁してくださぁい……どうしてそれそんな、真顔で食べられるんですか……」
気が付けば琉希と互いに笑い、軽口を飛ばすようになっていた。
周囲の草はすべて薙がれていて、スライムの姿は見当たらない。
ここに閉じ込められてから半日ほど、ようやく私たちはすべてのスライムを狩り終えたようだった。
「ステータスオープン」
―――――――――――――――
結城 フォリア 15歳
LV 472
HP 952 MP 2350
物攻 339 魔攻 0
耐久 2863 俊敏 3263
知力 472 運 0
SP 620
スキル
スキル累乗 LV2
悪食 LV5
口下手 LV11
経験値上昇 LV4
鈍器 LV2
活人剣 LV1
ステップ LV1
称号
生と死の逆転
装備
カリバー(フォリア専用武器)
パーティメンバー
泉都 琉希
―――――――――――――――
もうなんだか、入った時と比べてステータスが上がり過ぎて、何が何だか分からないのが正直なところだ。
しかし明確な弱点として表れてきたのが、圧倒的な攻撃力の低さ。
今まではよかった。私も敵もレベルが低いから、攻撃力が多少低くとも補うことが出来たから。
しかし耐久と比べて十倍の差がつくとなると、たとえ私の耐久がそもそも高水準だとしても、流石に厳しいものがある。
……ここは攻撃力を補うという点でも、『鈍器』のレベルと『スキル累乗』のレベルを上げるべきか。
200SP使い『スキル累乗』のレベルを3に、250SPで『鈍器』のレベルを一気に2、LV4まで上げる。
協会の本に書いてあったのだが、鈍器のレベルが3になれば確か……
―――――――――――――――
アクティブスキル
スカルクラッシュ 習得条件:鈍器 LV3
消費MP20
重力を利用した強烈な一撃
威力 自分の攻撃力×3倍
冷却時間10秒
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習得できるのが、このスカルクラッシュ。
消費MPがストライクと比べて一気に跳ね上がるが、威力は折り紙付き。
まあ私の場合MPに対するダメージ効率は多分『累乗ストライク』の方が上だが、逆に言えばMPに糸目をつけなければ『累乗スカルクラッシュ』のほうが断然一発の威力は上になる。
ここぞというときに頼れる、必殺技みたいなものだ。
「こっちも終わりましたよー」
途中から本格的に戦闘へ参加し始めた琉希も、彼女の戦闘スタイルに合わせて自分でスキルを割り振ってもらった。
私に任せるなどと最初は言っていたが、スキルは今後の彼女を支えるもので、あとから振り直しはきかない。
流石に必須級の鑑定は最初に取らせたが、それ以外は自分で決めさせた。
「『覇天七星宝剣』は?」
「それが1レベル上げてもなんも効果なかったんですよね……回復魔法を3LVに、それといざという時のために金剛身ですね」
金剛身は確か数秒だけ耐久を上げるスキルだったか……
回復魔法や『宝剣』の遠隔操作で戦う彼女、いざというときに耐えられるスキルは悪くないかもしれない。
残念ながら『宝剣』の方は、私の『スキル累乗』同様レベルが上がるごとに顕著な変化があるかと思ったが、そううまくもいかなかった。
ユニークスキルがどう伸びるかなんて分からないし、仕方がないことではある。
ともかく互いに準備を終え、頷きあう。
彼女の浮かせた平たい岩の上に乗り、そのままボスエリアへ直行。
この先どうなるか分からないが、全力を出して天任せだ。
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