第112話冬馬君は驚く
綾との電話を終えた俺は、仕込みなどを手伝いつつ、夕方を迎える。
すると、裏口から若い女性の声がする。
「おっ、例の新人さんが来たのかな?」
「冬馬君!ちょっと来てー!」
「冬馬、店長が呼んでる。後は大丈夫だから、休憩も兼ねて奥に下がるといい」
「はい、わかりました。では、休憩もらいます」
裏にいる女性を見て……俺は思った。
あれ?どこかで見たことあるような……?
そこには茶髪のゆるふわ系女性がいた。
特別美人というわけではないが、可愛らしい容姿をしている。
「田中さん、この子は吉野冬馬君。若いけど、しっかりしてて頼りになるから、困ったことあったら何でも聞いてね」
「初めまして、吉野冬馬と申します。よろしくお願いします。店長、それは丸投げすぎでは?俺、ただのバイトなんですけど?」
「ハハ……だって、頼りになるから……あれ?田中さん?どうしたの?固まって……もしかして、若い男の子が苦手だった……?」
「あ、あ、あっ——!!貴方は!?」
「はい?」
「冬馬君、知り合い?」
「いえ……」
「吉野君よね!?私、啓介の姉よ!」
「啓介……?姉……?……あっ——この間、会った……?」
「うちに遊びに来てくれたわよね!?」
……道理で見たことあるような気がしたわけだ。
この人は、啓介……同じクラスの田中啓介のお姉さんだ。
「はい、その節はどうも……」
しまった……言葉に詰まる……どう接するのが正解なんだ?
俺、一応先輩……相手年上……友達のお姉さん……知り合いかと言われると……。
情報が多い……はて、どうしたものか……。
「えーと……知り合いってことかな?」
「……難しいですね。とりあえず、会ったことはあります」
「ご、ごめんなさいね!勝手に盛り上がっちゃって……啓介から、よく話を聞いていたから、うちの家族では有名なのよ」
おい?啓介?何を話している?
これは学校で問いただす必要があるな……。
「そうなんですか……店長、とりあえず知り合いって事で。高校の同級生のお姉さんです」
「あっ、なるほど……それは難しいね。でも、知らないよりは良いよね」
「……まあ、そうですね。えっと……なんとお呼びすればいいですか?」
「田中恵美っていうから……」
「じゃあ、恵美ちゃんでいいかな?田中さんじゃ、他にもいるしね」
「はい、それでお願いします」
「では、俺は恵美さんですね」
「えっと……お話では、吉野君が先輩で教育係って……一生懸命に頑張るので、ご指導よろしくお願いします」
……きちんとお辞儀をして、歳下の俺に頭を下げるか……。
なるほど……良美さんが気にいるわけだ。
もちろん、俺的にも。
「はい、こちらこそ。ただ、タメ口でいいですから。友達のお姉さんに敬語で話されると、中々反応に困りますので……」
「で、でも……先輩ですよね?」
「恵美ちゃん、うちは従業員の間は割とフランクだから。もちろん、だからといって偉ぶったりしたらダメだよ?」
「そうそう、店長がコレですからね」
「冬馬君……ひどい……」
「冗談ですよ。俺は店長好きだし、頼りにしてますから」
「ほんと!?やったね!」
「ふふ……良かった、楽しそうな場所で。それに、良い人ばかりで」
その後、緊張が解けた恵美さんを連れて厨房に入る。
「えっと……友野さんは?」
「今日で2回目なので、挨拶はしてあります……敬語になっちゃうわね」
「ハハ……じゃあ、無理はしなくて良いですよ」
「そうしますね。友野さん、おはようございます」
「ああ、おはよう。よろしく」
相変わらず、初対面に近い人には寡黙だよなぁ。
まあ、それがかっこよくもあるんだけど。
その後、お客様が来店するので、オーダーを受けてもらう。
もちろん、俺が後ろで見ている。
「うちは食券制じゃないので、紙にラーメンの種類を書いて、その横に硬さや味の濃さなどを記入してください」
「は、はい……」
「慌てなくて大丈夫ですよ。大事なのは、ミスをしない事です。多少遅かったり、手間取る
ことは仕方がないことですから。慣れるまでは、慎重に慌てずに」
「はい!ありがとうございます!啓介の言う通りですね……しっかりしてる……」
「いえいえ、至って平凡な高校生ですよ」
「それは……ギャグなのですか?」
「俺は本気なんですけど……なぜか、皆がそういう反応するんですよねー。あと、今は指導してますから話していますが、基本的にお客様いるときは雑談みたいのは禁止です。言われましたか?」
「はい、もちろんです。それがバイトに選んだ理由ですから。食べ行って、従業員の方々がゲラゲラ笑ってるのとかが、好きじゃないので……」
「なるほど……気持ちはわかります。では、大丈夫ですね。じゃあ、どんどん注文を取ってもらいましょう」
「ス、スパルタね……でも、頑張らなきゃ……」
その後二時間が経過して、研修生なので終了となる。
「お疲れ様でした!これからよろしくお願いします!」
「お疲れ様です。とても丁寧で、よい接客だったと思います。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
「は、はい!ありがとうございます!」
そう言い、恵美さんは帰っていった。
「冬馬君、どう?」
「冬馬、どうだ?」
「まあ、あれならすぐに使い物になるかと……それより……二人とも、俺に任せすぎじゃないですか?」
「ハハ……だって、若い子入るのは久しぶりだから……」
「俺は……そもそも怖がられるから、黙っていただけだ。適材適所ってやつだな」
「ハァ……良いですけどね。ただ、少しは頼みますよ?」
「はい!」
「善処する……」
その後、バイトに戻ると……。
予想外の客がやってきた。
「……綾、何をしているんだ?」
「え、えへへ……き、きちゃった……」
そこには、気まずそうな表情をした綾がいた……。
しかも……バッチリメイクに、可愛いらしい格好で……。
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