第9話冬馬君は追及から逃れる

 さて、まずは誰がくるかだな。


「おいおい、吉野。何の用だったんだ?」


「お前みたいな奴が、何調子こいてんだ?」


 ……オラオラ系か。

 最初に喋った方が、奥村将吾

 サッカーのスポーツ推薦で入学した奴だ。

 ツンツン頭で、別にイケメンでもなければ、そこまで身長が高いわけでもない。

 雰囲気で頑張っているタイプかな?

 俺からしたら、ただイキってるだけの奴だな。


 もう1人は佐々木浩司。

 同じく、サッカーのスポーツ推薦で入学した奴だ。

 こっちは、とくに特徴はない。

 奥村誠二の腰巾着みたいなものだ。

 1人では、威張れもしないタイプだな。


 ……ひとまず、予想通りだな。



「いや、大した用じゃなかったよ。清水さんが、周りから理系の神崎君とかどうなの?とか聞かれるらしくてさ。それで俺、一応小中一緒だったからさ。どんな人かな?って聞かれただけだよ。もちろん、清水さんもその気なわけではなく、あまりに皆が言うから気になったみたいだよ」


 これで奴には、借りが出来てしまった。

 黙っていればバレることはないだろうが、それでは俺の矜持が許さない。

 ちなみに、うちのクラスである2年C組は文系だ。

 理系とは校舎が違うので、交流が少ない。



「なるほどな!そりゃそうだよな!お前みたいのに用があるわけないわな!」


「そういや……神崎が、たまに吉野に話しかけてるの見るな……」


「そういうこと。じゃあ、いいかな?まだ、昼ごはん食べてなくてさ」


「ああ、もういいぜ」


 どうやら、無事に切り抜けられたようだな。


 俺が弁当を取りに机に行くと、清水が教室に入ってくる。


 皆から、色々と言われているようだ。


「なんだー!その場で言えば良かったじゃん!」


 この声は、リア充グループの1人である、ギャル子さんだ。

 ……いや、正確には森川愛子だな。

 まあ、ギャルだな。

 そこそこ可愛いと思うが、化粧が台無しにしているタイプだ。

 もちろん、そのギャルな感じが良いっていう奴も多いけどな。


「きっと、みんなが注目するから言いづかったんでしょ」


 こちらはもリア充グループの1人である、腹黒子ちゃんだ。

 ……正確には、黒野加奈だな。

悪いやつではないと思うが……。

 おそらくだが、腹に一物抱えてそうだ。

 容姿は美人系で、スレンダータイプで人気があるようだ。


「ごめんね!そうなんだよね、なんか皆が注目しちゃったから。吉野君には悪いことしちゃったな」


「まーね!そりゃ注目するわー。で、どんなん?」


「んー、わかんないや。やっぱり、実際に話してみないとね」


「それも、そうだよね」


 俺はそれを尻目にし、教室を出る。


 再び空き教室に戻ると、先客がいた。


「よう、色男」


「うるせーよ、真司さん。ていうか、見てたのか?」


 この男の名前は、名倉真司。

 この学校の先生にして、俺の古い知り合いである。

 年齢25歳のワイルド系イケメンで、男女問わず人気がある。

 教科は、体育教師だ。

 ……そして、この空き部屋を用意してくれた人だ。

 というか、この人が使っているのを貸してもらっている感じだな。


「スー……フゥー……まあな。入っていくのが見えたからな。いきなり不純異性行為されたら、さすがに止めなきゃならんし。そのために、貸したわけじゃないしな」


 窓際で煙草を吸いながら、そんなことを言い出した。


「そんなことするわけねーだろ!アンタの頭ん中は相変わらずだな!」


 この男は良い人なのだが、とにかくゲスい。

 下ネタ大好き野郎なのだ。


「なんだ、やらないのか?勿体ない。あんな良い女は、そうはいないぞ?俺が教師でなかったら、手を出しているところだ」


「いや、教師じゃなくてもダメだから。このご時世だと、発言すらアウトだから」


「ホント、つまらん世の中になったよなー。おかげで、煙草すら気軽に吸えない」


 この男は、そのために空き教室を利用している。

 そして、お互いに色々隠し事が多いので、協定を結んでいる。

 他の先生方には、ぼっちである俺の悩み相談を受けていると説明しているらしい。

 多少俺の精神が傷つくが、背に腹はかえられぬ。

 俺の楽しい昼食の時間のために……!


「あ!そうだよ!時間がない!」


 俺は真司さんから距離をとり、急いで弁当を開けて食べ始める。

 タバコの臭いがついたら、さすがにマズイからな。


「で、どうなんだ?ヤルのか?」


「ッ!!ゴホッ!ゴホッ!」


 危ねぇ……!口から出るところだったぞ!?

 俺は麦茶を飲み、なんとか押し流す!


「おいおい、ゆっくり食べないと危ないぞ?」


「アンタの所為だよ!たく、頭の中にそれしかないのか!」


「なんだよ、普通はそうだろ?高校生なんか、ヤレれば誰でも良いだろ?ましてや、あの清水だぞ?みんながヤリたいだろうに……勿体ない。とりあえず付き合ってヤレば良いのに。アレは、お前に惚れているぞ?」


 それには、薄々気づいていた。

 たとえ、吊り橋効果といえな。

 そしてヤリたくないといえば、それは嘘になる。

 俺だって健全な高校生だからな。

 だが、綺麗事に聞こえるだろうが、ヤリたいだけで付き合うのはダメだ。

 それでは、真剣な相手に失礼だ。

 何より、天国の母さんに顔向けができん……!


「……否定はしない。だが、アンタには青くさいだろうが、付き合うならお互いに好きじゃなきゃダメだ。それに、俺は自分の時間が欲しい。もし付き合うとしたら、その天秤が傾いた時だけだ」


「まあ、お前のそういうところは嫌いじゃないがな。ククク……だが、あの手の女は手強いぞ?いつまで耐えられるかな?」


 ……それは、俺も感じている。


 さて、清水はどんな手を使ってくるか……。


 俺は平穏な日常を維持できるのだろうか?


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