191話 それぞれの……

……おのれぇぇえぇぇ!!


忌々しい龍神の使徒メェェ!!


私の身体に傷をつけおってェェェェ!!


「ま、マリア様!? その体は?」


「教皇か……良いところにいた」


近づいてきた教皇を——アスカロンで貫く。


「……はへ? な、何故……」


「お前は聖女の血を濃く受け継ぎ、尚且つ再生能力に特化していた。ならば、その力ごと……私が頂く」


「わ、私に永遠の命というお約束は……?」


こやつは永遠の命を願っていた。

すでに……何百年も生きつつもな。

聖女の血を引く者の血肉を喰らいながら……。

まったく、ニンゲンとは醜い生き物だ。


「バカなニンゲンめ。ニンゲン如きが永遠な存在になるなど片腹痛いわ」


「そ、そんな……私は長年にわたり……」


「貴様が先に約束を破ったからだ。私は命じたはず……龍神の一族を根絶やしにしろと」


元々、この地に住んでいた連中だ。

奴らは龍神が加護を受けた一族。

私は自分が転移させたニンゲンにより、迫害するように仕向けた。

故に私を恨んでいるので、その為に神殺しの刀を作成しようとしたのだろう。


「……まさか、生きていた? いや、そんなわけが……私は、確かに命じた……」


「ふん、言い訳など聞きたくないわ」


そもそも、こいつがしっかりしなかったせいだ。

私の予定では、もっと信者が多いはずだった。

しかし、蓋を開けてみれば……私が復活するのに時間を要した。

魔王である使徒に触れ、人々が女神信仰の鎖を解いていったからだ。


「い、いや、確かに……まさか、あやつ……おのれぇぇ……」


「死んだか。最後まで醜い男だった」


ふむ……傷が少しは癒えたか。


しかし、まだまだ足りぬ。


「あの刀……私にこれほどの傷を負わせるとは……」


それに邪神の加護……魔王と接しているうちに、私の信望が薄れていく。


どうする? 一度王都に帰還するか?


勇者やハロルドは……やられたかもしれないか。


ここは、一度立て直すとしよう。


幸い……王都にもまだ回復できる駒は残っている。








……今しかない!


女神がいない今しか!


「カイゼル! 今だけは俺に従え!」


「御意」


「これより皇城を制圧する! ゼト! 父上の護衛は任せる!」


「はっ! お任せを!」


「コリン……先生! お手伝いお願いしても?」


「はいはい、わかりましたよー。可愛い生徒の頼みですからね」


……どうにもこの人には強く言えん。

俺が情けない頃を知っているからな。




まずは、牢屋へと向かう。


そこには、我が国の兵士や貴族達が囚われていた


「皇帝陛下?」


「カイゼル様もいるぞ!」


「アレスを信じる者達よ! 私を信じなくても良い! だが、今この時は力を貸してくれ! 女神を名乗るバケモノから——今こそ立ち上がれ!」


「「「ウォォォォ!!」」」


ここにいるのは、女神に見捨てられた……いや、女神に従わなかった者達だ。

アレスが助けた下級貴族、接していた兵士。

セレナという女のファンや、カグラ嬢のファン達。

あいつが、今まで培ってきたもの……全く、生意気なやつだ。




解放した兵士達を使い、次々と場内を制圧していく!


幸いにして、強い奴はアレス討伐に向かっている。


ここにいるのは雑魚のみだ……一部を除いて。


「お爺……ターレスはどこだ!?」


「ふむ……おかしいですな。てっきり、その為に残っていたのかと」


カイゼルの言う通りだ。


女神達がいない皇都を守る為、ターレスを残したのとばかり思っていた。


しかし、何処にも見当たらない。






結局、ターレスは見つからないまま……制圧が完了した。


どうやら、数日前からすでにいなかったらしい。


「この後はどうするので? 女神が戻ってきたら……」


「そこはアレスを信じるしかあるまい。彼奴なら、きっと何とかしてくれると信じてな。もし帰ってきた場合は……俺の首でもって責任を取る」


それが……役立たずの俺にできる、唯一のことだ。

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