第二話 依頼
「というわけで、現在南方の大陸、王国より『ガトル大陸』と命名されたが、探索隊の隊長であるレーガー侯爵の死亡により、北端のベースキャンプで援軍を待っている状態なのである!」
「導師、レーガー侯爵が死亡した証拠はあるのですか? 話によると、死体は見つかっていないそうですが……」
「見つかってはおらぬが、どうもレーガー侯爵たちがガトル大陸の生物たちをえらく刺激したようで、ベースキャンプの傍に、二足歩行の小さな竜の群れが姿を見せているとか。おかげで、副隊長のアッシュ男爵はベースキャンプから動けないようである! そんな状況で、たかだか三十名ほどの軍勢が何日も孤立して生き残れるはずがないのである!」
「それもそうか……」
導師が突然バウルブルクにやって来たのだが、話の内容は決していいものではなかった。
王国が南の新大陸に探索隊を派遣したのはいいが、なぜか探索隊の隊長であるレーガー侯爵……どっかで聞いたな……そうか! 帝国内乱でニュルンベルク公爵に討たれた奴か!
多分息子だと思うが、勝手に自分の手勢だけで探索に出てしまい、どうやら魔物に食われてしまったようだ。
「親も親なら、子も子である!」
「じゃあ、どうして探索隊の隊長にしたんです?」
完全に、王国側の人選ミスとしか思えないんだけど……。
「そこは色々と、王宮内の複雑な事情というやつである!」
「はあ……」
そんな理由で、いきなり探索隊の隊長が死んでいれば世話ないと思うけど……。
「どうせ、レーガー侯爵のバカ息子を合法的に処分しようとしたんだろうぜ」
「ブランターク殿!」
「事実だろう? 導師」
「そうなんですか?」
「うむ……なのである」
導師に同行していたが、これまで静かにしていたブランタークの推察を、導師は渋々と認めていた。
「レーガー侯爵ってのは、先代は帝国内乱時に王宮で主戦論を煽り、軍勢を率いたのはいいが、ニュルンベルク公爵に呆気なく討たれてしまった男だ。確かその時の失態で、レーガー侯爵家は軍務卿の持ち回りを外されたんだよな?」
「ブランターク殿の言うとおりである!」
「跡を継いだ息子はそのことを根に持っていて、いつかレーガー侯爵家を復活させようと思っていた。そこで王宮は、新大陸の探索隊の隊長に彼を任命したわけだ。爵位は十分だからな」
レーガー家は侯爵で、元は軍務卿に任じられる家格を持っていた。
探索隊の隊長になっても不思議はないわけだ。
「なにも王宮も、必ずレーガー侯爵を始末しようとは思っていなかったのである!」
「自重して真面目に任務をこなしていたら、軍務卿の持ち回りに復活できたかもしれないが……。どうやら、レーガー侯爵家だけでなにか利益を得ようと思って、自分の家臣と兵だけで勝手に動いたようだな」
そのせいで二足歩行の小さな竜たちを刺激してしまい、食べられてしまったわけか。
そしてレーガー侯爵たちを食い散らかした小さな竜たちがベースキャンプを窺うようになってしまったので、探索隊は身動きが取れなくなってしまった。
「……親子して、余計なことしかしないんですね」
「探索隊なのに、探索できていないのである!」
「ですが、それは戦力不足もあったのでは?」
レーガー侯爵は法衣貴族なわけで、それほど軍勢を持っているわけではない。
数十名が死んだくらいでベースキャンプから出られない探索隊なんて、正直なところ先が思いやられるのだけど……。
「最初に、ガトル大陸に拠点を作るのが、レーガー侯爵たちの最大の目的だったのである! それを、自分たちだけで勝手に探索など。愚かしいにもほどがあるのである!」
「大方、先に領地にする土地に目星をつけておこうとか、金になる鉱山とかを見つけて優先権を主張しようとしたとかですか?」
「辺境伯様の想像どおりだと思うがね。それでだ。探索隊の援軍派遣を早めるそうだ。新しい隊長も必要だろうからな。規模も当初の予定より相当増やすらしい」
上陸地点とその周辺は魔物の領域ではないという推測が立っていたらしいが、実際には二足歩行の小さな竜が群れで出現した。
二足歩行の小さな竜……魔物なのであろうか?
もしそうだとすると……。
「(恐竜か!)」
南の大陸って、恐竜がいるのか。
海にサーペントがいるくらいだから、南の大陸に恐竜がいても不思議ではないのか。
サーペントは魔物ではないので、二足歩行の小さな竜も魔物ではないかもしれない。
その二足歩行の小さな竜が出現するまでは、ベースキャンプ周辺には大きめのネズミが沢山いたと聞いた。
動物と魔物が一緒に棲むなんて、リンガイア大陸ではあり得ないのだから。
「どちらなのかは倒してみればわかるのである! 追加の援軍を大幅に増やす予定なので、王都の軍系貴族たちはみんな大忙しなのである!」
仕事なのは確かだけど、なにか功績をあげれば褒美なり、爵位の上昇なりが望める。
直轄地が増えればポストも増えるので、みんな必死なのだろうと思う。
「(大変そうだが、南の大陸は王国の担当だ。俺だって領地のことがあるから、『恐竜大行進』につき合っている暇なんてない)それはご苦労様ですね」
俺は遠くバウマイスター辺境伯領から、みんなの活躍を心からお祈り申しあげております。
本当、自分の領地の開発で忙しいのだから。
「なにを言っているである? 某がここに来たということは、当然バウマイスター辺境伯も援軍に加わるのである!」
「俺ですか? 俺は忙しい……」
ガトル大陸の手前までの島嶼群は、すべてバウマイスター辺境伯領なのだ。
開発で忙しいし、探索隊への物資補給の任も王国から受けていて……援軍!
もっと物資を送らないといけないのか……。
せっかく魔導飛行船を増やしたのに、バウマイスター辺境伯領内の交通、流通が滞ってしまうではないか!
「無論、陛下もバウマイスター辺境伯領の事情は理解しているのである! 援軍の増加は、王国全土の交通と流通に支障をきたすのは確か! そこで、バウマイスター辺境伯一人が出れば、貴族としての責を果たしたことにすると、陛下は仰せられているのである! 補給も『魔法の袋』を持ち、『瞬間移動』を使えるバウマイスター辺境伯なら可能であろう? とにかく王城に向かうのである! バウマイスター辺境伯! 『瞬間移動』で王都にゴー! である!」
「(導師、絶対にワクワクしてるだろう)」
俺は別に、恐竜好きでもない。
ゆえに、南の大陸になど行きたくもないが、悲しいかな社畜精神が抜けきらないこの身のため、導師に面と向かって『嫌です!』とは言えず、やはり半ば諦めた表情を浮かべたブランタークさんも連れて王城へと向かうのであった。
とにかく、一日でも早く終わらせなければ。
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