第33話 イーナとルイーゼ

「イーナちゃん、特待生試験には受かりそう?」


「大丈夫だと思うわ。ルイーゼはどうなの?」


「大丈夫だと思うよ。それよりも聞いた?」


「なにを?」


「今年の特待生。期待の魔法使いがいるんだって」


「それは初耳だわ」


「どうにか同じパーティになりたいよね」


「そうね。パーティに魔法使いがいれば」


「圧倒的に有利だものね」




 今日は、冒険者予備校の特待生試験の日だ。

 これに受かれば学費が免除になるので、陪臣家の三女という微妙な立場にいる私としては、必ず受っておきたいところ。

 もし受からなければ、スタートラインから躓くことになってしまうのだから。

 同じような境遇にある幼馴染のルイーゼは、特に緊張しているようには見えなかった。

 羨ましいくらいの平常心ね。

 それにしても、普段は情報集めてくるようなタイプでもないのに、よく受験生の中に優秀な魔法使いがいるなんて情報を掴んできたわね。


「魔法使いかぁ……。いいわね」


「いいよねぇ」


 実力にもよるけど、魔法が使えれば最低でも学費半額を得ることができるのだから。

 私たちのように武芸で特待生を狙う受験生は多く、競争率はとても高かった。


「それで、みんなソワソワているの ね」


「特待生試験に受かれば、その魔法使い君と組める確率が上がるもの。逆に特待生になれなければ、可能性はかなり低いよね」


「特待生にもなれない人と組んでくれるわけないものね」


「だから必ず合格しないとね」


 優秀な魔法使いともなれば、これから様々なパーティからの勧誘が増えるはずだ。

 パーティに魔法使いがいるのといないのとでは、安全性と稼ぎに大きな差が出てしまうのだから。

 当然選ぶ権利があるのは向こうにあり、彼に自分のパーティに入ってほしければ、最低でも特待生にならなければというわけね。

 みんな、必ず合格しようと必死なのだ。


「いつもどおりやれば合格できるって。イーナちゃんは心配性だなぁ」


「そう願うわ」


 ルイーゼはのん気でいいわよねぇ……。

 私とまるで真逆で、だからこそ長い付き合いなのかもしれないけど。

 それから予定通りに特待生試験が始まったけど、緊張しながらもいい成績を叩き出せたと思う。

 あとは結果待ちね。


「剣術の受験生は多いよね」


「剣術は多くて当たり前だから」


 冒険者を目指す貴族の子弟は多く、子供の頃から訓練を続けて慣れ親しんだ剣術で特待生試験を受ける人が多かった。

 その分競争率が激しくて、実は槍術と格闘術の方が競争率も低いのだけど。

 とはいえ、相応の実力がなければ特待生試験に合格しない。

 試験官は元冒険者なので、採点に穴があるわけがないのだから。


「一人だけ、ずば抜けて上手な人がいるわね」


「あの背の大きな短髪君だね。確か名前は、エルヴィン・フォン・ふにゃふにゃだから、貴族の子弟だと思うよ」


「ふにゃふにゃって……」


 ルイーゼも相変わらず適当よね。

 まあ冒険者予備校に入学する時点で、姓なんてどうでもいいんだけど。


「それにしても、期待の魔法使い君の姿は見えないわね」


 魔法の特待生試験も、今日行われる予定のはずだけど……。


「魔法使いの受験者は少ないし、ここでボクたちと一緒に特待生試験をやると注目されちゃうからでしょう。講師たちも面倒だから、別のところでやっていると思うよ」


「それは残念ね」


 期待の魔法使い君の腕前を見たかったのに。

 というか、魔法なんてそう滅多に見られるものではないから。


「同じ特待生になれば、教室で会えるはずだよ。問題は、どうやって パーティメンバーに勧誘するかだけど……」


「クラスメイト全員がライバル……」


 あくまでも、私たちが特待生試験に合格したらだけどね。

 少し心配だったけど、このあと私とルイーゼは無事にと特待生試験に合格できた。

 これでようやくスタートラインに立てたって感じね。

 数日後、冒険者予備校の入学式が終わってから教室に向かうと、そこに噂の魔法使い君がいたわ。

 自己紹介をすると、クラスメイトたち全員の視線が一斉に彼に向かう。


「ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスター………ああ、お隣の……とはいっても、リーグ大山脈の向こう側に領地がある貴族の子供なのね」


 噂で聞いたことがあるけど、僻地で狭い領地を営む貧乏零細貴族だとブライヒレーダー辺境伯家の重臣たちからバカにされているそうだ。

 貴族とはいえ、彼らの方が財力があるから。

 それにしても、せっかく魔法が使えるのだから実家に残るのが……跡継ぎではないのね。


「(それは跡継ぎのお兄さんも、早く領地から出て行ってほしいわけね……私たちと同じかぁ……)」


 私もルイーゼも、実家の跡継ぎである兄たちよりも家業では優秀だから、家での扱いが微妙だった。

 ヴェンデリンも同じというわけね。


「(同じ境遇のよしみとして、同じパーティに入ってくれないかしら?)」


「(ああっ! イーナちゃん!)」


「(なによ? ルイーゼ)」


「(隣の席! 剣術の特待生のエルヴィンだ!)」


 確かに見覚えがあった。

 やっぱり特待生試験に合格していたのね。

 しかも、もうヴェンデリンと仲良く話なっちゃって。


「(イーナちゃん! ボクたち出遅れているよ! ほら!)」


 楽しそうに話をしているわね。


「バウマイスター、数日で学校に慣れるだろうから、そうしたら放課後に狩猟にでも行こうぜ」


「いいよ。そっちの方が街中でアルバイトするよりも稼げるだろうからな」


「(決まるの早っ!)」


 ちょっと、エルヴィン!

 いきなりヴェンデリンとパーティを組むなんて、どんな幸運の持ち主よ!

 他のクラスメイトたちも唖然としているわね……。

 その気持ちはよくわかるわ。


「(どうする? イーナちゃん)」


「(まだ大丈夫よ。 だって、まだ二人パーティだもの)」


 冒険者パーティって、最低でも四人は必要だものね。

 つまり、あと二人は入れるってわけ。


「(私たちにもチャンスは残っているわよ)」


 なにしろ、私は槍術、ルイーゼは魔闘流の特待生なんだから。


「(でも、よくよく考えてみたらボクたちって狩猟の経験がなかったね)」


「(……そういえばそうだったわね)」


 ヴェンデリンもエルヴィンも地方の零細貴族の子供なので、確実に狩猟の経験はあるはず。

 一方の私たちは、狩猟をすると冒険者や猟師たちの仕事を奪うのか、怒られてしまう立場にあった。

 いくら特待生でも、狩猟未経験は厳しいかもしれないわ。

 もしかしたら、パーティメンバーには狩猟経験がある人を選んでしまうかもしれない。

 ならば……。


「(私たちも、放課後は狩猟をしましょう。経験を積んで、ヴェンデリンにアピールするのよ)」


「(それがいいかも。今のうちなら、まだ他のクラスメイトたちに負けないからね)」


 これからは、私とルイーゼで獲物を沢山獲ってヴェンデリンにアピールしなきゃね。

 早速彼らを偵察しつつ、街の外で狩猟をすることにしましょう。

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