第13話 超次元サッカー

午後からは能力ギフト関連の授業が行われる。

俺達のクラスは校舎内にある和室での瞑想だ。

これ以外にも訓練場を使っての訓練などもあるのだが、今日は瞑想によって精神の力を研ぎ澄ませ、ギフトの根源たるプラーナを増幅させる訓練だった。


瞑想とは言っても、特に特殊な何かをする訳では無い。

座禅を組んで只々集中するという物だ。

まあ要は精神修養って奴だな。


ただ、これが思ったよりきつい。


午後の授業時間中、丸々ずーっと座禅を組まされ、更に精神に乱れがあると精神棒で叩かれる。

10分20分なら兎も角、これを小休憩を挟んで3時間近く行うのだ。

最初聞いた時に想像した物の、数十倍はきつい授業内容だった。


「今日の授業はここまで。各自、暇な時間を見つけては瞑想を行なう様に」


桜先生が両手をパンと叩き、終了を知らせて来る。

それと同時に、俺は脱力してその場にへたり込む。

体を動かすのは得意だが、こういった静かに集中する系は少々苦手だ。


その証拠に、3時間の間に4-50回は先生に肩を叩かれてしまっている。


「修業が足りないぞ!竜也!」


「足りないも何も、今日初めてだ馬鹿垂れ」


これで足りてたら俺は瞑想の天才だぞ。

しかしこんなんで本当にプラーナとやらは増えるのだろうか?

全然実感がわかない。


「なあ。俺達これからクラブだけど、竜也も来るか?」


「泰三、クラブ活動なんかしてたのか?」


「おう!超次元サッカー部だ!」


「……」


何という頭の悪そうな名前のクラブだ。

ひょっとして、委員長とかも入ってんのだろうか?


「あ、私は入って無いわよ。委員長としての仕事が忙しいから」


俺の視線に気づいたのか、委員長が此方に掌を向けて否定する。


「私は……マネージャーかな」


宇佐田がもじもじしながら、恥ずかしそうに言って来る。

まあ彼女の能力で超次元とやらが出来るとは思えないので、無難と言えば無難なポジションか。


「まあ俺と岡部と空条の三人が部員だな。あ、言っとくけど他にもちゃんと部員はいるんだぜ」


「マジで?つかどんな活動してるんだ」


「ふふ、聞いて驚け!カッコいいシュートをしたりする部だ!」


「シュートだけじゃない。かっこよくシュートを塞ぐゴールキーパーもいる」


「エアロドリブルもあるわよ!」


泰三・岡部・空条。

3人が自分のポジションっぽい部分を説明する。

その様は正に3馬鹿といった感じだった。


……つか、岡部は真面目キャラに見せかけて、実は泰三や空条と同じ穴の狢だった訳か。


「炎を纏った俺のニューファイヤーショットを見せてやるから、部に入れよ」


別に見たくはない。

何となく想像できるし。


「遠慮しとく。ていうか、ボールに炎とか纏わせたら破裂するんじゃないのか?」


何か特殊な素材のボールでも使うのだろうか?


「ちっちっち」


泰三がドヤ顔で人刺し指を振る。

その指をへし折りたくなる気持ちをぐっと押さえ、俺は奴の続きの言葉を待った。


「本当に炎を纏わせるんじゃなくて、纏わせてる様に見せかけるんだよ」


「ゴールを守る際もビームをボールに直接当てるんじゃなく、両目から出たビームを直前で交差させその衝撃で弾くんだ」


「成程」


ふざけた部名ではあるが、その実、活動には細かい能力のコントロールが必要になってくる訳か。


「ピカーン!素晴らしい技を閃いたわ!」


空条がすっごく良い笑顔で、擬音を口にする。

そして俺を指さし叫んだ。


「アフロヘッドよ!」


「……何が?」


「飛んできたボールを、鏡君の能力でもじゃもじゃにした髪で受け止めるの!鳥の巣みたいに!そしてそのままゴールに突っ込むのよ」


「……死んでも断る」


「えぇ~」


えぇ~、じゃねぇよ。

なにその超絶格好悪いシュートは。

絶対やらね。


「じゃあこういうのはどうだ?髪を蜘蛛の巣の様にゴールに張り巡らして、シュートを止めるんだ。俺のビームと合わせれば最強の盾となる」


「スパイダーウェブね!」


岡部が真面目な顔でお馬鹿な事を言い。

空条が勝手に技名を付ける。

馬鹿馬鹿しくて付き合ってられん。


「悪いけど、人前で俺のしょぼい能力を披露する気はないから超次元サッカー部はパスだ」


「鏡君!ネガティブなのは良くないよ!自分に自信を持って!!」


自分に自信ならある。

フィジカル的には最強だし。

単に能力に対する自信がないだけだ。


「悪いけど、勧誘は他を当たってくれ」


そう言うと俺は5人を残してさっさと和室を後にする。

実はこの後、皇との約束があるのだ。

もちろん、デート等という良い物ではない。


狼のシロが今晩辺り出産しそうだから一緒に見守ってくれないかと、昼休憩の後に誘われたのだ。

ある程度狼の体力が回復したとはいえ、万全ではないからな。

何かあった時に俺の力を借りたいと思っているんだろう。


俺は教室に戻って鞄を回収し、寮に戻って自室に荷物を放り込んでから飼育ゾーンへと向かった。

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