#3 魔王(生後15分)

 ハローニューワールドこんにちは新世界グッバイオーダーさようなら秩序

 という訳で、俺はめでたくこの呪われた地へと降誕した。

 この世界で俺はゲーム世界を破壊する魔王として行動する。長くした首を洗ってろソクソ


 俺が目覚めるとそこは何方向にも道が分かれ、中心に噴水がトレードマークの丸い交差点的な場所ラウンドアバウトだった。

 道路、と言って良いのかは分からないが、道路は石レンガで敷き詰められており、そこを様々な種族の歩行者、馬車、その他謎の生物がキャリッジを引いている馬車もどきがそこら中を闊歩かっぽしている。

 中でも如何いかにも弱そうな革鎧や無骨な長剣なんかを持った異種族同士の4人組が居る。恐らく異邦人だろう。余談だが、異邦人とはこのゲーム世界のプレイヤーの呼び方だそうだ。


 このゲームの住民は生きている。

 より正確に言うならば、異世界と言っても疑わない程に高度なAIや複雑な文明がなされている。地球と同じように世界が回っている・・・・・・・・のだ。

 ウンコの声明文によれば、AIは現実の人間やその他の動物の知性をほぼ完全に模倣もほうする事に成功したらしい。

 そんなのをたかがゲームごときに使うのか、AI人権問題はどうしたのか、ヘタすれば社会問題にまで発展しないのか、と小一時間問いただしたい訳ではあるが、頭に糞尿の詰まったソクソの事だ。そんな意見は毛ほどにも気にしないだろう。

 話を戻そう。とにかくこの世界の住民AIは現実の人間とほぼ変わらない知性知能がある。

 だと言うのに、あんな弱そうなヤツらが笑顔で談笑しながら狩りに行くとは何とも不自然である。

 行動の迷いのなさから察するに、ゲーム初心者は無いだろうし、初期装備とは違うものを着ている事からも彼らが初日組である事がうかがえる。


 そういう訳で、尊い犠牲は選ばれた。そうと決まれば善は急げ。

 適当な裏路地で肩まで掛かった髪をナイフで荒々しくバッサリと切る。

 切った髪を適当な物陰に隠し、早速露店で仮面を買った。この間、【隠密】の発動を常に心がける。理由はみんな大好き熟練度稼ぎだ。

 ちなみに、【隠密】は説明を見た感じ気配を抑えたりするスキルのようなので、相手に印象を与えないようにする事もねている。

 そして服も購入する。黒とはなるべくかけ離れた物が好ましい。ので、白のワイシャツと茶色のスカートというオーソドックスな物を買っておく。ちなみに節約の為、この店で安価なものを選んだ。


 さてさて、異邦人プレイヤー達の向かった方の通りに【疾走】と【隠密】の併せ技で向かった訳だが、まだ同じ所で駄弁だべっていた。

 俺は設定ウィンドウを開き、空き枠を消費してあるスキルを習得する。そして、ある行動をショートカット設定をする。

 念の為、彼らを見失わない程度の路地裏に入り動作確認をする。よし、問題なし。


 それでは、行きますか。

 俺は【隠密】と鍛え抜かれた演技力で普通の通行人を演じる。

 そうして異邦人四人衆の後ろに丁度さしかかった所で、腰からナイフを抜き出し【疾走】とを使って一気に加速する。狙いは神官風のエルフの男。ヒーラー潰しは鉄則だ。


───〔ビギン・スライド〕


【短剣術】に内包された技が、男のうなじに直撃する。


「なッ……!!」


 グロ描写ONの俺の視界には、噴水の如く吹き荒れる血潮と、驚きで目の見開いた他三人が映っていた。神官風の白装束が紅く染って行く。

 唖然とした雰囲気に似つかわしくない軽快な音楽が脳に響く。リザルトだ。

 相手が動揺している隙に今度はローブを着た男に肉薄する。が、流石は初日プレイのゲーマー共。手に持った大きな杖でガードしながら後退、さらには魔法の詠唱らしきものをブツブツと唱えている。

 俺の攻撃は杖の持ち手をズタズタにするだけに終わった。

 呪文を制止する為に再び魔術師に遅いかかろうとした所、それを邪魔するように危険が忍び寄る。

 振り返って来たのは一本の剣。斬撃をすんでの所でかわすと、それに連携するように槍の刺突が二つ同時に・・・・・繰り出される。

 幻術か!? 厄介な。確率はフィフティ五分フィフティ五分、選ぶんだ俺。よし、右だ!

 賭けに出た。その賭けは見事に成功し、槍を掴んだ俺はそのまま槍を踏み台に【疾走】で加速し、その勢いのまま、無事槍士の脳天にナイフを刺し込めた。勢い良く漏れ出た血液は槍士の髪と獣耳を真紅に染めていく。

 パンパカパーン! とまたもや軽快な効果音が流れる。体から少しだけ力がみなぎる感覚、レベルアップである。

 どうやら【隠密】【疾走】【短剣術】のスキルも同時にレベルが上がったようだ。

 しかし勝利に酔いしれている暇などない。ここは戦場と化したのだ。


「──焦がせ、焼き払え、『火の球ファイア・ボール』!!」


 レベルアップとほぼ同時に魔術師が叫ぶと、俺の顔面目掛けて火の玉が飛んでくる。火球を躱したのは良いものの、またもや剣士の男が攻撃を仕掛けられる。


「〔ポイズン・スラッシュ〕!!」


 俺の左腕はバキリミシャリと音を立てながらちぎれ、鉄錆臭い液を吐き散らしながら空中散歩する。

 ナイフを持った右だったら、今頃詰んでいただろう。そこが不幸中の幸いというヤツだろうか。

 しかし、安心しては居られない。ある異変に気づく。

 傷口から流れる血液が黒紫に変色し、HPバーが細かく赤く点滅を繰り返しているのだ。毒だ。俺は思わず顔をしかめる。

 長居はしていられない。直ぐに決めなくてはならなくなった。

 俺は左腕の無い体にバランスの悪さを感じながらも、恐らく見物人の援護であろう矢をいなして毒剣士にキックからの冷却時間クールタイム開けたてホヤホヤの〔ビギン・スライド〕を胸元にお見舞する。

 チィッ!やはり元々ナイフでそこにバランスの悪さ、浅いか! クソッ!

 毒剣士のカウンターを弾いて、すぐさまタゲを魔術師に変更し、今度は両手首、横唇と舌の切断に成功する。カランと音がして杖が落ちる。これでコイツは魔法を使えない、戦えない。そう思っていた時期が私にもありました。


「〔ウラゥァァッッビギン・ハイキック〕!!」


 ほほが裂け、血をダラダラ流し、発音の不自由な口で魔術師が叫ぶと俺のあご目掛けてハイキックが飛んでくる──不味い!仮面が外れる!!

 咄嗟とっさに体を乗り出し、文字通り身をていして仮面を守る。しかし、その代償は大きい。

 体は大きく後ろに吹き飛び尻もちをつくが、直ぐに体勢を整える。跳ね起きた時に、明確な違和感を胸に感じる。胸骨か、肋骨か、ピシリと嫌な音を立てる。呼吸をする度、不愉快な感触が肺の上をなぞり、喉からカヒューと妙な音が鳴る。痛覚を遮断しているとは言え、触覚は失われていないのだ。

【格闘技】か!【体術】か?! いや、今はスキルの種類なんてどうでもいい。

 格闘魔術師をどうにかする事が先だろう!

 くそ!失念していた! 俺のスタイルは暗殺スタイルへの一点特化。相手が自分の脆弱ぜいじゃく性を埋めている可能性をすっかり見落としていた!

 くそ!剣がウザい! カスっただけでも毒が悪化しそうで邪魔だ! スリップダメージの所為で時間をかける事も出来ない!

 くそ!外野が邪魔臭い! 矢や魔法がちょこちょこと飛んでくるのが敵チームの連携の外側からくるから不規則で読みづらい! だが逆に言えば相手もこのチームの連携に慣れていない。当たらないよう気を配るがゆえに弾数が少ないのが不幸中の幸いか?

 くそ!くそ!くそ! HPが無くなる!

 いやダメだ。冷静になれバンブー、焦りは禁物だ。

 意識を集中すると、詠唱句が頭の中に浮かび上がる。

 蚊の羽音のようにかすかな声量で詠唱を呟く。


 黒の坩堝るつぼ幾千いくせんもの手、我バンブーなり。我が真名の下に闇の力を奮い給へ。堕とせ、陰れ──




───『影縛シャドウ・バインド


「……!」


 石レンガに黒い水溜りのようなモヤが張り付き、そこからゲソのような物体が生え、それらが這う触手のように格闘魔術師の足をからめとる。

 格闘魔術師を【闇魔法】で捕縛する。

 このゲームの闇魔法は直接的な攻撃力が低い代わりにイヤらしい効果の物が多い。ありたいていに言えばデバフである。

 体術を使うとはいえ相手は魔術師。このゲームはスキルやプレイログに基づいてレベルアップ時にステータスが自動上昇する……とされている。

 この考察が正しければ魔法抵抗力は強いと推測出来る。この捕縛に強力な効果は見込めない。

 しかし、隙があればそれで十分。


───〔ビギン・スラッシュ〕!


 格闘魔術師の喉仏が両断されると同時に、その隙を逃すまいと毒剣士の斬撃が背中を抉る。それに合わせるかのように無数の矢、槍、魔法が俺目掛けて放たれる。

 俺は最後の手段を使う。

 次の瞬間、俺の首は横一線に裂けた。











>to be continued… ⌬

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る