ウンエイ・ブレイク・オンライン 〜狂人がVRゲ運営を壊すまで〜 ※2020/12/04~更新休止

にく

おはようございま死ね篇

#1 サヨナラ青春、サヨナラ課金額

 終わった

 10万が消し飛んだ。

 俺の一番の楽しみが……

 順を追って説明しよう。

 まず話は昨日にさかのぼる。


 俺はテストもそれなりの点数をおさめ、自分へのご褒美として意気揚々いきようようと自室へ向かったのだ。

 そうしてベッドの横に置かれた怪しげなフルフェイスヘルメット──没入型VRゲーム用ハード「ダイヴァーチャル」を頭にすちゃっ、とはめたのだった。

 10万を電子マネーから引き下ろし、それを俺は迷う事無く全額ゲームへとぶち込んだ。

 そのゲームの名は『Dive Life Online』

 俺が一番最初に始めたVRゲームであり、一番好きなVRゲームである。始めたのが小六で今が高一だから、もうかれこれ4、5年近くの付き合いになるのだろうか。


 さっそく課金アイテムを購入し、武器の強化に取り掛かる。このDive Life Online、略してDLOで俺は【暗殺者アサシン】という職業に就いている。

 足靴の隠密性と短剣の毒性を課金ブーストし、掲示板で見つけた適当な晒されクン達にそっと忍び寄り、首をはねる。

 驚愕の表情をしながら宙に舞う生首と飛び散る赤オレンジ色のポリゴンを見ながら達成感に包まれる。

 ひと仕事終えた俺はログアウトし、その日はそのまま眠りについた。


 そして事件は起こった。


 俺は朝の通学電車の中でスマホの進化系、ホロボードを取り出した。

 半透明の液晶に映し出されたのはSNSサイト。

 俺は立派なネット依存性ネチズンであるからして、こうしてタイムラインを警備するのが朝のルーティンなのだ。

 そこに、信じられないニュースが飛び込んでくる。



『Dive Life Online終了のおしらせ』



 その時、俺の視界は真っ白になった。

 終了?は? 何が? DLOが? 嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!

 昨日課金したばっかりだぞ! しかも10万だぞ10万! 学生の10万は高ぇんだぞ、この野郎!

 そんなのあんまりだ! やだやだやだやだやだやだ!!

 その時、ブッダかイエスかはたまたラヴクラフトかは知らないが、俺の脳裏には神の啓示としか言えない、鋭い勘が過ぎる。

 何か裏があるはずだ。あのDLOがいきなり終わるなんて有り得ない、と。

 検索欄に打ち込まれたのはDLOの開発会社。

 俺は血眼になってホログラムに指を滑らせる。

 そして見つけた。


「クソがァァァッ!」


 俺は雄叫びを上げる。

 仕事の始まりに憂鬱ゆううつになるサラリーマン、和気藹々わきあいあいと話し合うギャル、ソシャゲ団欒だんらんをしている男子中学生。その他有象無象が一斉にこちらをギョッとした目で見つめて来たが、とにかく今はそれどころでは無い。

 見つけたまとめ記事にはこう書かれていた。それもデカデカと。



【悲報】ソークリさん、DLO運営を買収【サービス終了】



 ソーサリー&クリエイツ株式会社。略してソークリ。

 我が楽園を崩壊させた諸悪の根源にしてこの世の絶対悪フィクサー。現代のアンラマンユである。

 どんな卑劣で極悪非道な手を使ったかは知らないが、数年前にいきなり出てきたかと思えばゲーム業界の一位二位を争う超大手へと急成長した界隈の突発性悪性腫瘍ガンだ。

 前々からおかしいとは思って居たんだ。それが今回の騒動で明るみに出た。

 まとめ記事ではDLOは最近売れ行き不足だったとか、社長がセクハラしてたとか言われちゃいるが、これは全て悪しきソークリの印象操作なのだ。

 レスバトルとソース確認をしないと生きていけない彼等が情報操作に踊らされるなんて。おのれソークリ。


 俺がコメント欄で真の情報を教えさとそうとしていると、ふと関連記事が目に入る。



【ソークリ】新ゲーAnother World Life Online、マジで面白そうwwwwww【死ぬ気で作る】




「あ、あ、あ……」


「あの、大丈夫ですか? さっき凄い声で……」


「クソ野郎ォォォッ!」


「ひぇっ!?」


 オイオイオイ、信じられるか? これが大手のやり方か?

 タイトルをよく見て欲しい。

『Dive Life Online』

『Another World Life Online』

 そう、パクリなのだ。

 そう!LifeOnlineと言う二単語が完全に被っている!

 これは重大な著作権法違反に当たる。決してありふれた単語を使ってたまたま被ってしまった、なんて事では無いだろう。

 ふざけるな! DLOをどれだけ侮辱すれば気が済むんだ!

 俺の宝を良くもぉ、良くもォ! ソークリ許すまじ!

 DLOはなぁ、無課金勢にはちょっと厳しかったけど、ランカーの過半数は重課金勢だったけど、それでもDLOどこまでも楽しかったンだよォ!

 DLO君はなぁ……DLOくんはぁなァ……!

 くそぉ……。ソークリめぇ……!

 なーにが「夢のような体験、魔法のような技術、笑顔を創作する会社」だ! 悪夢と黒魔術の間違いだろ!

 あぁ、ムカつく。この担当チーフとやらがドヤ顔で「今までのどのゲームよりも死ぬ気で作りました」とかが言ってやがるのが凄くムカつく。

 ぶん殴りてぇ……。


 その時、俺の頭に雷の落ちたような衝撃が走る。

 そうだ、壊せばいい・・・・・

 しかし俺には犯罪に走る度胸も無ければ権力も無い。ならばどうする?

 答えはすぐに出た。


 内側からゲームをぶっ壊す

 模倣パクるなら、壊してみよう、ゔゐあゝる。織田信長もそう言っていた。

 Another World Life Online──AWLOはプレイヤーの個人情報に関する問題行動以外のいかなる行動を許可している。

 これが何を表しているのか、それは実に単純明快だ。

 PKも可。窃盗も可。詐欺もリスキルも何でもあり。これが壊して下さいと言うことでなければ何だと言うのだ。

 俺は硬い決意と共に、大手通販サイト──JungleジャングルでAWLOをカートに入れる。


「あ、あのー」


「はい、どうされましたか?」


「えっあの」


「何かお困りですか?」


 俺はオロオロとしているサラリーマンに物腰柔らかな口調で対応する。

 まだ完全にでは無いが、ひとまず可能性キボウを見つけ出す事が出来た。俺の気持ちは晴れやかだった。

 ところで、何故彼はそんなにも戸惑っているのだろう。痴漢の冤罪でも吹っかけられたのだろうか?

 怯えきった表情のサラリーマンを横目に、俺は再度心に誓う。




 ──絶対に潰してやる!











>to be continued… ⌬

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