元第二王子とヒドインの子は復讐を誓う。
ありま氷炎
元第二王子とヒドインの子は復讐を誓う。
第1話
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「我が王家の恥だ。お前はもう王子ではない。罪は問わぬから、平民としてその者と共に末永く幸せに暮らすがよい」
「父上!」
見目麗しい第二王子には、美しくて賢い婚約者がいた。けれどもある時から第二王子はある女性に懸想するようになってしまった。小柄で目が大きく、庇護欲を掻き立てられる顔立ち。彼女は平民であったが貴族の養女となり、社交界に入り込んだ異端児だった。元々貴族ではないため、令嬢として欠ける部分が多かったが、第二王子はそこを気に入ってしまった。
周りは諫めたが王子の熱は冷めなかった。
そのうち、おかしな噂が立ち始めた。婚約者が嫉妬のあまり、その彼女に嫌がらせをしていると。その現場を見た者がいると、発言する者も出てきて、第二王子はとうとう婚約は破棄した。
けれども、数週間後、真実が明らかになる。
悪い噂を立てたのは、見事第二王子を射止めた彼女の方だったと。元婚約者には悪いところは何もなく、彼女は事実を持って糾弾された。
第二王子はそんな彼女を援護し続け、元婚約者や証拠を示した第三王子を嘘つき呼ばわりして、とうとう、王を激怒させた。
元婚約者の家は王家とも繋がり深い名門、それを愚弄し、己の過ちを認めようとしない王子の王位継承権をはく奪、その上、身分を平民に落とした。もちろん、王子を誑かした彼女の養子先も取り潰され、彼女自身に罪を問おうとしたが、元婚約者の恩情で彼女は罪に問われることはなかった。
こうして第二王子は身分を失い、愛する女性と共に平民として暮らしていくことになった。悪意のある噂によって傷ついた元婚約者は、第三王子によって慰められ、彼の婚約者となる。
『無実の罪で婚約破棄されましたが、第三王子と婚約して幸せになりました』
この物語から時は流れ、六年後。
新たな物語が始まろうとしていた……。
☆
なぜ、自分がこのような目に合わないといけないのか?
――それはお前の親がクズだから。
物心をついた時から、彼は虐められていた。
家の外に出れば、クズの子呼ばわりされる。
その事情を知ったのは、5歳になった時だった。それまでは彼は完全に理解できていなかった。
家では、体を壊した父のため、母は身を売ってお金を稼いでいた。父は病床で母に詫び、母はそんな父を罵倒した。母は確かにいい母ではなかった。けれども、父と彼のため、お金を稼ぎ、食事を用意し、父の世話をし続けた。
「僕のせいだ。僕が無能なせいで。許しておくれ」
父の口癖はいつもこれで、彼は泣き続ける父に途方にくれるしかなかった。母は、「いつもそればかり。本当無能だね。早く体を治して働いてちょうだい」と言い返し、父は儚く笑った。
「セイン。誕生日おめでとう。今年も何も贈れなくてすまない」
「そう思うなら早く体を治してちょうだい」
彼―セインは5歳の誕生日を迎えた。
父はいつもの通り詫びをいれ、そんな父に母は悪態を返す。
小さな部屋の小さなテーブルの上に、手のひらより小さいケーキが一つ。セインは初めてみるケーキが珍しくて仕方なかった。
「本当は、5歳だから5本だけどね。5本も立てたらケーキが壊れちまう。だから一つだけ」
母はそう言って、小さなケーキに一本蝋燭を差して火をつけた。
「さあ、セイン。心の中で願いを言うんだ」
「願い?」
「なりたいこととか、欲しいことだよ」
「セイン。きっといつか神様が叶えてくれる。願うんだ」
「神様なんていないけどね」
「ミエル」
「だってそうだろう。神なんているわけがない」
「ミエル。ごめん。本当にごめん」
そう言って、父はまた泣いてしまった。
「仕方ないねぇ。本当。セイン、カイルに構わず、さあ、願いを心の中で唱えるんだ。願っていればいつか叶う時がくる」
母の言葉に頷き、彼は願う。
いつまでも父と母と一緒に暮らせるようにと。
それだけを。
だけど、願いは叶うことはなかった。
「……セイン。この手紙を持って城に行くんだ。父上がきっと助けてくれる」
5歳の誕生日を迎えてからすぐに母が死んだ。勤め先で客に殺されたのだ。父が代わりに働こうとしたが、立つのも精一杯であり、彼はセインに手紙を渡し、城に行くように伝えた。
手紙を持って、城の門番に手紙を見せた。
けれども、読んで失笑されて追い返された。しかも、手紙を返すことはなかった。
お腹を空かせながら、家に戻ると彼はそこで血を流して倒れている父の姿を見つけた。
文字を読めなかったセイン、手紙には彼を託すことが書かれており、元第二王子であるカイルは甥であるセインを現国王が救ってくれると信じ、手紙を綴ったのだ。
しかし期待は外れ、セインは家に戻ってきてしまった。
一人取り残された彼を助けてくれる人はいなかった。
5歳の彼は、何も知らなかった。まずは家賃が払えないと知った家主から追い出され家を無くした。
それから空腹に耐えかねて店先で食べ物を見て盗む。すると血が出るほど殴られた。手当をする人もいなく、彼は血を流したまま、路上に放り出される。
冬の夜、凍てつく寒さのまま、このまま死んでしまうかと生を諦めた頃、彼の前に魔物が現れた。
「……見つけた」
黒い毛で覆われた大型の犬――魔犬はそう話し、彼はぼんやりとそれの目を見つめた。
「金色の髪に、琥珀の瞳。お前に違いない。おい、お前、復讐はしたくないか?」
「ふ、ふくしゅう?」
「美味しいものだぞ」
その日、死にかけたセインは魔犬に拾われ、魔の国へ連れていかれた。
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