第46話 パワーアップ

「台座の前で、祈れば良いのか?」

「はい、そうです。両手を合わせてから目を閉じて。ここに辿り着くまでに来た道について、ゆっくりと振り返ってみてください」

「……」


 フレデリカさんが神殿の雰囲気に圧倒されたのか緊張しながら、僕の指示に従って台座の前に立った。彼女は両手を合わせて、目を閉じる。


「……へぇ、すごいなぁ」


 シモーネさんは、食い入るように建物を見回していた。知的好奇心のような視線ではなく、熱のこもった趣味的な目で見ている。おそらく、こんな雰囲気の建物が好きなんだろうな。そんな彼女と僕は、フレデリカさんが祝福されている様子を見守る。


  祈りを捧げると言っても、特に特別な動きや呪文などはない。手を合わせて手を閉じているだけで、祝福を受けることが出来た。特定の言葉を唱えると、より効果の高い祝福を受けられる、という噂が流れていたこともある。けれど根拠のない話で、眉唾ものだった。手を合わせて目を閉じ、探索の結果を振り返るだけで十分。


 なぜ、能力がアップするのか。誰が力を高めてくれるのか。まだ誰も、この祝福について解明した者はいない。色々と、謎が多いままだった。


 ただ、ちゃんと祝福を受ければ誰でも確実に強くなれる。


 

「……」

「お!」

「まぁ!」


 集中しているフレデリカさん。彼女が祝福される様子を見守っていた僕らは、その光景を目にして驚きの声を漏らす。


 祝福を受けた証の光が一瞬、天井から降り注いで輝いているのが見えた。いつも、祝福を受ける時には自分1人だけだったので、初めて他人が祝福を受けている様子を目撃することが出来た。知識でしか知らなかったけれど、本当に輝くのか。


「……どうやら、終わったようだ」


 それからフレデリカさんが目を開けて、報告をしてきた。祝福は無事に成功して、終わったようだ。


「終わりましたか。声は、聞こえましたか?」

「あぁ、目を閉じている時に誰かの声が聞こえた。祝福を受けた私は、全ての能力が倍増したらしいぞ」

「おめでとう!」



 頭の中に声が響いて、受けた本人は祝福の内容が分かる。フレデリカさんは、能力アップの祝福を受けたようだ。


 最下層に向かっている道中で、凶暴なモンスターと何度も戦闘を繰り返し、倒してきた。戦闘の経験を積み、凄まじいスピードで戦闘能力を高めていった。その能力がさらに成長を遂げたらしい。


 フレデリカさんの次に、シモーネさんも祝福を受けた。


「私も、能力が倍増したようね。それと狙い撃ちのスキルを覚えたみたい。やり方が頭の中にスッと浮かんでくる」


 彼女も能力がアップして、新たなスキルも身につけたようだ。後方からの援護が、一段と頼もしくなる。後衛として、とてもありがたい。


「……僕も、終わりました」


 今回の祝福は、魔力倍増らしい。新しい特技を身につけたいと思っていたけれど、魔法使いにとって魔力がアップするのはありがたいので嬉しい。心の中で一応、お礼だけつぶやいて目を開けた。




「これで神の祝福を受ける儀式は、全員終わりましたね」

「あぁ、終わったな」

「このあとは、どうするつもりなの?」


 シモーネさんに問いかけられたる。一応、考えていることがあったので彼女たちに説明する。


「これから僕らは、上に戻ります」

「奴と再戦する、ということか」

「そうです。ドラゴンを倒して、地上に帰ります」

 

 モンスターとの戦闘を繰り返し特訓して、神の祝福も受けて急成長を遂げた2人。僕の見立てでは、おそらく3人で協力して立ち向かえばドラゴンと戦えるぐらいには強くなっている。


 力を合わせてドラゴンを倒して、通り抜けられなかった道を先に進む。戦う準備は十分に整った。これから地上を目指して、階段を駆け上がっていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る