第90話 失敗
――1回目失敗
限界まで西へ行ってから北上しようとするが、ウロコーヌの結界に阻まれる。破れかぶれで挑むもあっけなく首を落とされ殺される。
――2回目失敗
湿地帯を北上してから西へ抜けようとするがやはり、結界により捕獲される。この時は捕まり拷問の末死亡。
――3回目失敗
東側から北上しようとしたが、今度はフグ頭の怪物、フグオと遭遇して即殺される。
――4回目失敗
隠匿系のアイテムを開発してから北西のルート進むが、ウロコーヌの結界により補足され死亡。
――5回目失敗
――6回目失敗
――7回目失敗
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――78回失敗
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もう何度やり直したのだろうか。途中まで数えていたが、馬鹿馬鹿しくなってやめた。
拷問されることすら、眉一つ動かさなくなってしまっていた。ただ、奴らへの怒りと憎しみ、無力な自分へのどうしょうもない憤り、そして何より、あの皆と過ごした優しい日常を取り戻したいという想いだけが、僕を突き動かしていたんだと思う。
そして、針に糸を通すようなルートを発見し、遂に僕は目的の沼地の目と鼻の先まで到達する。
「見えた……」
遠方には気味が悪いくらい青い湖が広がっている。あれがあらゆる生き物を寄せ付けない件の酸の湖。
ようやくだ。あそこにいけば、あの最強の存在がいる。そうすれば、皆が助かる。シャルが助かるんだっ!
長い、気が遠くなる長い間、ずっと死を繰り返してきた。これで僕はようやくあの優しい日常を取り戻せる。
両眼からは涙が流れるのを懸命に拭い、僕はあの沼地に向けて駆け下りようとしたとき、
『ざーんねん、むねーん。ここら一体はアチキの腹の中なのーーん』
あの何度も聞いたあの濁声が響き渡る。眼前にはウロコーヌがいつもの奇妙なポーズとともに佇んでいた。
「な……ぜ?」
カラカラに乾いた喉で、どうにかそう口にする。
『あんたぁ、自分が無事に来れたと本気で思ってたのん? もちもちろんろん、わざとなのねん』
「わざと?」
オウム返しで尋ね返すと、
『どう? ムシケラが知恵を振り絞ってやっと達成したと思ったとき、その土台から潰される。それが一番堪えるのよねぇん?』
恍惚の表情で悶えながら尋ねてくる。
ダメだ。これだけはダメだ。これまで結局、ずっとこいつの掌の上で滑稽に踊っていたにすぎなかった、ということか?
「もう――沢山だ!」
僕は喉の限りに叫ぶと、最強の存在を模倣してあの湖に向けて走り出す。
目と鼻の先に今までずっと行きたかった場所がある。その事実が僕に諦めることを許してはくれなかったのだ。
しかし――。
『無駄ぁ、無駄ぁ、無駄ぁ、無駄よーーん!』
奴に背後から喉首を掴まれ持ち上げられる。
「嫌だ……もう沢山だ……」
抵抗する気力すら失い、僕はただそう呟いていた。
『あらーん、泣いてるのん? みっともなくて、ドキドキしちゃうわぁん』
僕は唯一動く左手で腰からナイフを取り出し、自身の喉に突き立て、僕は死んだ。
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