第21話 尋問の答え
赤髪優男の尋問を開始したら、直ぐに全てを暴露した。
なんでも、アメリア王国のフラクトンとかいう貴族が、帝国と通じてアメリア王国第一王女ローゼマリー・ロト・アメリアを拉致しようとしたらしい。
あの女、勇者を召喚した聖女だったってわけね。でも、まあ、改めて考えれば確かに疑う余地はない。というか、気付かなかった過去の私がどうかしているわけだが。
ともあれ、姫さんの拉致の首謀者であるフラクトンとは、あの顎髭を生やした偉そうな貴族のことだろう。無能だの背信者だのと散々嫌がらせを受けた記憶しかないな。
そして、エンズとかいう召喚士と剣帝――ジグニール・ガストレアの二人が帝国から派遣されている。
召喚術――様々な異界の生物を呼びだす術。ダンジョンに入る前のカイの知識では、召喚術とは、古代魔法と双璧を成す至上の魔法。しかも、エンズは精霊王という超常の怪物を召喚可能な術師のようだ。
【討伐図鑑】は、私の魔力により魂の情報に応じて肉体を生成し、その肉体ごと本が作り出す独自の世界へ収納しえる仕組みだ。だから多分、召喚術と似ているんじゃないかと思っている。
とはいえ、あのヌルすぎるダンジョン内の魔物だし、召喚士の召喚するものに楽々勝利できるほど現実は甘くはあるまい。おまけに厄介な現剣帝ジグニール・ガストレアまでいるのだ。分の悪い戦いになるのは、目に見えている。
戦略的に見れば撤退も十分取りえる選択肢だが――だめだ。それだけはだめだ。確かに進んで強者と戦いたいとは思わんが、これは過去のカイ・ハイネマンの想いという奴だろうな。私はローゼという娘の保護に強く執着してしまっている。そして、敗北の可能性という朧気な理由だけで、強者に背を向けて尻尾を巻いて逃げるなど私の性分に反する。それだけは絶対にとれぬ選択だ。
それに、旧剣帝アッシュバーン・ガストレア、あのご老人の剣技だけは、ダンジョン内で気が遠くなる時が経っても覚えていた。あれほど精錬されたものはそうはない。全盛期のしかも、私の劣化した記憶ではない本人の剣技、それを考えると正直、シビレがくる。そして、ジグニール・ガストレアはその大剣豪アッシュバーンが想いを託した人物。マズいな。危険極まりない相手なのに、どうしても一度剣を合わせてみたい。そう思ってしまっている。
この世界は強者で溢れている。ジグニール・ガストレアが、その中でも最上位に位置する剣士なのはまず間違いはない。無意味で生産性皆無の戦いを欲するか。まったく救いようがない。だが、それもまぎれもない今のカイ・ハイネマンの本質だ。
では、さっそく行動に移すとしよう。まずは敵戦力の攪乱だよな。
【討伐図鑑】をアイテムボックスから出すと、一ページ目、【バッタマン】のページを開く。
【バッタマン】のページは9999体と表示されている。この【討伐図鑑】は魔物の強度によって登録個体数の最大値が決まっており、強くなるほど登録個体数が次第に減っていくという仕組みだ。つまり、最も多く登録できる【バッタマン】が9999だってわけ。
今から思うとよくもまあ、これほどの数を集めたものだ。私は基本凝り性なのである。
最初は様子見だし、100体ほどで様子をみるか。
「【バッタマン】――100体、【
私の言霊に、眼前に出現する100体のバッタ男たち。
『ぎぎがが(ご主人様、ご命令を)』
バッタ男たちは左の掌に右拳を付けて一礼してくる。
「これはダンジョンの最上層の魔物? いや、それにしては聊か強すぎるようであるが、マスター、これはなんであるか?」
「うむ、特別クリア特典とやらで、ダンジョン内の魔物の魂を収納し、受肉し使役しえる本が手に入ったんだ。これがその本だな」
アスタロスは【討伐図鑑】に方眼鏡を合わせていたが、ぶわーと玉のような汗が滝のように流れ落ちる。そして蹲り頭を押さえると、
「なんちゅう奴になんちゅうもんが渡ってしまったのであるかっ!」
涙目でブツブツと意味不明なことを呟き始めてしまった。挙動不審なチキンマジン様は放っておこう。さてそれよりも――。
私はバッタマンたちの前に立つと、
「この周辺に黒色ローブの人間たちとそいつらの使役する黒豹という獣、オーガという鬼の化物がいるらしい。そいつらを攪乱しろ。私達が障害なく目的地にたどり着けてさえいればそれでいい。ただし深追いはするな。全員五体満足で戻ってこい。これは絶対の命令だ」
厳命を下す。仮にもバッタマンたちは私の配下。私といえども無駄に死なせるような馬鹿な真似はしたくない。
『ぐぎぎがぎぎがが?(殺せるのなら殺しても構いませんか?)』
「うむ、あくまで無理をするなということだ。まったく構わんぞ」
『ががぐぎぎぃぃ!!(ありがたき幸せ)』
泣く真似をしているバッタマンたちに、頬を引き攣らせているアスタロス。
ファフは満足そうに満面の笑みで頷いていた。
「では、そろそろ行動開始だ! いけ!」
『ぎぎッ(はッ!)』
再度一礼をすると、森へ四散していくバッタ男たち。
「さて、彼らが頑張ってくれている間に私達もいくとするか」
「行くのですっ!」
右拳を天に突き上げるファフニールを尻目に、
「少々、聞きたいのであるが、マスターはあれらが本気で負けると考えているのであるか?」
アスタロスが右の掌で顔を覆いながらも私に尋ねてきた。
「うん? まあ、元はあの糞ヌルイダンジョンの最上層の魔物だしな。真面に戦えば勝利は難しかろう。だが、彼らも相当鍛えている。攪乱の任務なら十分こなせるさ」
私の登録魔物は全て数万年単位で毎日鍛えさせたから、かなりの強度となっている。彼らならこの任務も無事遂行できるだろう。
「もう勝手にするのである」
アスタロスは心底疲れ果てたように肩を落として諦め気味にそう呟いたのだった。
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