第2話 新たな旅への出立

 

 早朝、荷物をまとめて家を出ると馬車の停めてある城塞都市ラムール南門前へと向かう。

 数台の豪奢な馬車の前には20~30人の男女がおり、その中で真っ白のドレスを着ている女神のごとく美しい桃色の髪の女性が微笑を浮かべつつスカートの裾を掴むと、


「カイ・ハイネマンさんですね。此度こたび、王都への旅に同行するローゼマリーです。ローゼと呼んでくださいね」


 僕に会釈をしてくる。それにしても、ローゼマリーね。聖女様と同じ名前だな。まあ、王国ではよくある名前ではあるし、単に同名だってだけだろう。


「はあ、よろしく」


 僕も軽く会釈をするが、


「無能者ごときが、なんだその無礼な態度はっ!」


 背後の白色の豪奢な鎧を身に着けた赤髪の女性が気色ばんで僕の胸倉を掴んでくる。


「アンナ! おやめなさい! そもそも彼との同行は私からの希望です。貴方の行為は剣聖様と私双方に恥をかかせるものなのですよっ!」

「も、申し訳ございません!!」


 ローゼの華奢な身体からは想像できないほど激しい言葉をぶつけられ、大慌てで僕から手を離して飛び退くと姿勢を正す。

 剣聖とはお爺ちゃんのこと。今日の僕の王都への馬車を手配したのもお爺ちゃんだ。お爺ちゃんの意図は読めないが、あの人は僕に不利益が及ぶようなことは決してしない。同行しても問題はない……はずだ。


「ローゼ様、アンナも貴方への忠義から行為に及んだのです。お許しあれ」


ローゼの隣で顎髭を生やした、黒の上下に真っ白なジャボを胸に付けた御仁が、前に進み出ると胸に手を当ててそう進言をする。


「わかっています!」


 そう叫ぶと両方の掌で頬を打つと当初の微笑を浮かべる。

 なんか、多分この人の感性は僕ら庶民に近いんだと思う。高位貴族の柵ってやつなんだろうけど、周囲との違いに相当ストレスたまってそうだ。まあ、こんな状況でそんな命知らずな発言絶対にできないけどさ。


「じゃあ、さっそく出発しましょう」


 ローゼは僕の右手を掴むと馬車の中へとグイグイと引っ張っていく。当然に周囲から集中する親の仇のような視線に、僕は諦めの気持ちとともに深いため息を吐いたのだった。

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