第40話 それぞれの陰謀

「ラティア。やっと準備が整ったな」

「はい。ワイズ様。これであの魔王が帰ってきても大丈夫ですね」

「取りあえずだがな」


 アルバートが旅立って約3年、ようやくあいつへの対応策が一応完成した。

この王都周辺に張りめぐらせた対亜人弱体化結界。人間以外を対象とし、身体能力を弱体化し、魔法を使えなくする。当然、アルバートだけでなく、あいつの弟子たちも対象だ。

 これを作るために国の年間予算の5倍の費用がかかってしまった。宝物庫の中にあった品を大分放出することになってしまった。


 そして、対鬼神族用の切り札、デーモンスレイヤー。鬼神族を滅する為に鍛え上げられた剣だ。

 別に鉱石が特殊とかじゃないぞ。太陽光とか関係無いからな。

 これは他のモンスターなどには何の効力もないただの剣でしかないが、鬼神族に対してだけは、素晴らしい効力を発揮する。この剣で鬼神族を切った場合、その傷が塞がることはない。過去に何人もの鬼神族をこれで葬ってきた。弱体化したアルバートなんぞ敵ではない――はずだ。

 ただ、その剣を使うために異世界から召還した勇者の行方が分からん。折角、獣人どもを生贄にして、こちらの世界に呼び込んだというのに……。

 アルフレッドが召喚魔方陣の一部を書き換えていやがった。あいつ、使える奴だと思って、厚遇してやったのに。あいつは何が目的だったんだ。まさか10年以上仕えてきた儂を裏切るとは思わなかった。

 勇者がいなければ、このデーモンスレイヤーの使い手が今のわが国にはおらん。レオナルドを失ったのは誤算だったかもしれん。使い辛い奴だったが、剣の腕だけは良かった。

 代わりの者を探す他ないか。何時あいつが帰って来るか分からんからな。馬車の位置はまだ獣人の国いる様だが、馬車を使っていない可能性もあるから、油断はできん。いつ帰って来ても始末できる様に対策しておかねばならん。


 アルバート、覚悟して帰って来るがいい。次に戻ってきたときがお前の最後だ。今度こそお前の息の根を止めてやるぞ。魔王め。



 アル様の力も大分馴染んできた様ですね。

 鬼神として目覚められて2年半。たったこれだけでここまでお強くなられるとは、流石アル様ですね。

 それでも、私にはまだ届かないでしょう。本来のアル様の実力はそんな程度ではないのですよ。もっと試練が必要でしょうかね。

 まあ、今は奥様方からの試練に挑まれている様ですし、しばらくは静観していましょう。今はね。



「ライカ、今日は誰の番だったかしら」

「奥様、今日はミリアの番です」

「ミリアちゃんか。彼女も大分慣れてきたから、今日も一人で大丈夫よね」

「ええ、もう一人で大丈夫でしょう。奥様、今はまだ無理されてはいけませんよ。安定期までは静養してください。それまでは我々3人でお相手いたします」

「早く皆も妊娠できたらいいのにね」

「そうですね。私はあと3か月後くらいですかね。ミリアは早いかもしれませんね」


 私達、獣人は発情期が来ないと妊娠はしないのだ。ミリアの種族は人と変わらないようで、いつでも妊娠できる様だ。羨ましい限りだ。

 私の発情期まで後3か月くらい。早く来ないかな。発情期に入ったら毎日相手をしてもらいましょう。

 でも、妊娠したら修行できないのが辛いわね。まあ、人と違って生まれてくるのも早い様だから、それは我慢しましょう。母様に聞いたところ、半年くらい辛抱すればいいらしい。

 取り敢えず、妊娠の事はいいわ。明日の夜は私の番だから、師匠に満足して貰える様に頑張るわよ。



 父様には困ったね。

 あんな美女たちに囲まれてるのに手を出さないんだから。

 ライカさんのあのおっぱいの魅力に負けないんだから、凄い人だとは思うけどね。

 まあ、漸く覚悟を決めてくれたみたいでよかったよ。これでみんな僕の母様だからね。一杯甘えるとしよう。


 びっくりしたよね。朝だ起きようと思ったら体が縮んでたんだから。転生だって気づくのに時間かかったし。

 びっくりして叫んだ所をレッドさんに聞かれたときはオワタって思ったけど、あの人が黙っていてくれて助かっている。

 今では、父様たちの痴情楽しむ仲間として仲良くしているくらいだしね。

 あの人、本当謎人物だよね。


 僕ももう直ぐ2歳だ。動き回るのにも慣れてきた。密かに身体強化の魔法の使い方もマスターしたし、俺の夢、モフモフパラダイス作成のために動き始めるとしますか。



「なあ、ディック。俺はそろそろ逃げ出したいんだがどう思う?」 

 俺の独白を聞いたディックはワフ? と首を傾げる。

 ワンコにこんな話をしても駄目だよな。


 ディックはライカが連れて帰ってきたワンコだ。少し大きくなったが、まだまだ小さくてとてもかわいらしい。いまでは俺の貴重な話し相手だ。

 

 4人に押し切られて嫁にすることになった訳だが、こうも毎日搾り取られると疲れるんだ。種馬って実は大変だったんだね。

 嫌な訳では無いんだよ。当然、4人共に俺の大事な者たちであることは変わらないんだよ。でも疲れたんだよ。

「ディック、俺はもう疲れたよ」


 よし、逃げ出そう。ここの守りは大丈夫だ。俺が居なくても常人には攻め落とすのは不可能だろう。


 あいつ等を出て行かせることには失敗した。


 ならば、俺が出て行けばいいんだ。

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