第38話 ライカの里

 ようやく着きましたか。

 私は約15年ぶりくらいになるだろうか、自分の故郷に辿り着いた。懐かしいにおいもする。たぶん両親だろう。向こうも気づいたのか、こちらに向かって来ている様だ。


「ライカ!」


 うん。顔は覚えていないけど、匂いは覚えている父様と母様だな。

「父様、母様、ライカ、只今戻りました。早速ですが、里をでる許可をください。結婚する許可をください」

「ちょ、ちょっと待て、ライカ。15年ぶりに会って、いきなりそれは無いだろ」

「父様、私は急いでいるのです」

「せめて、事情を話して貰えないかしら」

 むう。急いでいるのに……。仕方が無い。事情位は説明しないといけないか。後で師匠に怒られる。

 私の胸からワンコが飛び出した。苦しかったらしい。


「あ、あわわわ、この毛色は神狼様の御子。ラ、ライカ、この子をどうした。まさか攫ったわけでは無いだろうな」

「コレですか。しゃべるデカい狼に鍛えろと預けられました」

「し、神狼様にお会いしただと。しかも御子様を預けられるとは――」

 父様が非常に慌てている。あの獣はそれほどの者だったのかしら。

「ライカ、お前はまだ小さかったから教えていなかったけど、あの方は我々、神狼族の始祖。ご先祖様なのだ。神に育てられた神獣様なのだ」

「ふーん。それは分かったから、早く事情を説明させて。早く戻らないと妹たちに師匠を取られる」

「ふーんってお前。それよりも戻るって、また出て行くつもりなのか?」

「当たり前です。私は師匠に一生仕えるのですから」

「あら。ライカちゃんはご主人様を自分で見つけたのね。どんな方なの。母様に教えてちょうだい」

「母さん、ちょっと待ちなさい。私は認めないぞ。折角、ライカが戻ってきてくれたのに。また出て行くなんて」

「女はね、好きな人の側に居られれば幸せなのよ」


「おい、アッシュ。その別嬪は誰だ。見ない顔だな」

「あっ、族長。行方不明になっていた家の娘です。先ほど戻ってきたんですよ」

 これは、いつもの面倒事のにおいがする。絶対に絡まれる奴だ。

「アッシュの娘か。良い体してるな。俺の嫁にしてやろう。今晩、家に連れて来い」

 ほらね。大体いつもと同じ流れ。もう慣れたわ。今晩までこの村には居ないからどうでもいいわ。

「気が向いたら行くわ。さっさと消えてくれる」

「おい、アッシュ。お前の娘は随分と生意気な口を聞くんだな」

「すいません、族長。15年前に行方不明になっていたので、里の事を何も知らないんです」

「娘っこよ。この村ではな、強い者が偉いんだよ。そして俺はこの村で一番強い。だから、お前は今日から俺の嫁だ」

「私が貴様なんかの嫁だと。冗談にしてはつまらないな。私が貴様より弱いと思っているのか? 流石、田舎の獣。頭が悪いし、顔も悪い」

 誰がこんなむさ苦しい、臭い男の嫁などになるものか。

「私の主人は既に決まっているんだよ。私の主人は貴様のような阿呆ではなく、とても知的で何でも知っていて、かっこよくて、頼りになって、最強の武人で、アレも大きなお方だ。私は既に身も心もその方に捧げている」

 族長とやらはプルプルと震えだした。

「お前の様な、短小な早漏野郎に嫁ぐわけないだろ」

 私も煽るのが上手くなったものだ。冒険者にはだいたいこう言っておけば、ブチ切れて襲い掛かってくる。先に手を出させれば、殴っても問題ない。


「おい、娘。少しお灸をすえてやる必要があるようだな」

「父様、母様、ということで、とても素敵な方の所に嫁ぎますので、その許可を頂きに帰ってまいりました。許可をください」

 族長を無視をする。

 くくく、怒ってる、怒ってる。

「無視をするな。お前の主人なんぞ、俺様の敵では無いわ。どうせ、そこそこ強いだけのつまらない男だろ。俺様の嫁になれば、最高の気分にしてやるぞ」


 ブチッ


「貴様! 私の師匠を侮辱するつもりか。死にたいらしいな。殺してやるからかかって来い」

 

 紫電を纏い、殴りつける。いつもならばこれで倒せるはずが、吹っ飛びはしたが、この男は倒れなかった。

「なかなかの速さだが、俺達には雷の力は通じないぞ。女の腕力では所詮、この程度か」

「一撃で効かないなら、こうするだけだ」

 族長は思ったよりもタフだった。一撃で効かないなら、倒れるまでもっと殴るだけだ。


 2、30発は殴ったのにまだ倒れないのか。

「ふはは。どうした。この程度か。俺はお前の速さと力に慣れてきたぞ」

 タフな奴だな。それに向こうは既に私の攻撃を何とも思っていない様だ。

「お前がその程度なら、お前の主人もたかが知れてるな」

 こいつ、また師匠をバカにしやがった。情けないぞ、私。この程度の男を一蹴できないなんて。それでも師匠の弟子と言えるのか。

 今の私で倒せない相手なら、今すぐ限界を超えろ。

 

 私も覚悟を決める時だ。

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