第17話 新たな仲間

 戦闘後、急いで船へと戻って来た僕らは直ぐさま出発の準備を調えると(メンテや給油などはアヤメが残していた悪魔が済ませていた)、余計な敵との遭遇を避けるようにさっさと港を後にした。

 そして半日ほど進んだ所でどうやら追っ手が無い事を確認すると、既に目を覚ましていたメイリンとアダムを会議室に呼び、改めて話しの場を設けることに決めたのだ。


「――と言うわけだ。それで、オレ達としてはこのまま大人しくお前達に手を貸してもらいたところなんだが、流石にお前達の意思を無視するわけにはいかないからな。お前らに協力の意思が無く、この船を下りるというのであれば止めはしない」


 一通りの説明を終え、そうリヴァイさんが告げた所で暫くの沈黙が続く。

 やがて、真っ先に口を開いたのはアダムの方だった。


「私は皆さんに協力します。どうせ研究施設に戻ったところで、今までと同じ研究資料としての扱いに戻るだけだからな」


「そうか。それじゃあこれからよろしく頼むな、アダム」


 アダムの返事にリヴァイさんは笑顔で返した後、次はメイリンの方に視線を移しながら再度口を開く。


「では美鈴はどうする?」


 リヴァイさんにそう問われたメイリンは何故か口を開かず、静かに瞼を閉じて何事かを思案している。

 そうして2分くらい沈黙が続いただろうか。

 徐にメイリンは瞼を上げると、まるで思い詰めたかのような真剣な表情をリヴァイさんに向けながら口を開く。


「我・・・・・・メイが最後に暴走してた時の薄らと残る記憶が正しければ、あれだけの力を解放してたメイを止めたのは貴方ですよね?」


「ん? ああ、そうだな」


「教えて下さい。どうしてメイだけが知っているはずの《ルシフェル》の力を知っていたんですか?」


 そのメイリンの言葉に、僕も気になっていた点ではあるので真剣な表情でリヴァイさんを見つめる。

 それに、今まで関心無さそうにしていたアヤメも真剣な表情をリヴァイさんに向けていることからその理由に関心があるのだろうと推察することが出来る。


「ああ、それか。まあ、最初に言ってたようにお前の力に強く結びついた魂、ギルガレアから無理矢理聞き出した。と言うか、お前の持つ『エクスカリバー』の精神世界を尋ねた時にギルと戦いになったから実体験で知ってた、てのもあるんだが」


「ちょっと待って。『エクスカリバー』の精神世界? 何でシショーが他人が持つ神器の精神世界に行けるの?」


 リヴァイさんの説明に真っ先に疑問を持ったアヤメが身を乗り出すようにそう口にすると、リヴァイさんはさも当然と言った感じで「オレが色々と特別だからだ」と説明にならない答えを返す。


「ちょっと! そんな答えじゃ――」


「悪いがこれ以上の説明は出来ないぞ? ただ、流石のオレもどんな神器の精神世界でも自由に行けるわけじゃ無いし、その世界から神器の所有者やその位置を割り出せるわけでも無い。出来る事は精々その世界を管理している魂と交流する程度だし、会えるのもその魂と生前交流がある事が前提だ。ただ、ここに集まっている『アイギス』を管理するナナリア、『ロンゴミニアド』を管理するリリアーヌ、『エクスカリバー』を管理するギルガレアはどれも生前に交流があったから好きに合いに行けるんだがな」


 そのリヴァイさんの説明にアヤメは納得がいかない表情を浮かべながらも、これ以上の情報を得ることは出来ないと観念したのか口を噤む。

 しかし、僕は今の説明で1つ腑に落ちない部分があったので徐に口を開いた。


「1つ良いですか?」


「なんだ?」


「リヴァイさんが上げた神器に、アヤメの『聖杯カリス』は無かったですけど、その中にはリヴァイさんは行けないんですか?」


「そんな事は無いぞ。と言うか、アヤメの『聖杯カリス』の精神世界に行けなければそこでアヤメを鍛えることも出来なかったからな」


「え? あそこってシショーの『トライデント』の世界じゃ無くて、ボクの『聖杯カリス』の中だったの!?」


「勿論そうだ。で無ければ、オレの管理する世界があんな殺風景な闇の中なわけが無いだろ」


 そのリヴァイさんとアヤメの遣り取りを聞きながら、やはり腑に落ちない疑問が残っているためそれを解消しようと更に問い掛けを続ける。


「それじゃあ、僕らと同じようにアヤメの『聖杯カリス』にも管理者がいるんですよね?」


「ん? いや、いないぞ」


 そして、その想定外の返事に僕の思考は一瞬止まり、次の言葉出てこない。


「待て、何故私達の神器には管理者が存在し、彼女の神器だけ管理者が不在しないんだ?」


 そんな思考停止状態の僕に代って言葉を発したのはアダムだった。


「まあ、それもアヤメが特別だとしか言いようが無いな。ただ、強いて言うならアヤメの持つ『聖杯カリス』の管理者は、って事だとでも思っておいてくれ」


 自分自身が管理者を兼任しているとはどう言う事だろうと疑問に思いながらも、何故か先程リヴァイさんが告げた『アヤメ』と言う名が目の前のアヤメを指して呼んだ名ではない気がした。


「さて、話しは逸れたがここらで美鈴の話に戻すぞ。それで、まだ他に聞きたい事はあるか?」


 そう尋ねるリヴァイさんに、メイリンは肯きを返した後で再び口を開く。


「それじゃあ、メイの《ルシフェル》を知っているって事は、貴方も同じ力が使えるの?」


「反転術式の事か? 勿論使えるぞ」


 あっさりと答えを返すリヴァイさんに、またもアヤメが身を乗り出す勢いで口を挟む。


「ちょっと待ってよ! ボク、そんな力の存在教えてもらって無いんだけど!?」


「この力を習得するには幾つかの条件が必要だからな。今のお前じゃ使い熟せないどころか発現させるのも無理だから教えて無い。そもそも、美鈴だって何故発現出来てるのか不思議ではあるが、まるで使い熟せてる感じじゃ無いんだよな。まあ、だからこそ今回オレが来るまでお前達だけでどうにか対処出来た、ってのは有るんだろうが」


「それでも、力の存在を教えるだけ教えてくれたって良いじゃん!」


「だが、もし教えていたらお前のことだから窮地に陥った時にその力を無理矢理引き出そうとするだろ?」


 その問いに、アヤメは言葉を返さなかったものの露骨に逸らされた視線から図星である事が容易に読み取れた。


「そうなると、もし万が一にでもきちんと制御出来ない状態で力が発現してしまえば、あの時の美鈴のように暴走する危険が有るんだ。そうなると、その時点で肉体を持っていなかったオレにお前を止める術は無いし、お前と互角程度の力量しか無い響史にお前を押さえるのは無理だ。で有れば、それらの危険性を考慮して存在を黙っとくのは正解だとオレは判断するが?」


 もはや反論の余地も無いのか、アヤメはそっぽを向いたまま口を完全に噤んでしまった。

 そして、リヴァイさんとアヤメの会話が終わったことを確認した段階で再びメイリンが口を開く。


「最後に聞いても良いですか?」


「オレに答えられる範囲ならな」


「もし、メイが響史達の仲間に加われば、貴方の、リヴァイ様の弟子にして頂けますか?」


 予想外のメイリンの言葉に、当事者のメイリンとリヴァイさん以外の3人全員が驚きの表情を浮かべる。

 そんな中、当のリヴァイさんは驚くほどあっさりと「良いぞ」と返事を返してしまう。


「本当ですか!?」


「ああ。ただ、オレの教えは厳しいぞ」


「構いません! メイはどんな修行だろうと熟してみせます!」


「ふむ。では最初に言っておくが、完全に力を使い熟すまで反転術式は封じろ」


「はい!」


「それに、今のお前の動きはおそらく我流だろうが、オレが知る中で最も強い男が編み出した剣術、桜花流剣術おうかりゅうけんじゅつを会得してもらう」


「分りました!」


 次々と交される2人の遣り取りを、僕らはただ呆然と眺めることしか出来なかった。

 そうして漸く今後の修行についての話しが纏まったところで、メイリンが遠慮がちに口を開く。


「あの・・・・・・もう一つ良いでしょうか?」


「なんだ?」


「これから・・・・・・その・・・・・・リヴァイ様の事を、先生、とお呼びしてもよろしいですか?」


「ああ、構わん! と言うより、是非そう呼ぶように!」


「はい! ありがとうございます、先生!」


 こうして、僕らは当初の目的で有る『怠惰』の所持者アダムだけで無く、『傲慢』の所持者メイリンを仲間に加え、日本に有る僕らの拠点へと戻るための船旅を続けていくのだった。

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