第11話 梨子と真美に真一が語りかける『トラウマ』
真一は少し離れたところにいる優香の存在を知らない。実は優香は、昔真一に背中を押されて新潟の大学で知りあった彼氏の実家が岐阜にあり、たまたま遊びに来ていたのだった。優香は真一が梨子と真美に話しかけている話に聞き入ろうとしていた。
そんな中で真一は、梨子と真美にある『トラウマ』について語りだした。
真一「梨子、真美」
梨子・真美「はい」
真一「オレの知ってる男の人でなぁ、昔、似たような話を聞いたことがあるんや」
梨子・真美「…………」
優香(…………)
真一「その人はなぁ、幼稚園の時に隣の席やった女の子と高校で再会して、幼稚園の時と同じように仲良くしてたらしいんやけど、その男の人は『トラウマ』があって積極的に恋愛に関心が持てなかったそうや。その幼なじみの女の子は、男の人の事が気になってたみたいで、男の人も幼なじみの女の子の事をホンマは好きやったらしい。けど『トラウマ』があってホンマの事を言い出せなかった。結局、女の子は別の男と付き合うことになったんやけど、高校卒業してから女の子は大学に進学して、男の人は地元で就職した。ところが幼なじみの女の子が彼氏と別れた事を、男の人は元彼本人から直接言われて『アイツにはお前しかおらん』と言われて、大学へ行ってる幼なじみの女の子と電話で話して、盆休みに再会した。けど男の人は『トラウマ』があって、女の子から『トラウマがあるんか?』って追求されて、あの手この手でトラウマを解かそうとされていた。でも男の人はどうしても、どうしてもその『トラウマ』があったから、大好きな幼なじみの女の子とは付き合わなかった。それで女の子は泣いていたらしんや…」
優香(…………)
真一の後ろの方で優香が、黙って真一の話を聞いてうつむいている。
梨子「…それって、しんちゃんのことなの?」
真一「…違う。知りあいから聞いた話や」
真美「その知りあいの話は本当なの?」
真一「歴史的事実らしい」
梨子「その幼なじみの女の子はその後どうなったの?」
真一「その男の人曰く、幼なじみの女の子は大学で彼氏を見つけたそうや…」
梨子「えー…」
真美「そんな…切ないよ、切なすぎるよ」
真一「真美、今のお前はこうなろうとしている。こんな悪い例にならんようにせんとアカンのと違うか? 梨子、お前も目の前に俊介くんがいてるのに、いつまでも後ろばっかり向いててもアカンのと違うか?」
梨子・真美「…………」
真一「お前らは、こんな悪い例になったらアカン。草葉の陰からお父さんが悲しむぞ。そうやなかったら、格好つかんがな(格好つかないよ)」
梨子「しんちゃん…」
真美「しんちゃん…」
梨子と真美は真一に泣きつく。
一方、少し離れたところで話を聞き入る優香も顔をうつむいて心の中でつぶやいていた。
優香(しんちゃん、自分の『トラウマ』のことを
真一「お、おい梨子、そこは俊介くんに泣きつかなアカンやろ? オレに泣きついてどうすんねん? 俊介くんがやきもち妬くぞ」
梨子「しんちゃん、ありがとう」
真美「しんちゃん、ありがとう」
真一「え、ええから
梨子と真美に泣きつかれて困惑していた真一だった。
真一「梨子、お前今日は俊介くんとデートやったやろ? 早よ行ってこい」
梨子「…うん。でも、そういうしんちゃんは彼女探さないの?」
真美「そうだよ」
真一「オレの彼女は『旅』や。『さすらいの旅人』やから、ここでお前らの話にいつまでも付き合ってられんのや」
梨子「しんちゃん…」
真一「俊介くんに幸せにしてもらえよ」
梨子「うん」
俊介「梨子」
梨子「うん」
俊介と梨子が軽く抱き合う。
俊介「真一さん、ありがとうございました」
俊介は真一に深々と礼をした。真一は黙ってうなずいた。
真一「真美、お前はこれからどうする? 幼なじみのところへ行かへんのか?」
真美「今、何してるだろう…」
真一「連絡つかんのか?」
真美「…家に行ってみる」
真一「うん、行ってこい」
真美「ありがとう、しんちゃん」
真一「あぁ…」
真美は岐阜駅へ向かい、電車に乗って名古屋へ戻る。
真一は長良川の河川敷で梨子・俊介、真美を見送った。真一は一人になって、長良川の川の流れを眺めながら深呼吸した。
それを少し離れたところから優香が黙って真一を見ている。
真一は優香が後ろにいることを未だに知らず、河川敷を優香とは反対の方向へ歩く。
優香は真一に声をかけようか迷っていた。それは、真一と梨子・真美とのこれまでのやり取りを聞いていたからだった。
そんなことも知らず、真一は河川敷をどんどん歩いていく。しばらくして河川敷を抜け、岐阜駅に向かってのんびり歩いていく。優香も声をかけようか未だに迷いながら、真一の後を追いかけていく。
優香(しんちゃんがまたここで自分を犠牲にして他人を助けてる。やっぱりあの(大学生時代初めての盆休みの)時、私がもっと強く説得しといたらよかったのかも…。ところでくーちゃん(優香の友人の村田)から聞いた、しんちゃんの遠距離恋愛はどうなってるんかな…?)
真一は長野の夏美との遠距離恋愛が破綻し、甲状腺ガンで入院した後なので、体力がまだあまり回復していなかった。
真一が岐阜駅に着き、きっぷうりばの前で路線図を見ている。そこで優香が少し離れたところから意を決して声をかけようとした。
優香「しん…………」
男「あれ、しんちゃんやないか?」
真一「おう、なんやこんなとこで何してんの?」
男「出張なんや」
真一「出張? 岐阜に?」
男「そうや。なんや何しに岐阜に来てるの?」
真一「あぁ、野暮用や…」
男「野暮用? 女探しにか?」
真一「そんなええもん(良いもの)とちゃう(違う)わ(笑)」
男「どの電車乗るんや?」
真一「決めてへん」
男「決めてへんって、どういうこっちゃ(どういうことや)?」
真一「あてのない旅や」
男「あてのない旅…ええなぁ…」
真一「なんせ、旅はオレの『彼女』やから…」
男「で、どこへ行くか決めたんか?」
真一「決まってない。あんたはどこ行くんや?」
男「オレはこれから名古屋や。今日は名古屋泊まりや」
真一「そうか…。秋やし、紅葉の綺麗なとこへ行きたいなぁ…。東北とか北海道は今現在の急がない旅には難しいから、信州とか飛騨の方か…」
男「ええなぁ…、オレも行きたいわぁ」
真一「行ってよ(笑)」
男「ほな、またな」
真一「あぁ…」
知り合いの男と真一は改札に入り、それぞれ乗る電車に乗った。
それを見ていた優香は、声もかけられずしょんぼりしていた。
優香「行っちゃった…」
優香は岐阜駅を後にした。
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