第51話 第二回メンズ・オークション in ロシア
二八二二年一月十五日。
第二回メンズ・オークションはロシアで開かれる。
パステルはソフィアから譲渡されたウエディングチャンスカード(結婚宝くじの当選券)を手に、ロシアのモスクワへ。パスポートの取得、空港での搭乗手続き、海外の渡航など、パステルにとって何から何まで初体験だった。モスクワのシェレメーチェ国際空港に到着後、出口に向かうとSWHの用意したリムジンが出迎えた。しんしんと降る雪の下、リムジンの中から男性型のアンドロイドが出て来た。
「パステル様、結婚宝くじのご当選おめでとうございます」
きめ細やかなブロンドの髪。自信に満ちた表情。これほどまでに完成度の高いアンドロイドは珍しい。
「ありがとうございます」
パステルは笑顔で返す。動揺した様子を見せてはいけない。ソフィアから当選権を譲り受けたことは秘密で、その事は決してバレてはいけないのだ。ソフィアはSWHの社員及び代表取締役の娘。運営の不正と受け取られかねない。
「僕はバロンと申します。普段はストック様の執事長という立場ですが、今回入札者サイドである皆様のサポートを承りました。よろしくお願い致します」
「よろしくお願いします。……それにしても凄いリアルなアンドロイドですね。まるで本物みたい」
パステルは間近で見る王子風アンドロイドに少し興奮していた。
「よく言われます」
バロンは笑顔を崩さない。
「パステル様、此方へ」
パステルはリムジンの高級ソファにもたれかかる。運転席にいるバロンは客席にいるパステルに対して(マイクを使用して)メンズ・オークションのイベント概要を簡単に説明した。第二回メンズ・オークションはパステルを含む三人の女性達が結婚相手を巡り争うことになる。出品される男性はロシア人。アメリカで行われた最初のメンズ・オークション同様、開催地と出品男性の国籍は同じ。この事は出品男性公表前の予想記事にも書かれており、パステルの予想範囲内。
争う別の入札者はタンナーズ・ライオネルとソフィア・トルゲス。ソフィアは元々乗り気ではないし、結婚相手を賭けた争いはタンナーズとの一騎打ちとなる。どうしたらタンナーズの上をいけるのかを考える必要がある。
その他、明日の本番までのスケジュールの説明。その話が終わった所で、リムジンはモスクワのホテル前で停車した。パステルはバロンに部屋まで案内され、ロイヤルスイートルームで一夜を過ごした。
AM七時に起床。
パステルは初めての海外に疲れて気絶する様に眠ったものの、緊張で目が覚めてしまった。ひんやりとした空気が肌を刺す中、シャワーを浴びて体の隅々まで念入りに洗う。もし結婚することがあれば、体を求められるかもしれない。淡い湯気の立つ置き型の白いバスタブに入りながら、パステルは悶々と妄想にふけっていた。
出品される男性はどんな人なのだろう。
何年前に生まれた男性なんだろう。
よくよく考えると今まで本気で恋をしたことはないし、異性を気にしたこともない。男性はいないから仕方がないが。
「そもそも私って恋愛体質じゃないんだよなぁ」
生まれてこの方二十二年。ずっと伝説的なトップアイドルになる為だけに生きてきた。どうしたらアイドルになれるのか、注目を集めることが出来るのか、パステルの思考回路はずっとそうだった。子供は欲しかったが、自分で育てるつもりはない。人間は皆自分が可愛い。母親になっても自分の人生を生きるつもりだし娘は娘で自分の人生を自由に生きればいい。本来であれば誰かと結婚をしようだなんて思わない。同性婚をするつもりはないしヴァーチャルダーリンやアンドロイドとも結婚をするつもりはない。今回の結婚だって注目を集める為だ。
今頃思い通りの人生を歩んでいれば、武演館でワンマンライブを開いて一万人のファンの前で大好きなアイドルソングを歌っているはずだった。でも今のパステルにそれだけのファンを集める集客力は無い。ソロではどうしてもダメなのだ。注目を集める為に誰かとペアを組んで今までやってきた。そのやり方が何時までも呪縛となり逃れられなくなってしまったのだ。
本当はソロで売れたかったのに。
「何で私はここにいるんだろう」
パステルの心に空しさが影を落した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます