ホテル街で薄汚れた美少女に「お持ち帰りしてください!」と叫ばれた〜だから何もしてない俺を白い目で見るのはやめてくれ〜
白音(しらおと)
第1話
『続いて速報です。たった今、業務上横領の疑いで逮捕されていた千代ケ崎コーポレーション会長、千代ケ崎柳造容疑者七十三歳が、書類送検されました。繰り返しお伝えします。千代ケ崎コーポレーション会長──』
「はー、大変だなぁ。しかもとんでもない額じゃん、これ残った会社ほとんど立て直しの可能性ないんじゃないか?」
アナウンサーが伝えるニュースを淡々と分析しながら味噌汁を飲むのは俺、
美味い味噌汁とバイトが生き甲斐のつい一ヶ月前に高校に入学した一般男子高校生だ。
いや、全然一般生徒ではないわ。
進路も決まっていた二月上旬、突然クソ親父に「この学校行け」と言われて渡されたのは県内屈指のエリート校の特待入試の志願書。何故、と聞き返せば
「この貧乏一家にはお前が高校に行くための金はない。だから特待生になって学費免除してもらってタダで学校行け。家からじゃ遠いから近場に一人暮らし用にマンション買っておいた。その方が何かと都合もいいしな」
と言われて有無を言わさず入試へ。そのマンションの金で学費賄えるだろとかそう言う言葉は言ったらキレそうなので言わずにぐっと飲み込んだ。学力的には十分合格ラインを超えていたため見事合格し新入生代表挨拶までさせられた。
それだけならまだ許せる。だがどうしても許せないことがあるとするならば、ここが金持ちの子息ばかりが集まる高校だということ。そんな高校で貧乏特待生が新入生挨拶とかめっちゃヘイト買うじゃん。実際めっちゃ睨まれた。マジでふざけんなクソ親父。
「ってやば、こんなのんびりしてる場合じゃねぇ!?時間見てなかった!」
時計の針は七時四十分を指している。七時五十分には家をでないと遅刻する。
もったいないと思いながら、残りの朝食を一気にかきこんだ。
──────────
「おはよーさん」
結局遅れて走って学校に来た結果グロッキーになっている俺に声をかけるのは幼なじみの
「元気ないって言うか……お前、遅刻しかけたな?」
爽やかなイケメンスマイルがこれ程腹立つことはない……。
「死なないかな、バスケ部の爽やかイケメン」
「ひっでぇなお前」
お前が悪い。朝練終わりで汗拭きながら教室に入ってくるな。汗かいてんのになんでいい匂いすんだよてめぇ。
「そういえば朝のニュース見たか?」
「ん?見てたけどなんかあったか?」
流し見てたし全然覚えてない。あ、そういえば速報あったな。えーと確か──。
「「千代ケ崎コーポレーション」」
「そうそうそれそれ、ウチのクラスの千代ケ崎さんのじいちゃん」
「えマジ?」
「マジマジ、てかウタ同じクラスなのに知らなかったのかよ」
本当に知らなかった……。いやだって最初の一週間ぐらいしか来てないしな……。
「ん?来てない……?」
「そうそう!千代ケ崎さんってほんとに最初の方しか来てないんだよ!そのあとはずっと家の都合で休んでて!」
「あーうん……それで?」
目をキラキラさせて陽斗が顔を寄せてくる。
「ホテル街の方でな、うちの制服着た女の子がウロウロしてるって噂があるんだよ!しかもめっちゃ美少女!俺の見立てでは、それが千代ケ崎さんなんじゃないかって思ってて!」
ここが残念なとこだよなぁ。イケメンなのにゴシップ好きで、しかも男との距離が近すぎる。そのせいで腐女子達から守られていて、不可侵条約が締結されているとかなんとか。
「よし!じゃあ言いたいこと言ったし、んじゃな!」
「え?あぁうんまた」
さっさと自分の席に戻っていく陽斗。まだ五月に入ったばかりで、苗字が赤坂で廊下側一番前の席に座りながら、また別の友人と喋り始める。
「マジでなんだったんだアイツ……うぷっ」
そういえば腹の中掻き回されてたんだった……。トイレ行こ……。
──────────
「お疲れ様でしたー!」
駅前のファストフード店でのバイトを終え帰路に着く。
「冷蔵庫空っぽだったし買い物して帰らなきゃだなぁ……」
でもこの時間にホテル街突っ切るのも嫌なんだよなぁ……私服のジャージ着てるから相手にはバレないけど、学校の先輩が出てくると悲しくなるんだよ。マジで。
「でも背に腹はかえられんしな、行くしかないか。店閉まったら嫌だし」
呪うなら近くのスーパーに行くのにホテル街を突っ切らなきゃいけない場所にバイト先を選んだ自分を呪えってね。
「にしても、まだ夜は冷えるなぁ」
日中は暑いしいい迷惑だ。寒暖差で体調崩しやすい人だっているのに。まぁ俺は崩しませんけど。
「あ、あの!ちょっといいですか!」
こんなとこで声掛けか、風俗かな、綺麗な声だし。……駅前ってなんでこうも昼と夜で雰囲気変わるのかね?
「そこの方ー!止まってください!」
うわぁ、しつこそう。呼ばれてる人も大変だな。
「そこの、全身ジャージの一人で歩いている男性の方!」
ん?俺か?
思わず足を止めると、ずっと俺に声を掛けてきた人物が、目の前に立って真っ直ぐこっちを見つめる。
「あの、私をお持ち帰りしてください!」
え?いや、は?
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