黒猫ってまじ?

TB

第1話 北原三尉のお葬式

「あ……」


 サクッ。


 ビックリする程、良い音だった。


 その直後に俺の心臓からは、真っ赤な血が流れ出る。

 これは無理だな……


「おい、北原曹長、しっかりしろ」

「北原ぁあああああああ」


俺は陸上自衛隊レンジャー部隊から、新しく発足した『地下特殊構造体攻略班』へ転属して初めての探索で、あっけなくその生涯を遂げた。


 俺の目の前で、ダンジョンと呼ばれるその場所で魔物に襲われている、一般人の女性を視認したので、M4カービンで狙撃した。

 ヘイトはこちらに向き、女性は何とか後退する事に成功したようだ。

 だが、まっすぐ俺に飛び掛かって来たそのグレーウルフの爪を避けるには、俺では経験が足らな過ぎた。


 レンジャー自慢のアラミド繊維をふんだんに使われた防具は殆ど意味をなさず、その爪は、俺の心臓をまっすぐ貫き、次の瞬間には俺の右腕をかみちぎっていた所までは見えた……


 痛み?


 心臓を先に貫かれた後で、腕を噛みちぎられたからって、今更感じねぇよ。

 もしかしたら、足の小指とか箪笥の角にぶつけたらそっちの痛みの方が敏感に反応できるかもしれないけどな……


 俺は、同僚たちが集中砲火でそのグレーウルフを葬り去る音を子守唄に静かに目を閉じた。



 ◇◆◇◆ 



「故『北原進』三尉の勇猛を我々『地下特殊構造体攻略班』一同忘れる事は有りません。再び平穏な世界を取り戻せるよう全自衛官の総力を結集し地下特殊構造体をこの世界から排除する事に全力を尽くします。地下特殊構造体攻略班第三班班長『斑鳩彩いかるがあや』」


 あー、俺やっぱり死んじゃったんだな。

 

 葬儀場には大勢の自衛隊の偉い人達が物々しい制服姿で訪れていた。

 俺が助けた女性らしき人もハンカチで目頭を押さえている。


 まだ大学生くらいかな?

 そう思いながら呑気に見てた。


 でも……初めて死んでみたけど、死んだらみんなこうなのか? 客観的に、自分の葬式の様子とか眺めれるのって……


 このまま魂状態で生き続ける? その表現は正しく無いか……意識が残り続けるのか? これって所謂いわゆる幽霊?

 そんな事を考えながら、俺の葬式をただ眺めていた。


 斑鳩二尉可愛いよな。

 デート誘いたかったぜ。

 間違いなく頭殴られそうだけどな。


 斑鳩二尉はキャリア組だから階級は俺より三つも上だが、年齢は同じ歳で勤務時間外は、結構軽口にも応じる良い上司だった。


 二階級特進したから階級はあと一つか……


 心配なのは、まだ高校二年生の妹の事くらいだな。

 穂南ほなみ元気でな。


 親父が早くに肺癌で死んじまったから、お袋と二人っきりになるからなぁ

 まぁ、職務中の事故だから当面困らない程度の、保証は出るだろ?


 そうやって色々考えてたら視線を感じた。


(ばれた?)


 視線を感じた方向を向くと、そこには俺が一週間ほど前に拾って来た生後一か月程度の子猫TBが居た。


「TB。お前まさか俺が解るのか?」


 次の瞬間、俺を『パクン』って感じで丸呑みしやがった。

 ありゃ、幽霊生活もう終了かよ。

 

 そう思った……

 でも、次の瞬間に意識ははっきりあった。


 そして動ける。

 極めて視線は低いけど、ちゃんと見える。


 右手を見る。

 黒い短毛がびっしり生えてる。

 そのまま手を上げてみる。

 肉球だ。


 俺ってもしかしてTBになった?

 このまま黒猫として生きて行けるのか?


 そう思いながらTBを可愛がってた穂南の元へ歩いて行って見た。


 そっと抱きかかえてくれた。

 まだ生後一月程度のサイズだから、片手で前足のすぐ後ろ辺りから救い上げる様にして持ち上げられた。


 そして胸にキュッと抱きしめてくれた。

 涙が俺の上にこぼれて来た。


 だが俺は悲しんでる穂南の事より、いつの間に……こんなに立派なクッションを装着するまで育って居たんだ……


 そんなけしからん事を考えていた。

 そう言えば、お袋も巨乳だしなぁ。

 そりゃ似るよな。


 さて、どうしよう。

 話しかける事とかできるのか?


 試してみる。


『穂南』


 見事にその場に流れた音声は「ミャア」だった。

 そりゃそうだよな。

 いきなり喋ったら魔物の居る世界になったんだし、魔物と間違えられて殺されるかもな。


 どうしよう。

 取り敢えず眠くなった。

 生後一月程度の子猫だから仕方ないよな……

 俺は穂南の胸に挟まれながら眠りについた。

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