第40話 禁忌の魔女への相談
翌朝、アイリーンの「お二人は仲が良いですね」「嫉妬してしまいそうです」「セレンさんも喜びそうですね」という小言を耳にしつつ出発の準備を終えた千司たちは、朝のうちに王都へ向けて村を後にした。
際しては門番のトニーにリタのことを改めて頼んでからの出発だ。
王都までは約二日であるが、道中特筆すべきことはこれと言って無く、精々アイリーンの機嫌が悪かったぐらいであった。
千司と二人きりになる度に小言を聞かされ「うふふ、うふふふふっ」と不気味な笑みが続く。それでもエリィの前では取り繕われていたので、これと言って問題視することはなかった。
そうこうしている内に一日目が過ぎ、見覚えのある街道を歩いて行くと、次第に人の数も増え――やがて王都の城壁が見えてくる。
「一週間程度しか離れてないはずなのに、随分懐かしく感じるな」
「確かに」
時間以上に濃密な体験をしたからだろうか。
妙な感慨を覚える千司とエリィに、後方からアイリーンが声を掛けてくる。
「それで、王都に着いたらどうされますか?」
「そうだな。とりあえず冒険者ギルドの方に報告へ向かうとしよう」
「ロイアーさんの件に関しては?」
「あれは正直背後関係が面倒臭そうだからなぁ……途中で消息を絶ったってことにして、あとはセレン辺りに押し付けるのが正解だと思うが……エリィはどうだ?」
「ナクラの言う通りでいいと思う」
青い魔女っ娘が頷いたのを確認。
今後の動きが決まったところで千司たちは城壁を潜り、王都の中へと入って行った。
§
時刻は昼過ぎ。
相も変わらず活気のある王都を歩いていると、そこかしこから美味しそうな香りが鼻腔を擽る。適当に買い食いしつつ千司たちは冒険者ギルドへ。
冒険者ギルドに到着すると、受付に真っすぐ向かって遺跡調査の依頼報告を行う。基本的にモンスターの数や、流れ、種類や強化種が生まれていないかを確認する依頼であるが、今回千司たちはその殆どを討伐してしまった。
(オーガが持っていた『エスパラベヒモスの神経毒』のことを考えると、モンスターを束ねさせたのもロイアーの仕業だったんだろうな)
改めて思い返しても、面倒な男であったと千司は内心ため息を吐く。
不在のロイアーとセレンに関しては疲れたから先に帰ったと適当にはぐらかしておいた。
これと言って怪しまれるようなこともなく報酬が支払われた為、千司たちははギルド併設の酒場に場所を移して報酬の分配を始めた。
「んじゃ、これはエリィの分で、こっちがアイリーンの分だ」
「こんなにいいの?」
「当然だ、エリィには色々と世話になったしな」
「……ありがと、ナクラ」
優しい笑みを浮かべると、身を寄せてくるエリィ。村でエリィと身体を重ねて以降、その距離感は殊更に近いものになっていた。王都へと向かう道中も、日中帯は常に千司の隣をキープし、夜になると添い寝を要求してくる。
流石にアイリーンの面倒くささが限界突破しそうだったので手は出さなかったが、それでも肉体接触を要求すること度々。
(浮かれてるなぁ~)
徐に手を握ると、頬を染めて恥ずかしそうに俯くエリィ。
そんな彼女を見つめながら、千司は胸中で笑みを深くするのだった。
§
その後は三人揃って遅めの昼食へと向かう。向かったのは以前エリィに連れてきてもらったことのある定食屋。時間帯が微妙な為か、客足はまばらだった。
千司たちは奥の席に案内してもらい、適当に注文を済ませてから今後の予定について話し合う。
結論から言えば、しばらく冒険者活動を休むという事で落ち着いた。一週間近く出ずっぱりだったというのもあるが、それ以上に千司とセレンが冒険者を続けられるのか不明だったからだ。
(せっかく
ロイアーの襲撃がライザの差し金であることはほぼ確実だろうが、彼女がそれを素直に認めるとも思えない。加えて、千司としてもあまり追及するつもりはなかった。
どれだけ弱みを握ろうと、彼女と千司の間にはどうしようもないステータスの差がある。追い詰め過ぎて強硬策を取られれば、今までの努力を捨てて魔王軍に向かわねばならない。
(まぁ、こればっかりはその時にならなきゃわからんな)
加えて、どのような結果になろうとライザが千司を怪しみ、殺そうとするのを止めるとは思えない。
何はともあれエリィとアイリーンの二人以外集まるのが難しくなるため、パーティーでの活動は休止と相成ったのだ。
「もちろん、個々人で活動する分には好きにしてもらって構わない」
到着した料理に舌鼓を打ちながら語る千司に、当然の如く隣に腰掛けていたエリィは顔を伏せながら呟いた。
「……お別れ……って、訳じゃないよね?」
勇者である千司と、一介の冒険者に過ぎないエリィ。両者の立場を考慮すれば、今の関係性が正常な物ではないとエリィ自身理解しているのだろう。
故に、このまま千司が冒険者を止める可能性を危惧している。
(まぁ、あり得ない話ではないが……)
千司は優しい笑みを浮かべると、エリィの美しい青髪を優しく撫でた。
「大丈夫だ。絶対に帰ってくる。仮に冒険者を続けられなくても、ちゃんと挨拶に来るよ」
「……ほんと?」
「あぁ。だってエリィは、俺の大切な仲間だからな」
その言葉にエリィは口元をキュッと結び、千司にもたれかかる。
「嬉しい」
「だから待っていてくれるか?」
「……ん、もちろん」
小さく微笑んだ彼女は千司を上目遣いに見つめると、僅かに腰を浮かせて唇を押し付けてきた。それはほんの数秒の事。顔を離すと、エリィはぺろりと自らの唇を舐めて——。
「……お肉の味がする」
「肉を食ってたからな」
「おいし」
「肉食系だな」
「んもう、それはナクラの方」
頬を朱に染めながらデレデレするエリィの相手をしていると、対面に腰掛けていたアイリーンが短く咳払い。
「ん、んん! ……私は先に帰った方がよかったでしょうか?」
ジトっとした目を向けてくるアイリーンに、エリィは慌てた様子で謝罪した。
「ご、ごめんアイリーン。仲間外れにするつもりはなくて……」
「……うふふ、冗談ですよ。それに、お友達が喜んでいるのを見ると、私も嬉しくなります。お二人が仲睦まじい様子は、私自身微笑ましく感じておりますので」
「……アイリーン」
ニコニコと笑みを浮かべるアイリーンと、感動した様子のエリィ。
そんな二人を睥睨しつつ、千司はアイリーンに声を掛けた。
「アイリーンにも、色々と世話になったな」
「いえいえ、大変ではありましたがとても楽しかったですよ」
「それはよかったよ。……ところで、一つ頼みがあるんだが」
千司は言葉を区切ると、自身の隣に立てかけていた大剣『エスパラベヒモスの神経毒』を指さして告げた。
「しばらくこいつを預かっていてくれないか?」
「私は構いませんが……ヘリスト教にお返ししなくてよろしいのですか?」
「以前も言ったと思うが、命を狙ってきた連中に返すつもりはない。だから適当な場所にでも隠しておいてくれると助かるんだが」
「そういう事でしたら、お任せください」
「あぁ、ありがとう」
これで『エスパラベヒモスの神経毒』を正式に手中に収められた形である。後は適当な段階でアイリーンという存在を消し、ジョン・エルドリッチ辺りに譲渡すれば上手いこと使ってくれるだろう。
話も一区切りついたところで食事も終え、会計を済ませてから千司たちは外へ出る。辺りはすっかり夕方。もうすぐ世界は宵闇に包まれる。
千司はエリィがまとめて会計を済ませている間に、アイリーンに耳打ち。
「——という感じで頼めるか?」
「……わかりました」
彼女が頷いた直後、エリィがぱたぱたと近付いてきた。
「何の話?」
「エリィをよろしくって。しっかりしてるけど、危なっかしいところもあるからな」
「一応、冒険者としては一番先輩なんだけど」
むすっと頬を膨らませるエリィに、千司とアイリーンは苦笑。
「お任せください。仲間として、何よりお友達としてナクラさんが居ない間、エリィさんは私が支えますので」
「アイリーンまで……でも、ありがと」
「いえいえ。もし近いうちに依頼を受けるのであれば、一声かけて頂ければ幸いです。お供しますので」
「うん、その時はよろしく」
ニコニコと見つめ合う二人の少女。千司は二人の関係性が良好に進行しているのを確認すると、小さく咳払いをして注目を集める。
「それじゃあ何はともあれ、暫しの別れだな二人とも」
「うん、出来るだけ早く帰ってきてね」
「あぁ」
寂しそうな表情のエリィと、普段と変わらぬ笑みを湛えるアイリーン。
そんな二人に別れを告げて、千司は同所を後にするのだった。
§
夕焼けが王都を赤く染め上げる中、千司は宿屋に向けて足を運ぶ。整備された石畳には色濃い影が浮かび上がり、人の往来の数だけ前後左右に流れていた。
慣れた道を進むこと十分ほど。目的地にたどり着いた千司は久方ぶりとなる店主に軽く挨拶した後、借りている自室へ向かい——コンコン、とノック。
返事が返って来るのを待って開けると、そこには相も変わらぬ愛しき執事の姿があった。
「ただいま、ライカ」
「おかえりなさいませ、奈倉様」
数日ぶりとなるライカとの再会である。
彼の後方にはいくつかの資料が並べられており、千司が留守の間も王都や冒険者に関する情報を集めていたのが伺えた。
「そう言えば、セレンは来たか?」
「はい。数日前に顔を出されました。『急用ができて一足先に帰って来た、ここで奈倉千司を待て』と命を受けましたので、お待ちしていた形となります」
「なるほどね……っと」
千司は背負っていた荷物を下ろすと、目の前に立っていたライカを巻き込むようにベッドへと倒れ込んだ。
ライカは特段抵抗することもなく、千司に組み敷かれながらも淡々と確認を続けた。
「それで、本日はこちらでお休みになられるのですか?」
「流石に疲れたからな。王宮へは明日の朝向かう」
「畏まりました。では適当な時刻となりましたら起こしたいと思います」
「ん、ありがと」
感謝を述べつつ彼の頬に手を伸ばすが、ライカは抵抗しない。
押し倒された姿勢のままジトっとした視線で千司を見つめる。
「お疲れなのではなかったのですか?」
「まぁ、それはそれ。これはこれってことで」
「……せめて先にお風呂にでも――」
「大丈夫、気にしないから」
「……そうですか。では、奈倉様のご随意に」
小さくため息交じりに呟くライカ。
千司はその唇を奪い、執事服に手を掛けるのであった。
§
同日の夜。
千司は隣ですやすやと寝息を立てるライカを確認すると『偽装』を用いて部屋を後にした。向かう先は宿屋の受付。
見慣れた店主に金を握らせ「ここ数日であの執事を尋ねた者はいたか?」と問いを投げかける。
「いや特には居なかったな。精々兄ちゃんが連れてた……ほら、あの紺色の髪の女冒険者が来たぐらいだな」
(セレンのことか)
「それ以外は?」
「俺は見てねぇな。一体何だってんだ? 面倒ごとはやめて欲しいんだが」
「いやなに、留守の間に浮気されていたらと思うと心配でな。何もないならそれでいいんだ。この事、あの執事には内緒にしてくれると助かる」
「なるほどね。そういう事なら分かったよ。まぁあの顔だしなぁ~。心配するのも分かるぜ。誰にも言わねぇから安心しな」
「ありがとう」
適当にはぐらかし、店主に礼を告げる千司。本当はライカが王国の誰かと繋がっているかどうかを確かめるための質問だったが、この様子なら問題はないだろう。
一人納得すると、千司は宿屋を後にする。
次に足を向けたのは繁華街の方角。夜遅くまで営業している飲食店を横目に、人ごみに紛れながら『偽装』で姿を変え、そのまま裏路地へ。
薄暗い路地の中を進み、辿り着いたのは古びた一軒家だった。
そこは以前、ジョン・エルドリッチの妻子とミリナ・リンカーベルの婚約者を拉致監禁及び殺害した地下室を有する家である。
一軒家に近付くと——薄暗い夜の闇、そこに差し込む蒼い月光を浴びて、家の前にフードを目深にかぶった人影を発見した。
人影は千司の接近に気が付くと、何気ない動作で腰の剣に手をあてがい……しかしその正体に気が付くと嬉しそうに笑みを浮かべて、トテトテと走って抱き着いてきた。
「いひひっ、ドミトリー♡」
「待たせたな、アリア」
フードの下にあったのは亜麻色の髪を揺らすアイリーンの顔。しかし千司が『偽装』を解くと、久方ぶりに見る殺人鬼アリア・スタンフィールドの姿があった。
白と紫の入り混じった髪に、ぎざぎざの歯。ナチュラルにどこか狂気の混じった表情は、彼女が世紀の殺人鬼であることを現していた。
「それでアリア、どうだった?」
「いひひっ、問題ない。待ってるって」
「なら行くか」
そうしてアリアを連れて千司が向かったのは高級宿が並ぶ一角。その中のひとつに入って受付の横を通り抜けると、目的の部屋に到着した。
「アリアは外で誰も聞き耳を立てないよう見張っといてくれ」
「わかったぁ」
彼女が頷くのを待ってから扉をノックすると、中から返って来たのは間延びした返事。
「どうぞなのじゃ~」
気を削がれるような声に応じて入室すると、そこに居たのは一人の金髪のエルフにして千司の良き隣人でもある禁忌の魔女、ロベルタであった。
まるで童女の如き容姿にも関わらず、その年齢は千司の知る限り最高齢。
「久しぶりだな、ロベルタ」
「うむ! えっと、その姿の時は……ドミトリー、だったか? レストーで別れて以来じゃから……えっと、何日ぶりなのじゃ? とにかく元気そうで嬉しいのじゃ~!」
相も変わらずニコニコと純粋無垢な笑みを浮かべるロベルタ。実際には彼女が王都に到着した際にその姿を見かけていたが、彼女は気付かなかったのだろう。
ベッドの淵にに腰掛け、足をプラプラ揺らすロベルタ。その後方には、以前見かけた際にも居たエルドリッチの部下の姿があった。褐色の肌に、ストレートの銀髪。
「そっちはエルドリッチの部下だったな」
「はい。私の名前はキルル・ベルベット。エルドリッチ様の忠実なる部下であり、この度ロべちゃ——ロベルタ様の世話役を申し付かっております」
恭しく首を垂れるキルル。以前見かけた際はロベルタとかなりフレンドリーに接していたが、流石に上司の仕事相手と成れば違うらしい。
「
「気にしないでね、ロべちゃん」
「あー、悪いけど少しロベルタと二人で話したいから、席を外してもらえるか?」
「畏まりました。……それではロベちゃん、私は失礼します」
「う、うむ……なんか怖いのじゃ。お前頭おかしいのじゃ。最近の人間はこんな奴ばっかりなのか?」
「そんなことはないと思うが……っと、そうそう。外に一人居るが、俺の仲間だから気にしないでくれ」
「承知いたしました」
困惑するロベルタをよそに、キルルは千司とロベルタに小さく礼をした後、部屋を後にした。中々に個性的な人物である。
部屋に二人きりになったところで、千司はロベルタの対面にあった椅子に腰かけると、咳払いをしてから口を開いた。
「さて、早速だけどいいか? いくつか聞きたいことがあるんだ」
「うむ、もちろん構わないのじゃ。それでこの世の人類を皆殺しに出来るというのなら、妾は汝にすべての知識をささげることもいとわぬのじゃ」
「ありがとう」
感謝を口にしてからまず問うたのは、世間話という意味も込めて『遺跡』とそれに付随する疑問について。千司の問いかけに、ロベルタは顎に手を当てながら答える。
「ふむ……その『遺跡』とやらに行ったことが無いから確かなことは言えぬが、古代エルフの集落と見て間違いないのじゃ」
「そこには教会があったんだが……何かしら信仰の対象でもいたのか?」
「いや、エルフは基本的に王族を信仰するのじゃ。人の様に神や精霊を信仰することはないのじゃ」
「じゃあなんで教会何て物があったんだ?」
「わからんのじゃ!」
「……そうか」
元気のいい返事に、千司は仕方がないと自身を納得させる。ロベルタはその知識量こそ凄まじいが、それらを用いて頭を働かせることは苦手としている。だてに馬鹿を自称していない。
「実は教会には地下空間があってな、そこにはどういう理屈か不明だがダンジョンに続く巨大な扉があったんだ」
「……む? そっちは聞いたことあるのじゃ」
「本当か?」
「うむ、昔——童がまだ小さかった頃に聞いたことがあるのじゃ」
まだ小さいだろうが、というツッコミは飲み込み、耳を傾ける。
「それは信仰の扉なのじゃ」
「どういうことだ?」
「そのままの意味なのじゃ。信仰の対象に会いに行くため、空間を捻じ曲げる古代魔法を用いてダンジョンに繋げた扉なのじゃ」
「……? エルフが信仰してたのは王族なんだろう?」
「そうなのじゃ」
「なんでダンジョンに繋げるんだ?」
「ダンジョンに居るからに決まっているのじゃ~」
頭の中を疑問符が埋め尽くす千司であるが、冷静に思考を巡らせ……一つの言葉を思い出す。それはセレンが聞いたというヘリスト教幹部の言葉。
曰く、ダンジョンは『墓標』である、と。
加えて、思い出すのは十階層ごとに出現する人型のボスの存在。
これまでに千司が確認したのは十階層のアナスタシアと四十階層のグルセオだが、資料によると他のボスも人型である。
そしてグルセオがアシュート王国の騎士の制服を着ていたことを考慮すれば――。
「……もしかして一部の死んだ人間が、ダンジョンで復活することがあるのか?」
「そうなのじゃ。……知らなかったのじゃ?」
「そうだな……だが、ロベルタのおかげで新しい知見を得る事が出来た。ありがとう」
「別に構わないのじゃ~」
にこにこと楽しそうなロベルタ。
「それじゃあ、その扉の奥に続く階層に、エルフの王族が居たってことでいいのか?」
「そうなるのじゃ。と言っても、妾が小さかった頃の話。あれから何千年と経過していることを思えば、既に入れ替わっているかもしれないのじゃ」
ロベルタの説明を受け、千司は小さく息を吐く。
(要は死んだらダンジョンのボスになる人間がいる。それらは時間経過によって入れ替わるってことか。……糞どうでもいいな)
そんな思いはおくびにも出さず、千司は笑みを浮かべて口を開いた。
「大体理解できたよ。それで、先ほど言っていた空間を捻じ曲げて繋げる魔法? は、ロベルタは使えるのか?」
「ん~たぶん無理なのじゃ。あれは当時の知識人が幾十人と工夫して作り、使っていた物なのじゃ。その点妾はただ魔法が得意だっただけのエルフ。細かな術は知らんのじゃ」
「そうか。まぁ、仕方ないな」
「すまんのじゃ~」
申し訳なさそうな表情で足をプラプラさせるロベルタマジ幼女。
「それじゃあ次の質問なんだが……
次に問うたのは魔法陣にたびたび出てきた文言について。おおよその内容は推測できるが、認識との間に齟齬が生じると後々面倒になる事だけは確かである。
千司の問いかけに、ロベルタは淡々と答える。
「龍脈とは魔力の流れと、それが蓄積しやすい場所のことなのじゃ。基本的に魔力は世界中を流れているのじゃが、それが溜まりやすい場所があるのじゃ。妾が封印されていた場所然り、シルフィが監禁されていた闘技場の地下然り。半永続的な魔法陣を仕掛ける際は、龍脈の上で行われることが多いのじゃ」
「なるほど……」
「うむ。あとは、強力な魔法を使いたい時などに、魔力を持ってくるみたいな使い方をするのじゃ。何故魔力が溜まるのかは昔学者が研究していたような気もするが、妾はわからんのじゃ」
「そうか。教えてくれてありがとう」
想定通りの答えに千司は内心安堵。
これでメインの
千司が冒険者を始めた、最初の理由。
「最後に……実は、ロベルタに相談したいことがあるんだ」
「なんなのじゃ?」
小首を傾げるロベルタに、千司は口端を持ち上げて告げた。
「アーティファクトを作りたいと思うんだが、手伝ってくれないか?」
『アーティファクト』——それは『ロベルタの遺産』をはじめとした、他の魔導具とは一線を画す兵器のことである。
ロベルタは一瞬目を見開くが、すぐに平素の物に戻り、次いで頭に疑問符を浮かべながら足をプラプラさせる。
「そう言えば、レストーで別れた際もアーティファクトの作り方を聞いていたのじゃ。じゃが、結局できないという結論に至ったと妾は記憶しているのじゃが?」
「あぁ、そうだな。アーティファクトを作る魔法に必要なのは『対象となる人間』『術式と膨大な魔力』そして『大量の生贄』。このうちの膨大な魔力を用意できないってことで、前回は無理ってことになった」
「うむ」
「だが、思ったんだ。もしかしてそれはロベルタのやや子たち――つまりはトリトン君や、シルフィちゃんがアーティファクトにされた時のことではないか、と」
千司の言葉にロベルタは眉をひそめながらも首肯する。
「そうじゃ。妾は間に合わなんだ。気付いた時にはすでに遅く、奴らによってやや子たちはあのような姿にされてしまったのじゃ」
「つまりそれは、複数人を対象にした魔法だった、ってことで間違いないか?」
「そうなのじゃ。……あぁ、なるほど」
千司の言いたいことに気付いたのか、ロベルタは得心したように頷く。
「そうだ。つまり対象となる人間が一人だった場合、必要になる魔力も少なくて済むんじゃないか?」
「可能性は充分にある。……むしろ必然なのじゃ」
「ならば……試してみる価値はあると思わないか?」
「くくくっ……誰を、アーティファクトにするのじゃ?」
やや子たちを苦しめた方法で、誰かをいたぶれると知ったためか、ロベルタの顔が好色に歪む。まるでおもちゃを前にした子供の如く、無邪気に、純粋に、ただ見ず知らずの誰かへの八つ当たりに歓喜している。
そんな彼女に千司は首肯を返す。
「そうだな……例えば、勇者をアーティファクトにしたら、どうなるんだろうな?」
「それは素晴らしい提案なのじゃ。素体が勇者ならきっと素晴らしい力を宿し、全人類虐殺の手助けとなるのじゃ……っ!」
キラキラと目を輝かせたロベルタは、頬を紅潮させながらぴょんとベッドから飛び降りると、千司の前までやってきて、背伸びをしながら頭を撫でる。
「
「そこまで褒められると流石に照れるな。でも、それもこれもロベルタの知識と子供たちを思う心があってこそだ」
「うぅ~汝は褒め上手なのじゃ~♡ 世界の最後を共に見れるその日まで、一緒に頑張るのじゃ♡」
「だな」
楽しそうに笑みを浮かべるロベルタ。
そんな彼女を見つめながら千司は胸中で笑みを浮かべ、今後の動きについて思考を巡らせるのであった。
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