第63話 水族館の意外な罠
休日だから水族館はそれなりに混んでいたけれど、しばらく並んでいたら無事に入ることができた。
最初の展示スペースはいくつもの柱状の水槽が集まっていて、そこにクラゲが入り、ブラックライトで照らされていた。
黒を貴重とした暗い空間で、そのなかでブルーやピンクやイエローのライトに照らされたクラゲたちが光り輝き、幻想的な雰囲気を作り出している。
俺は思わずつぶやいた。
「小学校のときに遠足できたはずなんだけど……」
「どうしたの?」
玲衣さんが不思議そうに俺に言う。
俺は微笑した。
「こんなにお洒落なところだったというイメージはなかったな」
「最近、雰囲気をだいぶ変えたんだって。どう見てもデートスポットって感じだよね」
くすっと玲衣さんが笑った。
たしかにそのとおりだ。
玲衣さんがここに来たいと言った理由がわかったような気がする。
そのとき、玲衣さんが俺の手に指を絡めて、甘えるように俺を上目遣いに見た。
「わたしたちもデートしてるんだよね」
「うん」
俺が微笑むと、玲衣さんも嬉しそうに頬を緩めた。
……ただ、ちょっとだけ問題がある。
玲衣さんに言ったものかどうか迷うのだけれど。
俺は玲衣さんの白いタートルネックの服の、胸のあたりを見た。
「その……玲衣さん」
「なに?」
「下着が透けてる」
「え?」
玲衣さんは慌てて自分の胸元を見て、さっと顔を赤らめた。
なんでそんなことになっているかといえば、ブラックライトのせいだ。
白いタートルネックの内側に来ている下着が、ブラックライトに照らされて光って、変なふうにはっきりと浮かび上がってしまっている。
前に本で読んだことがあるのだけれど、洗剤の一部には蛍光塗料が含まれているそうで、それがブラックライトに反応しているんだと思う。
玲衣さんはさらにスカートの下のパンツも含めて、上下ともに下着が光って透けている事に気づいて、ますます顔を真っ赤にした。
「み、見ないで! 晴人くん!」
「う、うん」
俺は目を泳がせた。
玲衣さんも言っていたけど、一緒にお風呂に入ったこともあるのに、いまさらな気もしなくもない。
でも、玲衣さんにとっては予想外だったんだろうし、こういう状況だと恥ずかしいというのもわかる。
玲衣さんは涙目になりながら、俺を見つめ、それから意を決したように急に俺に近づいた。
次の瞬間には、玲衣さんが真正面から俺に抱きついていた。
「あ……あの? 玲衣さん?」
「こうやって密着すれば、晴人くんもわたしの下着は見れないでしょ?」
「そうだけど……」
俺にとってはこっちのほうが恥ずかしい気がする。
玲衣さんの胸の柔らかさを感じながら、俺はさっきまでその玲衣さんの胸が光っていたんだよなあとぼんやりと考えた。
玲衣さんの甘い香りがふわりと漂う。
このままずっとこうしていたいような気もする。
でもそういうわけにもいかないし、移動するときは離れることになるから、下着が透けているのを見てしまうことになる。
それに、今の状態でも他の客からは玲衣さんの下着が光って見えているわけだ。
なんとなく多くの視線を感じる。
玲衣さんは誰の目から見ても美少女だし、銀髪で白く透き通った肌の外国風の見た目でもあるから、かなり目立つ。
そんな子があられもない(?)姿だったら、注目を集めても当然だ。
他の男に玲衣さんが見られているのは嫌だな、と俺は思い、玲衣さんに「次の展示に行こう」と提案した。
でも、玲衣さんはふるふると首を横に振った。
「もう少しここにいたい」
「でも……」
「クラゲも綺麗だし……晴人くんもあったかいし」
玲衣さんは俺の胸に頬を寄せてしなだれかかった。
たしかに、玲衣さんの暖かさを感じているのも悪くない気がする。
周りの視線は気になるけど、他にもカップルは大勢いる。
それに他の男が見ているにしても、今、玲衣さんを抱きしめているのは俺だけなのだ。
俺はそっと玲衣さんを抱きしめ返すと、玲衣さんは「ありがと」と小さくつぶやき、綺麗な笑みを浮かべた。
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