17─赤い鳥とルベリオン─
キュラスについての今までの見解は元々自然発生した極寒地帯が拡大され今のキュラスとなったというものだ。
だがオーギュストの中ではその考えは脆く崩れ去った。本来のオーギュストの性格ならば夢と現実を結びつける事はなかっただろうが、否定するには合致していることが多すぎた。
「過去視? 遠い土地には伝承が残っているとは聞くが、俺がそんなものを出来る訳が無いしな…」
深い溜息と共に改めて少女に目を向ける。
「歌が聞こえて彼女は家を出た、それで…どこに行ったんだ?」
オーギュストは少女がなにかに止められたように戻ってくる場所にたち、周りを見回してみるが、視界にうつるのは白ばかり。
そもそもなぜ彼女は同じことを繰り返すのか。それを逆に考えるならばなぜ彼女の行動はそこで途絶えたのか。
オーギュストは勝負に出た。彼女が足を止めた場所から真っ直ぐに進む事にしたのだ。白銀の世界を見つめ、歩み始めた。
何かがあると確信していた訳では無い、だが、何か理由はあってもいいはずだと思っていた。あの少女にオーギュストは見えていない、干渉することもきっと出来るわけは無く、疑問に答えてくれることも無いのだろう。
キュラスが元から存在しなかったのならキュラスができた理由があり、少女が繰り返せことにも理由がある。
そして少女が待ち続けるキールはなぜ帰ってこないのか、その理由も。
──────幾らか歩いた頃だ。目の前に大きな氷が見えた。今までにないほど大きな氷の中にはどうやら人がいるらしい。
腹に穴の空いた褐色の肌の青年は、苦悶の表情すらうかべることなく安らかに眠っている。いつの間にか後ろから着いてきていた赤い鳥は近くにある白の山に頭を突っ込んでいた。そして何かをくわえて、引きずり出そうとしている。
気になってオーギュストも手を貸すと、それは人だった。オーギュストが探していた、先に行ってしまったルベリオンだった。
「おい」
オーギュストが頬を叩いてもルベリオンは返事をしない。身体が冷え切っていてどこにも生が見つからない。
「嘘だろう」
震えるオーギュストの声に何時もなら馬鹿にした様子で返事をするだろうルベリオンは返事をしない。
表情豊かな整った顔立ちはなんの感情も浮かべずただ、そこにあるだけだ。
「…馬鹿すぎる、お前はいつもそうだ!」
オーギュストは怒るしか無かった。怒る以外にどう、この感情を表すか分からなかった。
「人の忠告も聞かず! 当たり前のように自らを差し出す!」
オーギュストとルベリオンは似ていた。似ていたが、他人に対する対応は真逆であった。オーギュストは関係の薄い他人に対し、決して全てを差し出してまで守ろうとはしない。ルベリオンは仕方ないなと笑って全てを差し出してしまうだろう。
だが、二人とも根本的なことは同じだ。
したくてしているのだ。誰かに言われた訳ではなく。
本能に近い感情で行動してしまう。
「…もう少しだったんだぞ、もう少しで! なにか掴める所だった!」
オーギュストは目の前の光景を受け入れるのを拒絶する。いつかの彼女のように。
目の前で倒れる存在を否定する。こんなのは“間違っている”と。
「っ」
けれど、彼女と違ったのは、オーギュストにはまだやらなくてはならないことがあったこと。彼の芯にはルベリオンだけでは無く恋人の存在がいた。
だから彼は足を止めるわけにはいかなかった。人の死は良く見てきた、騎士の仕事柄仕方無くではあったが。
だから死んでしまった者に何を言っても意味は無く、責めた所で誰も変わらない事は分かっていた。
だからこそ
オーギュストは一人、また歩き出した。
赤い鳥とルベリオンを残して。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます