5─魔術の天才─
雪が降り始めると人々は冬支度をした、家に
けれどそれは間違いであったと。
死するその瞬間にやっと知るのだ。
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ぱちぱちと奏でる火を見つめ寒さに震えながらルベリオンはゆっくりと少しづつ自らについて語りだす。
「僕、本当は養子になんて行きたくなかったんだ。母さん達とずっと一緒にいて父さんの仕事継ぐんだって思ってた」
小さなただの子供のルベリオンは突然与えられた才能に
「この歳になっても魔力が増えるのが止まらないんだ…止まっていっそ無くなれば母さん達の元に帰れるのに…僕の身長の代わりみたいに魔力だけが増えてって」
どうしてと考えたことは沢山あって。嫌だと思ったことも沢山あった。それでも頑張ってきたのは故郷に残してきた家族へ仕送りが許されていたからで。
でもそれもキュラスに飲み込まれてしまうことで絶たれた。
「助けに行くのも許されず、遺体すら探しに行くのも許されなかった…僕が魔術の天才で希少価値があったから…それでも仕方ないんだって諦めようとしたんだ…でも」
次にルベリオンから取り上げられることになったのは二つ上の義姉。ルベリオンが、養子に入ったことで義理の姉になったミルシェだった。
年老いた伯爵の後妻として彼女が選ばれてしまった。
「メードゥ家には後見が必要だった。まだ産まれたばかりの後継の…だからミルシェは嫁ぐことが決まって」
許せるはずがなかった。泣きじゃくるミルシェを見送ることなんて出来なかった。守りたいものが何一つ守れなくて。
「それでお前はどうしたんだ?」
静かなオーギュストの問いにルベリオンは泣きそうな笑みを浮かべた。
もう、我慢したくなかった。諦めたくなかった。家族を思い泣いてしまう夜は消えず、唯一本当に愛せた人はまるで捧げ物のように嫁がされる。
許せるはずがなかったのだ。そこだけは譲ってはならないと、頭よりも先に身体が動いていて。
「お得意の風魔術で伯爵をぶっ飛ばした」
周りの唖然とした顔は今でも思い出せる。あの清々しい気持ちは今思い返してもスッキリとする。
けれど。
「下が上に背くのはそういう事だって事だ、くだらない権力の前じゃ才能なんて意味が無い」
意味が無いのなら故郷に返してくれれば良かった。そうすればミルシェにルベリオンが淡い恋心を抱くことも無く。伯爵が恥をかくこともなかったのだ。
「キュラス探索…なんてさ、死刑の方がいっそ優しいよ…こんなに寒くて死にそうなのに死ねないんだもんね」
「義姉はどうしたんだ?」
「ごめんねって言ってたよ、ありがとうとも言って嫁いで行った…恥をかかした弟の姉なんていい扱いされないのにもう、泣きもせず」
すべきではなかった。正規法で取り返せばよかった。そう後悔したけれど。取り返せる確証も無いのに泣くミルシェを嫁がせることなんて出来なかった。
「いっそ憎んでくれればよかった」
そうしてくれれば辛い嫁ぎ先にも耐えれたかもしれない。でもミルシェはルベリオンを責めることは一度もなくただ笑って綺麗な姿で後妻として嫁いだ。まるでルベリオンは悪くなく自分に恋心を抱いている弟に泣いて見せた姉が悪いのだと言うかのように。
「才能なんて意味が無い…あっても肝心な所じゃ何の役にも立たない」
ルベリオンが吐き捨てるように言ったその言葉は少し震えていた。
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