第63話 紫鉄と名付けました!

 ドワーフたちを助けた次の日、朝っぱらから元気な声が響いた。


「やあなのじゃ! ヨシュアよ、紫鉄(してつ)を持ってきたぞ!」


 挨拶をしたのはユミルだった。

 自慢げに、後ろのスライムやゴーレムたちを指さす。


 彼らは紫色の鉱石を含んだ岩を持っていた。

 あのイリアでさえも硬いと評した鉱石だ。


 俺たちはこの鉱石を紫鉄(してつ)と名付けた。


「おお、ユミル。ありがとうな」

「どういたしましてなのじゃ! もっとたくさん運んでくるから、楽しみにしておるのじゃ!」

「ああ。でも、無理はしないでくれよ」


 ざっと見ただけだが、これで百本の剣は作れそうな量がある。他にも鉄や銅、石炭もあった。


 ドワーフたちは順調に鉱石を集めてくれているようだ。


 ただ、一つ心配なのは、俺たちの村とドワーフの洞窟が結構離れているということ。

 

 オークたちが逃げてきたのは、北で人間と戦って負けたからだろうし、この場所まで人間がやってくることも有り得そうだ。

 

 そんな中、スライムたちが鉱石や食料を運んでいたら、襲われる可能性もある。


 運搬をする者たちの護衛が必要かもしれない。

 南の炭鉱や天狗たちとの輸送も同様に。


 ここは足の速いメルクたち人狼に護衛隊を任せてみるか。


 彼らは腕力に優れているし、嗅覚や聴覚もいい。相手が大勢だと察知できれば、いち早く逃げられる。


 もちろんこれからも、斥候として狩人としても人狼には頑張ってもらう。


 とにかくこの件については、あとでメルクに頼んでみよう。


 俺がそんなことを考えていると、メッテが積みあがっていく紫鉄の鉱石を見て言った。


「おお、紫鉄がもうこんなに。ユミル、すごいじゃないか」

「ふふふ! もっと褒めるのじゃ! 次は、山ごと持ってくるからのう!」


 自慢げに言うユミルに、メッテは顔に笑みを浮かべた。


「楽しみにしているぞ。ところで、ヨシュア。これを使って武器を作るのか?」

「そうだな。でも、武器というよりは防具や盾を作りたい。城壁の外でも戦えるようにね……例えば」


 俺は早速、回収した紫鉄の鉱石を製錬し、全身を覆うプレートメイル、鬼人の背丈の高さはある盾を作った。


「おお! これは以前戦った男の鎧と盾に似ているな」


 メッテが言いたいのは、イリアが斬った騎士団のガイアスのことだろう。

 あいつはこういったプレートメイルと盾を装備していた。


「ああ。兜も作ればあいつみたいになるな」

「これを着れば、滅多に傷つくことはなさそうだな」

「魔法にも強いみたいだから、ある程度の無茶はできるだろう」

「なるほど。それに、結構軽いな」


 メッテはプレートメイルと盾を軽々と持ち上げてみた。


 鉄より軽いとはいえ、それなりの重さはあるはずだが……


「あとは、ゴーレムにこれを持たせてもいいかなと思って。この紫鉄でゴーレムを作ってもいいとは思うんだが」


 巨体のゴーレムがこの鎧と盾を持てば、滅多なことがない限りやられないだろう。

 それこそ、倒せるのはイリアぐらいになりそうだ。


 不死の竜を倒したときもそうだったが、彼らには常に危険な役を担わせている。

 彼らの装備増強も必要なことだ。


「あの岩の巨人にか? だが、さすがに足りるか?」


 メッテが言うと、ユミルが元気よく返した。


「心配いらないのじゃ! もっともっと掘ってくるのじゃ!」


 ユミルはそう言って、再びスライムとゴーレムたちと一緒に東へ戻っていった。


「明日には、本当に山ができていたりしてな……」


 俺は、呟くメッテに頷く。


「俺も負けてられない。いっぱい装備を作るとするよ」


 この後、俺は紫鉄でゴーレムの鎧と盾を作るのだった。

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