第10話 何者かが這い寄ってきました!?

 ラメラ―アーマーを作った後も、俺は持っている鉄を使い、短剣と槍をそれぞれ五つほど作った。


 短剣は解体のため、槍は狩りで接近された時のためだ。


 その後は、メッテ以外の鬼人五人にクロスボウの使い方を教えた。

 皆、メッテほどではないが、割と簡単に扱えるようになった。


 鬼人はもともと槍の扱いには長けていたし、ヘルアリゲーターぐらいならもう安全に狩れるだろう。


 俺はそうして、フェンデル村での初日を終えた。


「ふぁあ。疲れた……」


 今は比較的大きな天幕を案内してもらい、そこで寝ようとしているところだ。


 イリアたちは、上等な天幕を用意してくれたのだろう。

 天幕にはつぎはぎの毛皮が何枚も敷かれていた。


 だが正直言うと、獣臭くてどうにも寝れない。


 しかし、俺の枕となってくれているスライムのウィズが柑橘系の匂いを発した。


「おお、ウィズ……悪いな」


 ウィズはとても賢く、騎士団にいた時も俺の身の回りの世話をしてくれた。


 今も悪臭を感じたのか、体に含んでいたオレンジを溶かし、匂いを誤魔化してくれてるのだ。


「これならすっきり寝れそうだ……うん?」


 俺は天幕の外に、二つの影が映るのに気が付く。


 ……なんだろう。もう結構な時間のはずだが。え?


 その二つの影は、なんと俺の天幕に入ってきた。


「い、イリア? メッテ? ど、どうした?」


 すると、イリアが顔を真っ赤にして言う。


「そ、その……ヨシュア様のお世話をしようと思、まし、て」


 言葉を噛むイリアの前に、メッテが出る。


「……姫はやはりお帰りください。私がやりますから」

「で、でも、メッテはこういうこと初めてでしょう?」

「そ、そんなこと言ったら、姫だって初めてでしょうが!」

「でも、メッテはなんか……逆にヨシュア様を怖がらせてしまいそうで」

「……それ、私のこと馬鹿にしてます? ともかく、ここは私にお任せ下さい! 必ずや私が、ヨシュアをものにしてみせますから!」


 そういうことは、事前に打ち合わせておくべきじゃないかな……


 美女が二人、俺の前で恥ずかしそうにしてる。本音を言えば俺だって……でも、俺は本当にただの生産魔法師。どっかの誰かさんみたいに、偉そうにはしたくない。


「二人とも……そんなことしなくても、俺はしばらくここにいるよ」


 少なくとも、イリアたちが安心して暮らせるようになるまでは。

 それは安心して食糧が確保できるようになるだけでなく……


 そう伝えようと思ったときだった。

 突如、イリアが何かに気が付いたように周囲を見渡す。


「二人とも……何かが、こちらに迫っているようです」


 メッテもその音に気が付いたのか、静かに頷く。


「獣か……いや、こんな重い足音じゃない。十……いや、二十以上いる。まだ遠いが、こっちの様子を窺っているようだ。皆、二本足だな」


 俺には聞こえないが、鬼人は耳が良いのか、聞こえるようだ。


「奴隷狩りかもしれないな……」


 俺が言うと、イリアは真剣な顔でメッテに命令した。


「メッテ、すぐに戦の支度を!」

「はっ!」


 メッテは風のような速さで天幕を出ていった。


「俺も戦おう。きっと奴隷狩りの連中だ」

「ヨシュア様、ありがとうございます。私も戦います!」

「しかし、君は族長なんだろう?」

「ですが、私の紋章は【白鬼】……戦士の紋章です。武器さえあれば……あっ」


 イリアは思い出したように、腰に提げていた己の角を手にした。


「ヨシュア様、これを……武器にできないでしょうか?」

「……君の角を? でもこれは」

「持っていても、何の役に立ちません。でしたら、何かの役に」


 鬼人の角は、武具の素材としては最高の素材だ。

 魔力を吸収するので、火や風を扱うための魔法武器にもなる。


 なにより頑丈で、この角で鍛えた剣は、決して折れることはないと聞く。


 俺はイリアの持つ角を握る。


「……少なくとも、元の形にそっくりには戻せない。いいのか?」

「はい、お願いします……私も、皆を守るための力が欲しいのです」

「分かった……」


 俺はイリアから角を受け取ると、それを魔法工房に吸収した。


 形は……先程の鎧の参考にした絵、その人物が持っていた長い刀でいいだろう。


「クラフト──エンハンスドブレイド」


 エンハンスドブレイドは、魔力を宿す材質を使った刀である。


 この武器は素材の質だけでなく、生産魔法の腕前にも宿せる魔力が左右される。


 つまり出来栄えは、俺の技量が試されるわけだ。


 一族を守りたい……力がほしい。

 そんなイリアの願いのためにも、俺は自分の持てる全ての魔力で、刀を鍛え始めた。


 どんな硬い金属も、どんな敵も斬れるように……決して、折れることがないように。


「……できた」


 俺の手に、美しい白銀の刀が現れた。

 細く軽いが、しっかりとした刀だ。魔力が集まるのも分かる。


 俺は出来上がった刀を、イリアに差し出した。


 イリアは心を奪われたように、その刀をじっと見つめた。


「これが君の武器だ。火よ宿れと念じれば、火も宿せる……魔法の武器だ」


 何も言わず、イリアはその刀を受け取った。

 刀に、外に浮かぶ月の光が映える。


「ありがとうございます……私はこの武器で、皆を守ります」


 イリアの宣言に、俺は深く頷く。


「……ああ。それじゃあ、俺たちも行くとしよう」


 俺とイリアは天幕の外に出て、メッテたちと合流するのだった。

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