08話.[そう思ったのだ]

 今日は放課後に掃除があったから綺麗にしていた。

 教室前の廊下、空き教室、トイレ、階段、4箇所もしてしまいすっかり外は真っ暗に。


「ユウ」

「はーい」


 夜道を歩くのは少し怖いからこうして頼むようになっていた。

 夜だというのに器用に本を読みながら横をふわふわしてくれている。


「ねえ、やっぱり体が欲しい?」

「え? あ、いいです、色々と不便ですからね」

「でもさ」

「本がいつでも読めなくなるのは嫌です」


 もし普通の学生をできていたら変わっていたんじゃないのかって。


「愛海さんがはっきりアピールしてくれたじゃないですか、なに不安になっているんです?」

「愛海は関係ないよ。でも、ユウがこの体を使って自由に行動したいかなって」

「結局それは愛海さんたちが求める姿ではないんです」


 そうだけどさ……。

 完璧に私を演じようとすればきっと……いや、無意味か。

 仮にそれであっさり愛海が信じてしまったら複雑だ。


「余計なことを気にしていないで早く帰りましょう、ちょっと寒いです」

「あ、そういうの感じるんだ」

「はい、段々と冷えてきていますからね」


 ユウは「どこかの誰かさんが気軽に利用してきて困っています」と口にした。

 申し訳ないことをしているとは思っているが、こうでもしていないと普通に怖い。

 その点、こうしてぺらぺらと喋っていたら不審者の方が怖がることだろう。


「ただいま」


 とりあえずお風呂に直行。

 掃除で汚れたし、汗もかいたから。


「秋でも律儀に汗が出るのは不思議だな~、っと」


 髪や体をしっかり洗ってから湯船にどぼん。


「あふぁ……」


 この瞬間が最高だった。

 お腹が空いたときの食事ぐらい最高。

 

「ユウもおいで」

「そうですね」


 この温かい最高の空間を前に変に難しい話はいらない。


「あの、私も美咲さんのことが好きなんですけど」

「嘘つき」

「む、嘘ではないです」


 べつに自分が好かれるわけがないなんて悲観しているわけではなかった。

 でも私は本人から聞いたんだ、愛海といるのが楽しいって。

 瑠奈もそうだ、恐らく私がいなければ愛海と頻繁にふたりきりでいたと思う。

 が、私はこんなに悠長にやってしまっているわけで。


「愛海さんに告白してあげてください」

「しなかったら?」

「しなかったら私が美咲さんを取ります」


 それはそれで悪くなさそうだけど。

 ユウは本当によくしてくれている、だからこそ少しはって私なりに提案したのだ。


「もしかして告白してほしいとか考えているんですか? 意外に乙女ですね」


 微妙そうな表情を浮かべながら「普段無表情なのに」なんてぶつけてくれる。

 私だって好き好んで無表情でいるわけじゃないわ、なんかいまさらになって笑うのはおかしいかなって色々と戦っているんだよ。でも、愛海が笑ってくれているのにつまらなそうな顔をするのは申し訳ないとかって考えもあって、自分で自分を疲弊させているのだ。

 なんでユウにもできることを私ができないのか、もっと興味持てよ私!


「はい、愛海さんになりましたよ」


 この嫌な点は体つきまでそのまま愛海になること。

 なんか卑怯なことをしているみたいで罪悪感がすごい。


「やめてよ、ここで言うぐらいならこの後愛海にちゃんと言ってくるから」

「わかりました、それなら告白できるまで帰ってこないでくださいね」

「で、できるよ、ユウは本でも読んで待ってて――あ、でも終わった後は……」

「はぁ、わかっていますよ、あなたぐらいですよこんなに私を利用してくるのは」


 ふぅ、なんとも思っていない相手にならキスなんて冗談でもしない。

 おまけに1度過去に奪われているんだ、ファーストじゃないのになぜあそこまで照れたのか。

 歩きながら愛海に連絡をして家に向かう。


「はーい、あ、美咲ちゃん」

「ちょっといい? 家じゃなくて外で話したいことがあるんだけど」

「大事な話なの?」

「うん、私と愛海の今後に関わること」


 入浴後だからちょっと冷える。

 できるだけ早く済ませて家に帰りたい。


「お金、とかいらない?」

「うん、ここでもいいよ」

「いや、ちょっと公園とかに行こっか」


 愛海が望むならと了承し移動開始。

 ちょっとでも不安を紛らわすために愛海の手を握っていた。

 彼女の手はいつだって温かくていい――はずなのに、なぜだか今日は冷たくて困ってしまう。

 逆効果だったのかもしれない、上手くいかなかったらまじに泣くけど。


「ちょっと冷えるね」

「愛海もお風呂後だった? ごめんね」

「ううん、こうして会えるの嬉しいから」


 さあ、こんな世間話みたいなことをしている場合じゃないぞ。

 言うんだ、嫌いなんて好きの裏返しでしかないんだから素直になれ。

 いつでも愛海にだけは側にいてほしいと願い続けてきた自分だ、恥ずかしいことではない。

 寧ろここで臆してこのままなんてことのない会話を続ける方が恥だ。

 大体、ここでちゃんと言わないと家に帰れないんだよっ。


「愛海――」

「美咲ちゃんのことが好きなの」


 え、これはそういう風にカウントされるの?

 ユウを呼んで判断してもらう、そのユウは不機嫌そうに本を読んだいたが。


「まあ、いいんじゃないですか」

「えぇ、せっかく勇気出してここまで来たのに」

「でも、告白される側になって嬉しいですよね?」


 愛海からしてもらうのは嫌だったから自分でしたかったのに。

 こちらが勇気ないみたいだし、おまけに愛海は告白される側だろう。

 おまけにこちらが愛海を振り向かせたい側なんだ、なのに最後は相手任せってそりゃあない。


「むぅ、告白の返事もしないでなんで他の女の子と仲良く話しているのかな!」

「幽霊に嫉妬しないの、ねえ?」

「そうですよ、もっと余裕がないと美咲さんの相手は務まりませんよ」


 それじゃあ私がまるで問題児みたいじゃん。

 内の複雑は置いておいて、こちらも好きだと答えておいた。


「さてと、帰りましょうか美咲さん」

「うん、愛海を送ったらね」


 寧ろこんなことは必要なかったのかもしれない。

 わざわざ好きだと伝え合わなくたって私たちはお互いにアピールしまくっていた。

 なんならダイレクトにぶつけた、キスされてよかったとか。

 それは不安と同時にこの子は私を好いてくれているという謎の自信があったから。

 好きでもなければ手をつないでほしいとか絶対に言ってこないよねという話。


「それじゃあねっ、私のこ、恋人さんっ」

「うん。じゃあね、私の恋人さん」


 なんともまああっさりと終わってしまったもんだ。

 帰り道を歩いている最中、ユウがちらちらとこちらを見てきていた。


「私、もういる意味ないかもしれませんね」

「は? 消えるとか許さないからね?」

「……お邪魔じゃないならいますけど」

「邪魔じゃない。ちゃんといてよ、いてくれないと呪うから」


 彼女は呆れたような声音で「それは私がする側です」と呟く。

 私も確かにそうかと納得してそれ以上はなにも言わなかった。

 仮にここで呼んでいなかったら勝手に消えていたんじゃないのかという不安。

 勝手に縛り付けるのが残酷なのだとしても、私はもうユウのいない生活に耐えられない。

 仲間外れは嫌なんだ、自分がそうなるのも、自分の知っている誰かがそうされるのも。

 嫌になったらまた愛海とか瑠奈のところに行ってくれればいい、消えてさえくれなければね。


「ユウ」

「なんですか?」

「帰ったら一緒に本を読もっか」

「ふふ、面倒くさいご主人様に付き合ってあげますよ」


 あとわがままな、だけれども。

 消えてしまったら困るからしょうがない。

 愛海と上手くいったことと、普通に好きなユウと一緒にいられる幸せでついつい夜ふかしをしてしまったのだった。




「おめでとう」

「うん、ありがとう」


 愛海が用事があって帰ってしまったので瑠奈の部屋に来ていた。

 ユウはいつでも呼べるから先に帰ってもらっている。


「う……重い……」

「あはは、ルナはすっかり気に入っているようだね」


 ルナちゃんは私の頭の上で固まったままだった。

 尻尾が長いからかなり怖い、慣れていない相手にはこれで攻撃するみたいだし。


「瑠奈も消えたりしないでよ?」

「消えないよ、残念だけど引っ越しすることはもう当分ないからね」

「残念じゃないよ、瑠奈とユウもいるのが私の日常なんだから」

「わがままだね、美咲は」


 喋れないこともないけど友達がこの3人だけだからだ。

 その友達との時間を大切にしようと考えるのはおかしくないはず。

 だから瑠奈やユウにもそういう風に思ってもらえたらいいなと考えていた。


「本当はさ、わたしが愛海と仲良くしたかった」

「え、でも、それはできないって……」

「うん、美咲のことが大好きだってわかったからだよ」


 ユウではなく瑠奈に聞くべきだったか。

 他の子といる時間を増やしていたのはそういうことだったのかといまさら気づく。


「ルナ、おいで」

「いた……」


 ジャンプしたものだから頭に爪がズビシと食い込んだ。

 なるほど、むかついたから敢えてこのタイミングで呼んだんだ。


「でも、それとこれとはべつ、美咲を恨んだりとかはしてないから安心して」

「うん」

「それにさ、美咲に興味があったんだよ」


 彼女はルナちゃんを高いところに戻してから近づいてきた。

 お互いの距離が短くなる、少し、また少しと埋められていく。


「もうキスしたんだよね?」

「うん」


 あれだって本当は自分からしたかった。

 愛海が積極的に動いてくれるのは嬉しいが、あの子にはされる側であってほしい。

 だってめちゃくちゃ恥ずかしいんだ、されると頭がぼーっとするし、全身が熱くなるし。

 仮にこちらからしても同様の症状が出るとしてもそれは違うと思うんだ。


「いいなあ、わたしにもしてよ」

「できるわけないでしょ」

「冗談だけど、ただ」

「抱きしめるのだけはさせてくれって?」


 耳元でため息をついてから「わざわざ言わないでよ、意地悪」と囁かれてしまった。

 そう言われても愛海から見たら浮気みたいなものだからね、なるべく自衛しなければね。

 不可抗力、気づいたときには避けようがなかったということにしておけばセーフ。

 しかもこちらからは抱きしめてないんだから愛海への愛はちゃんとあるつもりだ。


「あの子とはどうなの?」

「……あの子には悪いけど、美咲や愛海を見ていると苦しいよ」

「それはごめん。でも、変な遠慮とかしないで」

「しないよ、わたしが邪魔し続けてやる、ふたりきりにはさせないから」

「そもそも学校では瑠奈も来てくれないと困るよ」


 あとユウもね。

 ふーむ、でもそう考えると受け入れる能力が高すぎるな私たちは。

 だって幽霊だよ? ふわふわしているし、他者からは見えない存在。

 なのに明るいし、文句言うし、悲しむし、本を読むのが大好きで、お喋りも大好きで。

 消えるなんて許さない、65歳まで生きられればいいからそれより上の歳の分は生気でもなんでも吸ってくれればよかった。勝手に消えたりなんかしたら血涙を流して呪うと思う。


「美咲、これから1日1回、抱きしめさせてよ」

「約束はできないよ、浮気になっちゃうし」

「……無理やりだったらいいの?」

「なんにも言えないって、それに関しては」


 絶対に愛海にはしてほしくない。

 あの子を抱きしめられるのは家族か私だけでいい。


「今度さ、ふたりきりで喫茶店にでも行こうよ」

「なんでふたりきりなの……」

「だって、美咲といたいし……」

「愛海とじゃなくて?」


 こくりとうなずかれてしまいこちらは黙ることしかできず。

 愛海への愛を試そうとしているのかもしれない。

 勝手なことはできないから愛海に許可を貰えたらねと答えておく。

 ただ、それであっさり許可を貰えてしまったら微妙な気分になるだろうなと予想した。


「ルナちゃん、おいで」


 部屋主が黙ってしまったから高いところでじっとしていたルナちゃんを呼ぶ。

 すごい、私が呼んでも反応して来てくれるってかなり優しい子みたいだ。

 今度は頭ではなく肩に乗ってくれた、ここなら突き刺さらなくていい。


「瑠奈、ルナちゃんに触ってもいいのかな?」

「うん、大丈夫だと思うよ」


 まだこの子に任せていただけでこの子に1度も触ったことがないのだ。

 上からはなんかよくないって書いてあったから下から慎重に手を近づけてみた。


「あ、舐めてくれた」

「それは確認のためだけどね」

「でも、なんか嬉しいな」


 過度に触ることはせずにそのままにしておく。

 うーん、本当にあんまり動かないんだなというのが正直な感想。


「いいなあ、私もルナみたいに美咲に甘えたいな」

「さっき甘えてたじゃん」

「そもそもさ、付き合っているのに他の女の家に簡単に来ちゃうのが駄目なんだよ」

「べつに友達の家にぐらい行くでしょ」


 同じ量の愛は注げないけど大切なことには変わらない。


「お願いっ、化粧だってしてないんだからっ」

「はぁ……」


 ルナちゃんだって飼い主がいた方がいいからと両腕を広げる。

 そこに一切躊躇なくダイブしてきた、なんでこの姉妹にはなぜか懐かれているなあ。


「というか、そういうことだったんだ」

「化粧……?」

「うん、なんか意外だったんだよね」


 部屋にすぐに来なかったのはそういう理由があったと。

 わざわざ好きな化粧を落としてくるなんて私のことが好きすぎる。


「いだっ」

「ははは、ルナちゃんの爪が突き刺さってるね」

「これってもしかして邪魔するなって言っているのかな? ……家族はわたしなのにぃ」


 まあでも、何度もここには来たいと思う。

 ルナちゃんのことはもう好きになっているし、ルナちゃんもまた求めてくれるだろうから。

 あとはあれだ、この寂しがり屋のご主人様の相手をしてあげなければならないからね。

 その場合は愛海に言うけど、多分愛海に言ったら付いてくると思うけど。


「はぁ、だけどルナの気持ちもわかるよ、わたしも美咲のこと好きだもん」

「特になにもしてなかったじゃん、寧ろ一緒にいた時間の方が少なかったけどね」

「愛海がいなければわたしが貰ってたよ」


 愛海をじゃなかったのか、困った友達だ。


「る、ルナ……痛いよ」


 それでも攻撃をやめない。

 試しに彼女を離してみたら落ち着いて私の肩に座ることに専念しているように見えた。

 これはもしかしたら私のほうが気に入られている可能性もあるが、勘違いしないでおこう。

 私の肩は座りやすいのかもしれない、瑠奈のはなで肩だから居づらいだけなんだ。


「ルナちゃん、あの子のところに行ってあげて」


 偉いな、私より言うことを聞いていい子だ。


「なんか複雑なんですけどっ」

「気にしないの、ルナちゃんが来てくれたんだから」


 さてと、いつまでもここにいるわけにはいかないし帰ろう。

 結局ルナちゃんを抱いて幸せそうな顔をしている彼女を放置して家から出た。


「ユウ」

「はぁ、自由にしておきながら使い方が荒いですねえ」

「ごめん、帰ろ」


 元々家にいた云々とぶつけられてしまい苦笑。

 しょうがない、みんなの相手をしておかないとちくりと言葉で刺されてしまうからだ。

 家に帰ったらある程度ユウの相手をして、母の手伝い、その他必要なことをして愛海と通話。

 意外と忙しい毎日だが、これぐらい暇な時間がない方が自分に合っていると思う。


「え、抱きしめられた?」

「うん、なんか寂しそうにしていたからさ」

「うーん、なんかもやもやするけど、言ってくれてありがとね」

「うん」


 私たちはその後、自然に集まっていた。

 恐らくこちらに罪悪感が、向こうにはもやもやがってだけなんだろうけど。


「瑠奈ちゃんには悪いけど、してほしくないなあ」

「でも、あからさまに寂しそうな顔をされるとさ」

「今度からは私も行くよ」

「うん、そうしてくれると助かるかな」


 どんなに頑張ったって私が愛海の彼女であることには変わらない。

 けれど、仲間外れみたいにするのも嫌なんだ。

 だってわざわざ好きだと言った素を見せてくれているわけだし、応えたいとも思う。

 きっと愛海と付き合う前だったら自由にしていいよって受けいれている、かもしれない。


「ルナちゃんが私に慣れてくれててさ」

「え、いいな、私なんてまだ触れたこともないよ」

「それは愛海が寝ているからでしょ? あの部屋は温かいからしょうがないかもだけど」


 本当にルナちゃんのことを第一に考えていることが伝わってきてその意味でも温かくなる。


「私も美咲ちゃんに甘えたい」

「瑠奈と同じこと言ってる」

「むぅ、ちゃんと注意しておいた方がいいかな……?」

「大丈夫でしょ」

「取られるかもしれないって不安になるんだから……」


 こちらから抱きしめるのは愛海だけだ。

 それがちゃんと伝わってくれたのか、愛海も抱きしめ返してくれて好きだと言ってくれた。




 加納先生は嘘つきだった。

 発表しなくていいとか言っていたくせに、結局発表させられた。

 特に緊張はしなかったものの、精神が疲労して休むことを余儀なくされた。


「加納先生、嘘はよくないと思いますが」


 ある程度休ませた後――放課後に職員室に突入。

 ここはある程度静かだからなかなかに居づらい場所だがしょうがない。


「いやあ、サプライズ性があっていいだろう?」

「駄目です、次はしないでくださいね」

「わ、わかったからその目はやめてくれ……」


 特に意味はないが廊下に連れ出す。

 それから図書室に連れて行って片付けを手伝わせることにした。


「なあ、当たり前のように教師を使うのはどうかと思うが……」

「気にしないでください、さあ、ほらやりましょう」

「そもそも中川は図書委員じゃないだろう?」

「頼まれたから代わりにやっているんです」


 にしても、あの子たちの一生のお願いという言葉ほど信じられないのはないな。

 そうなったら潔くニ生のお願いとかって数字を変えていく方がいい。

 ある程度終わらせて窓の外を見たらもう真っ暗だった。


「早くなったな」

「そうですね、ちょっとでも残ったら真っ暗ですもんね」

「榎本はどうしたんだ?」

「あ、教室で待ってくれているようです」

「それなら後は私がやるから行けばいい」

「いえ、私が頼まれたことですからね」


 それにここまでやっておきながら最後はしないなんて中途半端なことはしたくない。

 それから10分ぐらいして全てを終わらせた、加納先生にお礼を言って教室へ向かう。


「あれ、愛海寝ちゃってるのか……」


 起こすべきかどうか、真剣に悩んだ。

 恋人の可愛い寝顔を見ているとなんかいたずらしたくなる、もうハロウィンなのも大きい。

 いや、風邪を引いてしまうから起こして帰ろうとしたときだった。


「美咲ちゃん確保ー!」

「もう……起きてたの?」


 もう呆れて笑うしかできない。

 たまにドジで、たまに茶目っ気があって可愛いけどさ。

 そんな彼女は「うんっ、美咲ちゃんが来た瞬間ね!」なんて口にして笑っていた。

 手をつないで帰ることにする。

 やっぱりいつだって愛海の手は温かくていい。


「大事な話って言った日にさ、冷たかったけどなんで?」

「だ、だって告白しようとしていたし、振られたら嫌だなって思って」

「私から告白しようとしてたのに」

「でもそれはユウちゃんに煽られたからでしょ?」

「違う、そろそろ言わなきゃなって思ってんだよ」


 寧ろこちらの方がずっと好きだった。


「愛海のこと好きだよ」

「私も美咲ちゃんのことが好きっ」


 これからもこうやって言い合っていけたらいい。

 仲良くしていればできるだろう、これまでもずっとやってきたんだから。

 こちらの手に頬ずりをしている彼女を見ながら、私はそう思ったのだった。

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