第43話 オシャレ

父さんから『招待試合をしに行く』と聞いた数日後。


バイトに行き、予定がわかると同時に、ふと奏介のシルエットが頭に浮かんでいた。


服も買ったし、予定も分かったから、奏介と日程を合わせるだけなんだけど、どうしても連絡することができず。


どうしようか迷いながら自宅に帰り、夕食後にシャワーを浴び、何も決まらないまま自分の部屋へ。


『どうすっかなぁ…』


そう思いながらふとスマホを見ると、奏介からラインが来ていた。


【カズ兄さんから、今日シフト渡されるはずって聞いたけどどうだった?】


『何教えてんの…』と思いながらも、バイトの入っている日をラインで送る。


【じゃあ、12月24日か25日。 招待試合あるから、その辺りなら練習もないっしょ。 ボコられて顔がはれてたら、年明けにしようぜ】


なんでこんなに積極的なのかもわからないまま、断る理由もなく、少し間を開けて了承をしていた。



招待試合当日。


ジムの前に全員が集合すると同時に、父さんの車で広瀬ジムに向かっていた。


凌君が奏介に「行きにくかったりする?」と聞くと、奏介は「全然。 広瀬はほとんど行ってなかったし」と、平然と答えていた。


父さんの車に乗り込み、広瀬ジムに向かったんだけど、ロゴの入った真新しい看板と、白い4階建ての建物を見て『さすがブルジョア…』と思っていた。



駐車場に車を止めた後、みんなとビルの1階に入ると、そこにはホテルのような受付があり、すぐ横にはバーカウンターまでもが完備されていた。


『本当にジム?』と疑いたくなるような光景を目の前に、ただただ呆然としていると、奏介が「階段で行ってみるか?」と切り出してきた。


みんなはエレベーターで4階に案内され、奏介と二人、階段で4階に向かっていたんだけど、途中で3階を覗いてみると、ピンクと白を基調としたフロアには、エアロバイクやバランスボール、トレーニングマシーンが立ち並び、一部の壁は全面鏡になっていて、多くの女性が汗を流していた。


『…マジっすか』と思っていると、奏介に腕を引っ張られ、4階に向かう。


4階は黒と明るいシルバーで統一され、サンドバックやパンチングボールの上にはスポットライトが設置されているし、広瀬は訓練生も集めているのか、観戦者数もこっちの3倍以上いる。


『なんじゃこの人数とオシャレ空間…』


そう思いながらも、桜ちゃんと二人で2階の更衣室に行くと、木製のロッカーが立ち並び、シャワールームとウォーターサーバーまでもが完備されている。


父さんのジムとは全く正反対のオシャレな空間に、ただただ呆然としていた。


「あれ? 千歳ちゃん、広瀬は初めてだっけ?」


「うん。 広瀬がブルジョアだって言うのはカズ兄から聞いてたけど、ここまでオシャレとは…」


「確かにオシャレだけど、私は英雄さんのジムの方が好きだなぁ。 昔ながらのジムって感じで居心地がいいし、会費も安いし。 広瀬の一番高い会費、うちの5倍なんだよ」


「ほえぇ~」と言いながら着替え終え、更衣室を出て4階に向かうと、当然のように春香がベンチに座っていて、それを見ただけでイラっとしていた。


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